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宮ラブ 〜後宮入りは、全力で阻止します!〜  作者: 無乃海
終章 初恋の行方
74/123

68。狙われたモブキャラ

 タイトル通り、モブキャラ危うし…。

 流水が必死に邪神竜に抵抗し、怜銘に逃げるようにと訴えかけている間、怜銘以外の者達は、どうしていたのかと言えば…。


愁水は流水の様子を見て、身動きが出来ない状態で固まっていた。あの時の流水が消えた時の光景と、ダブって見えて…。完全にフラッシュバックをした愁水には、流水が怜銘に逃げるように叫んだ声も、()()()()()()()()()()()()()ダブって見えたことで、頭にダイレクトに響く声に反応せず…。


蓬花と涼風は、生まれて初めて知った流水の存在に、ポカンとする。決してそういう場面ではないけれども、初めて見る幽霊(※この国ではキョンシーと呼ぶ)を見て、また流水があまりにも皇帝や愁水に似ていると気付き、頭の中ではパニックになるほど戸惑う。どちらかと言えば、皇族の秘密にショックでもあり…。


隠密達も同様だ。流水を知っている者達は、当然以前も皇帝や皇子と共に、これに類似した光景を目撃済みだ。邪神竜の姿に怯むのも、魔術などの不思議な力には、自分達は全く歯が立たないと知っていたからだ。


逆に、流水の存在を知らぬ残りの隠密達は、どう見ても愁水の子供の頃という姿の幽霊に、今更驚いてはいない。最近、自分達の前を彷徨(うろつ)く幽霊だと判明し、以前からそれと無く察していたので。皇族が禁忌を隠しているのでは…と、既に気付いていた。要するに、双子という禁忌の決まりを無視し、双子が生まれた事実を世間に隠したことに…。


最近では禁忌も迷信だとする考えが、麓水国で広まりつつある。抑々、隠密達は皇帝の命令に絶対的な忠誠を捧げており、迷信なども然程は気にしていないものだった。皇帝がタブーを犯そうとも、自分達の()()()()()()()()()()()()


それほど皇帝や皇子に盲信している隠密達も、相手が幽霊だからと捨て置いた訳ではなく、例え相手が幽霊だとしても、彼らが守るべき皇族であるのは、間違いないことだ。但し、流水が愁水に攻撃した時点で、その純粋な想いも覆ってはいたけれども。今は崩御した皇子よりも、生きている皇子の方が大事であるものの、敵対する者と判断した流水がたった今、邪神竜に再び取り込まれそうな姿を目撃し、複雑な想いを浮かべ。


ここに来て怜銘を助ける行動を目にし、彼らが尚更複雑な心境でいたのは、無理もないことだ。彼らにとって、幽霊は生きた人間には関わらない、若しくは関わって来ない場合が多いという、軽い認識しか持っていなかった。


幽霊に自主的に関わりたいと思う筈もなく、また自分達では退治も封印も出来ない上に、皇帝に報告しても「今は、良い対策がない…」という返答ばかりで、彼らにはどうしようもない状態であった。


そういう事情で皆が皆、何かしらのショックを受けている。その所為で、行動に移せないほどに固まっていた。漸く金縛りが解けたかのように、愁水が自らの力を放つ。四阿で怜銘を助けるようと力を振るったように、今も同様に邪神竜に向けて、風の力を行使して。


唐突に突風が起こり、流水と邪神竜が居る部屋に、強風が吹き荒れる。まるで邪神竜ごと、空へ飛ばそうとするが如く、凄まじい風が下から上へとクルクルと、巻き上げるようにして。


それに対抗するように、蜷局を巻いた自らの体を邪神竜が大きく振れば、塔の天辺に当たり天井が空へと吹き飛ぶ。簡潔に言えば、天井に穴が開いたのである。天井に使われていた板や柱がバキバキと壊れ、宙へと吹き飛ばされていた。流石は、邪神竜の力というべきか。今までは壊さないように、気を遣っていたのかも…。


本来の怜銘ならば、のほほんとその光景を眺めていただろうけれど、これほどの化け物に自らの命が狙われるのかと、顔色が真っ青になる。天井が突き破られたことで、木の細かい破片が部屋の外にも飛び散り、これで我に返った護衛達は、愁水と怜銘を身を挺して守る為に動く。ところが、愁水は護衛を後ろに下がらせ、再び皇家の力を使った。今度は風ではなく、別の魔力を…。


その時、邪神竜が想像も出来ない行動に出た。塔の外にふわふわ漂うように空へと飛び出し、塔の部屋の中から出て行った。時空を超えて異世界に転生した怜銘も、目を丸くするほど驚いて。


…ええっ!?…邪神竜は、空を飛べるの?…それって、狡くないの?…乙女ゲームの設定にも、()()()()()()()()()…あったっけ?


