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宮ラブ 〜後宮入りは、全力で阻止します!〜  作者: 無乃海
後半 波乱の幕開け
51/123

47。過去、出逢いと約束

 怜銘の夢の話の続きです。


重い話は、ちょっと休憩…かな。

 「…それで、貴方の夢の中に現れ、()()()()()()()()()()()()()は、何方(どちら)の皇子だったのだ?…流水だったのか、それとも…私だったのか……。私には、重要事項なのだが…。」

 「………へっ???」


…え~と、これが私に聞くほど、重要事項なのかしら…。寧ろ、邪神竜と思われる存在が夢に出てくる方が、重要ではないの?…それとも、現実に重ねた時に他に何か、問題でもあるのかしらね…。


愁水が問うて来た内容に、怜銘の顔がつい無表情になる。憂いのある表情が…また素晴らしく目を引いて、質問の中身が頭に入って来ない怜銘は、つい間抜けな声が飛び出す。夢の中の出来事に重要事項だと言われても、何方でも構わないとしか思えなくて。幻でも…聞こえたのかしら、と…。


 「それほど、重要な問題なのですの?」

 「…そうだね。僕にとっては、そこは…重要かな。」

 「…はあ……???」


つい愁水に訊ね返したら、自分には重要だと真剣な顔つきで言う彼に、戸惑いながらも無理矢理言葉を飲み込む怜銘。頭の中では、まだ大量のクエスチョンマークが飛んでいるが…。


実際に見たと言えど夢の中での出来事で、現実のことではない。怜銘は自分の頭の中にある夢の記憶を、探ってみる。四阿に行く切っ掛けの夢を思い出そうとして、彼女は違和感を覚えた。あの日の夢はそれ以前に見た夢とは違い、2人の皇子が登場した事実を思い出す。


…そうだった。何で今まで、忘れていたのかな、私…。あの日の夢だけ、皇子がもう1人登場して、夢の中で驚いたのよ…。然も…2人共、成人後の皇子の姿で…。これが切っ掛けで、流水さまと愁水さまが()()()()()()()()のよね…。


四阿に行ってまで確かめようとしたのは、怜銘と皇子達が夢の中で、あの四阿に居たからだ。四阿に行けば、皇子が2人居る理由も分かるような気がして、只々その真相を確認したいが為に行ってしまった…。実際に怜銘が向かったことで、流水は疾うの昔に死亡した事実を知り…。


…1人の皇子は、私を助けようとしなかった。あの冷たい顔は、流水さまだったに違いない。もう1人の皇子は、私を助けてくれた。あの人は今ならば、愁水さまだと理解出来るわ。


そう結論付けながら、夢の内容を解析して…。夢の中でも優しい皇子は、怜銘に向ける言動から愁水だと思われる。肝心の部分ははっきり覚えていなくとも、最後の部分はある程度は覚えていた。


 「只の夢ですし、断言は出来かねますが、お2人ともご登場されました。お2人の素行から、私を助けてくださったのは、愁水さまではないかと…。」

 「……っ!……そうか、良かった…。怜銘を助けた皇子が、私で…。」

 「………」


断言が出来ないと否定要素も残し、怜銘は愁水だと結論付けた。その答えに皇子は嬉しそうに顔を輝かせて、彼女を助けたという者が、死にそうになっていたのが、自らで良かったのだと言い切った。誰かを助けようとして、自分が死にそうになったと知った時には、例え夢と言えども縁起の悪い気分になる。然も、その夢が現実と関わるかもしれないと知れば、尚更嫌な気分になるだろうに。愁水はそれでも良かったと、言い切って…。


彼は優しくとも、皇帝の息子である。どれだけ心優しい彼でも、皇族らしいと言われる表と裏の両方の顔を、持っていた。怜銘に普段見せる顔は、表の顔と言えそうで実際には違っている。怜銘にだけは嘘を吐きたくない彼は、彼女の前では彼の本音を見せ、自然体でいた。そして彼女には常に、裏の顔を隠している。


そういう点から言えば、流水の方が裏表がない人物だ。流水の表の顔が、あまりにも我が儘で自己中心で暴君過ぎており、またそれ以外には、彼が裏の顔を持たないだけだった。但し、誰もがその事実に気付けていないが…。


自分に素直なだけで、常に自分の立場しか考えないだけで、これは別に裏の顔ではない。皇帝や一部大人の前では大人しく、それが裏の顔だと怜銘も思っていたが、これは人間ならば誰もが持つ、最低限の自己防衛の態度である。皇族らしい裏の顔とは、違っていた。裏の顔とは、()()()()()()()()()()()のだから…。


流水は自己を肯定する為には、殺害も意に介さない人物でもあり、単に裏表がない人間だった…と言うべきか。逆に考えれば、邪神竜が流水のようなタイプを操るのは、意図も簡単なことだっただろう…。


それに比べて愁水は、皇族らしい考えを持っている。他人からの好意を上手く受け流し、殊に恋愛に関しては冷静に対応し、必要最低限な優しさとそつのない態度で、誰とでも同じ距離感を保って接することが、出来た。誰か1人だけに優しくするのは、怜銘だけである。特に淑玲のことは苦手で、寧ろ嫌いな相手だと言えよう。淑玲は流水同様に我が儘を通す部分があり、どうしても好意が持てずにいた。それでも態度に表さなくて済むのは、皇族としての裏の顔を難なく使い分けることが、彼は得意だったからである。