怜銘は危うく声に出しそうになるも、何とか声に出さずに我慢した。蓬花も涼風も呆気に取られて集中力を欠き、他の何人かの護衛達も、今ならば怜銘でも攻撃が可能な隙が、出来てしまうほどに…。


愁水も一瞬、隙を作ってしまったものの、直ぐに我に返り邪神竜を追った。これには怜銘達も慌てて、後を追い掛けることになったのである。






    ****************************






 怜銘達が追い付く頃には、邪神竜と愁水は相見えていた。何方かと言えば睨み合う状態で、何方かが動けば直ぐに、一触即発という雰囲気だと思われる。怜銘を護衛する隠密達と蓬花と涼風も、怜銘と共に追いかけて来たが、皇子の護衛達は愁水が飛び出した時、慌てて後を追いかけており、彼女達より先に到着していた。


まるで…怜銘が到着するのを待っていたかの如く、邪神竜は愁水の存在をまるっと無視し、怜銘に向けて体を伸ばして来る。邪神竜は長い体を目一杯伸ばし、自らの体で巻き付いて彼女を捕まえようとした。


邪神竜の目的に気付いた涼風が逸早く動き、邪神竜の体を剣で切ろうとする。邪神竜の体は意外に堅いようで、剣は折れなかったものの、突き刺さることもなかったが。涼風は剣が刺さらないことで体勢を崩し、尻尾と思われる体の一部で、そのまま後方に吹き飛ばされてしまった。涼風は宙でくるりと回転し、何とか自らの体勢を保ったようである。


蓬花は怜銘を守る盾として、彼女の前から一歩も動かずにいた。その代わりに護衛達の一部が、彼女達の前に出て短剣を構え、邪神竜の次の攻撃に備えている。邪神竜も次の攻撃を加えたかったが、愁水が魔力を行使した攻撃をするので、避けるのに必死な状態となっていた。


愁水の魔力は、先程までとは比べようもなく、徐々に強くなっている。邪神竜も跳ね返すのがやっとという(てい)で、対戦に苦労していたが、其処へ怜銘が追い付いて来て、彼女の力を何とかして吸収出来ないものかと、邪神竜としては足搔いている最中だ。但し、自分よりも力が強くなりつつある愁水と、真剣勝負をしながらの邪神竜では、余所見をする暇もない。他に気を取られている間に、自らが不利になるのは分かっていたからだ。


…このままでは、ワレの負けとなる。それでは…ワレは、何のために生まれて来たのか、分からないではないか…。そうだ…。此奴はもう、ワレには不要だな。何時までも此れに力を与えてやるから、ワレの力が弱っているのだな。でなければ皇子の方が強いなど、魔力を持つ皇族と言えども、()()()()()()()()()()()ことなど、有り得ない。そうだな、そうに違いない…。


既に気を失った流水に視線を移し、邪神竜はそう思う。何時までも此奴を抱えた上では、更に此奴に余計な力を与える所為で、自分は勝てないのだとそう決め込み、流水の身体を放り投げるようにして、ポイっと空中に投げ捨てて…。


 「……なっ!?………流水っ!」

 「……っ!!………」


気を失った状態のままの流水が、ポイッと投げ捨てられるようにして、宙を描いて飛ばされたことに、邪神竜以外の人間達は…この場の誰もが目を疑った。何が起こったのかを理解出来ずに、護衛達でさえも身動きせず固まる。


気付いた時には邪神竜が、流水を投げ捨てるように放り出して、護衛達はポカンとしつつも、流水=幽霊だと判断し、慌てて助けるという行動にはならず…。あまりにも突然の出来事に、思わず身体が動きそうになるけれど、既にもう皇子でもない彼を助けることは、よく考えれば彼らの仕事ではない、と…。王宮の騎士ならば必要な行動でも、隠密達には()()()()()()()()()()()


愁水は邪神竜と戦っていた最中のことなので、逆に他のギャラリーよりも何が起きたのか、理解するのに時間が掛かった。流水が頭から落ちてると気付いた時、現在の彼が幽霊であることを忘れ、愁水の頭の中は真っ白となっていた。


また怜銘も愁水と同じく、流水が幽霊だということを忘れ、驚いて大声を上げそうになる。実際には、人が投げ飛ばされたという恐怖で、声が出なかったけれども。現実には人ではなく、幽霊であったけれど…。暫しの間呆然とした怜銘も、ハッとして我に返った直後に、護衛達や蓬花と涼風の隙をつき、彼女は駆け出していた。流水の元へと全力で…。


怜銘は流水の元へと駆け寄ると真っ先に、彼に触れて抱き起そうとした。ところが彼の身体は、幽体である所為で触れることが出来ず、仕方なく…彼の状態を目視で観察することにする。彼女が見たところでは、彼には重症となる怪我は、ないように見えた。彼には実体がないのだから、当たり前のことであったが…。


この場の全員の心の隙を、その一瞬に出来た攻撃と守りの隙を、邪神竜は…見逃さなかった。怜銘を捉えようとして、邪神竜の力を発揮し攻撃を放って…。そして、その瞬間にハッと気付いた愁水も、怜銘の元に駆け付けようと走ったけれど………


 「……怜銘っ!!」

 「…きゃあっ!!」


愁水は大声で彼女の名を呼び、何とか怜銘の元に駆け寄ろうとしていたが、とてもではないが…間に合いそうもない。それでも彼は懸命に、彼女の元へと向かおうとしていた。蓬花と涼風も護衛達も、漸く怜銘が傍に居ないと気付き、慌てて怜銘の元へと駆け付けようとして、それでも…間に合いそうになくて。怜銘も恐怖心から思わず叫び声を上げ、目をギュッと瞑り…。


光のような光線が、何らかの力が怜銘へと向かっていくのを、()()()()()()()()()と絶望しそうになったのは、言うまでもなく……

 今回も、やや暗めですね…。怜銘が襲撃されそうにところで、次回に続きます。


※今回も、邪神竜の言動に関しては、気分が悪くなったかもしれませんが、あと少し同様の状況が続くかと思います。今度も、お気をつけくださいませ。

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