     ****************************






 そういう愁水の状況を露知らず、怜銘は愁水の嬉しそうな顔に、若干引き気味となっていた。夢の話と言えども、愁水が機嫌を害してもおかしくない、そういう縁起の悪い夢なのに、愁水は嬉しそうである。怜銘には、理解出来ずにいた。


…愁水さまは何とも、人の良いお方なのだろうか。自分が死にそうな状況でも、人助けを優先されるお気持ちなのね…。それほど無垢な心を、お持ちになられているのだわ…。それとも単に、カッコいい正義のヒーローに憧れておられるとか…。流水さまを敵視されておられる…のは、有り得なそうね。でしたら、そういう趣向の持ち主なのかしら…。


ちょっぴり失礼なことを考える怜銘は、前世の記憶を中途半端に持つことで、それに近い感覚で捉えしまっていた。正義のヒーローに気触(かぶ)れているとか、他人に自分をよく見せたがる趣向があるとか、そういう風に考えてしまう。


怜銘の思う趣向の中には、何かと死にたがりや、恰好付けたがりや、女子に好かれたくて自分を良く見せる者、などという様々な意味を含んでいた。何方にしても、怜銘を真剣に助けたいと思っている彼には、失礼な話であるけれど。


 「怜銘は一部の記憶を、失っているのだったな?…それでは、私との約束に関しても、全く覚えていないということだろうか…。私と()()()()()()()()()()()()、貴方には記憶がないのだろうか…。」

 「………えっ………」


怜銘が失礼なことを考えていた最中でもあり、愁水が唐突に語った内容に彼女は驚いて、話について行けぬまま放心状態となる。思わず小さく声が漏れた彼女は、頭の中で彼の言葉を噛み砕くうちに、彼が放った言葉の意味を漸く理解し、激しく動揺することとなる。


…えっ?……過去のわたくしは、愁水さまとも出会っておりましたの?…愁水さまとの約束とは、それは…どういう意味ですの?…まさかわたくし、愁水さまとの婚姻の約束などは、しておりませんわよね…?


途轍もなく、嫌な予感がする怜銘。愁水と過去に出会っていたのならば、それは間違いなく前世を思い出す前で、過去の怜銘である。別に他人の身体に、人生の途中から魂のみが憑依した…という訳ではないようだが、同一人物としての記憶が共有できていなかった。


それでも今の怜銘とは、明白に違う部分もあった。それは、彼女が前世の記憶を思い出す以前とは異なり、明らかに性格がキツくなっている。以前は大人しい性格だったようなのに、今はどう見ても一部別人だと言えそうに、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いだと断言するようなほど、白黒はっきりするタイプとなっている。


怜銘自身は自らの幼い頃の記憶を、竜の神様に関与されずとも、元々あまり覚えていないようである。前世の怜銘は、細かいことにはあまり捉われない主義で、現世の彼女も昔から、自分の意思は突き通すという頑固さが、あったりする。あの当時の怜銘には、怖い思い出を隠す為ではなく、ショックを受けた心の傷を治すべく、自ら防衛本能を最上級に働かせ、自らに都合の良い記憶へと塗り替えていた。


そういうことで彼女の性格は、大きく変わってはいなかった。勿論、前世の日本とは環境が違い過ぎることなど、環境に合わせて多少は性格も変化しているのだろうが、怜銘自身が思う程には、劇的な変化はなかったと言えよう。


思い込みとは恐ろしく、そう思い込む怜銘は自らを理解していない。前世を知る以前の過去の自分と、前世を思い出した今の自分では、恋愛対象も違う人物を選択するのだと、思い込む。飽く迄も自分の好みは、現世での過去の自分とは違う人物であり、また…()()()()()()()()()()()()()()なのだと、言いたげである。


…そうよね。例え、幼い頃のわたくしが愁水さまを慕っておりましても、今のわたくしの好みは、違う筈ですもの。そして、ゲームとは違い現実では、前世の推しは好きにはなりませんわ。


いざとなれば、愁水さまとの約束は思い出せないと、白を切ればいい…。怜銘はそう安易に考えているが、実は…彼女は直ぐに顔に出るタイプで、嘘を吐いても丸分かりなのだった。前世の頃より彼女は、嘘が付けない体質なのである。但し、本人はそこのところを把握していないけれども…。


 「…僕と出会ったことも約束も、何も…覚えていないようだね。」

 「……あっ、はい……。申し訳ございません…。」


今の怜銘は、愁水との出会いや約束事に(かま)けていて、彼の言葉遣いが時々変化することに、気付いていなかった。普段は常に自らを『私』と話す彼が、時々感情が入った時には『僕』と表現していると、知らずにいて。


 「……そうか。それは、残念だな。貴方が思い出してくれるのを、待とう。例え貴方が思い出せなくとも、私が覚えていれば良い。それに、()()()()()()()()()()()()()、やり直しても良いからな。それでも…良いかな、怜怜?」

 前回までは重かった話ですが、今回はちょっと軽めの内容となりました。今回は恋愛要素に、比重に置きました。先ずは、出逢いと約束と愛称呼び、でしょうか。


死が関わるお話なので、これからの物語後半部は、重い話が多くなると思います。また、暴力的な話も今後は、ちょこちょこ出て来ることになるので、今のうちからご注意くださいませ。

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