45。皇家の秘密、罪と罰
今回はタイトル通り、皇家と皇子達の秘密が判明します。
少し重い内容となりますが、ご容赦くださいませ。
「……愁水さまはもしかして、わたくしが倒れることとなった原因を、ご存じなのでしょうか?」
「………っ…………」
怜銘の顔を見た瞬間、心底安心したかのような表情になった愁水は、彼女の問いにギクリとして固まった。言葉を探すように視線を動す彼に、侍女達の前では話せない事情があるのだと、彼女も感じ取っていた。清蘭に席を外すよう目線で促せば、清蘭も何か事情があるのだと察して、軽く頭を下げ部屋を出て行った。怜銘の部屋の扉を、少し開けた状態で。
実は怜銘の部屋への扉は、2か所ある。後宮の外(※日本風に言えば、廊下)から入る扉と、続きの間から入る扉だ。清蘭達一部の侍女が使用する部屋とは、実は此方の続きの間とされる部屋だ。その為、外側の戸には声は漏れなくとも、続きの間である隣部屋には良く聞こえてしまう。
そうは言っても、音を外に漏らさないという建物の造りは、前世の日本の技術よりも優れていた。実際のところでは、音に関しては防御の魔法と呼ばれるもので、魔石を利用していたりするのだが、怜銘はこれらの事実を一切知らなかった。
下手に前世の記憶を保持している所為で、怜銘は疑問にすら思っていないだけなのだが。清蘭を含む侍女達は、赤家でも他の貴族の家でも使用される魔石で、怜銘が魔石の存在を知らないとは露知らず…。これらのことが偶然にも一致したとは、恐ろしい限りである。実際には音と共に、賊が簡単に侵入出来ないようにと、防御の魔法も掛けられていた。
流石に魔石の能力と言えども、部屋の扉を開けて置けば、話の内容は聞こえなくとも何かしらの声は聞こえる為、結婚前の男女が1つの部屋に居るということから、念の為という保険みたいなものだった。
「…怜銘にはいくつか、話さなければならないことがある…。但し…今から話す内容には、この国の禁忌の情報も含まれている。怜銘には…辛い過去も思い出させることになるが、其れでも…良いだろうか……。」
清蘭が出て行くのを確認すると、愁水はそう話を切り出した。怜銘が少し前から思っていた通り、禁忌の話でもあるらしい。辛い過去とは、主に流水が絡んだ話のことだろうと、彼女も直ぐに気が付いた。
……優しいお人なのだわ。流水さまとは真逆なほどに…。だけれど何故、私に此処まで良くしてくださるのかが、分からない…。私が後宮に入ってから、初めて知り合った筈なのに、どうして……。
「……はい。わたくしは…大丈夫ですわ。それより寧ろ、流水さまのことを知らなければ、前に進むことが出来ませんもの…。」
怜銘は覚悟を決め、愁水にそう胸の内を語った。流水が何故、幽霊になったのかを知らなければならない。そうしなければ多分、流水も成仏出来ないのだろう。何年も霊体で彷徨っているのは、きっと何か思い入れがあるからだ。前世でそういう言葉を聞いたことがある怜銘には、それを知る資格がある、いや…知る必要がある。
「………分かった。やはり、貴方は…流水を、はっきりと見たんだね…。」
「はい……。間違いなく、流水さまでしたわ…。わたくしを大怪我させた、張本人の皇子さまです……」
覚悟を決めた様子の怜銘に対して、愁水は苦虫を噛んだように顔を顰め、彼女を見つめて来る。そして、あれを見たのか…と溜息を零して。『あれ』とは、彼の双子の兄と思われる流水のことだろうか…。怜銘は苦笑気味に微笑み、自分はハッキリと見たんだという風に、語った。これで愁水も、安易に誤魔化すことは出来ないだろうと。
「………そうか。怜銘には、はっきり見えたのだな…。実は…他にもキョンシーを見たという人間は、何人も居る。しかし、姿形をはっきりと捉えられたものは、今までには誰も居なかった。但し、私と陛下それに皇族は、別なのだが。…ああ、後は狼凱も別格だったのだな…。」
「……えっ?…愁水さまだけではなくて、陛下も…?…へっ?…狼凱も……なのですか…。それなのに、他の者達には…ハッキリとは、見えないのですか?」
愁水が意外なことを話す。怜銘には流水だと一目で分かる程なのに、他の者達にはぼやけてしか見えないそうだ。何故か、陛下と愁水と狼凱は別格らしいが。それは皇家の力と、何か関係があるのだろうか…。
「キョンシーの話は、誰かが作った話だ。元々、力のない者や信じない者には、死者の魂を見ることさえ叶わぬだろうな。しかし、流水に関して言えば、流水はまだ邪竜の力を持っている。霊力のない者にも、少しは形が見えるのだろうが、本来であれば見えない筈なのだ。」
怜銘は目をパチクリさせた。キョンシー話が作り話なのは理解していたが、やはり幽霊を見る人には、何らかの霊力を感じる人でなければ、見えないということなのか。『あれ』が流水のことを差すならば、流水が邪竜の力を持っているとは、どういうことだろう?
****************************
「あの時に貴方も見たことだろうが、私達皇族には特別な力が宿っている。但しこの力は、一番最初に生まれた男児にしか現れないと、代々皇家に伝わっていた。本来であれば、例え双子として生まれたとしても、双子の弟に生まれた私に、持てない力だった。禁忌である私が皇家の力を持つと、父である陛下が気付かれ、私も一通りの皇族としての教育を受けられた。あの頃のことを今思えば、陛下はある程度は…こうなることを、予測されていたのだろうと思うよ…。」
愁水から聞かされた話は、前世で『宮ラブ』をある程度、クリアしていた怜銘にとっても、十分に重い内容であった。流水を主役に選んで遊んでいたので、少しは彼の闇の部分を知ってはいたが、実際にはそれ以上に重いと思われる。
ゲームでは双子は登場しないし、麓水国の禁忌に触れていないけれども、確かに彼の性格が歪んだ理由はよく分からないのに、単に皇帝との仲が悪いとか、皇族が特別な力を持っていたとか、そういうものが原因と考える風に作られていた。彼の性格の歪みも、攻略対象によって徐々に解決されるので、ただの我が儘な俺様としか見なかった怜銘だけれど、本当はゲームでもこういう事情が、隠されていたのかもしれない。
流水と愁水が生まれた経緯は、以下のようである。彼らの父親で現皇帝陛下であられる麓鵬水は、麓皇妃とは怜銘達と同様に、集団お見合いで婚姻したという恋愛結婚であり、それはそれは美しい女性だったらしい。但し、彼女は双子を産んだ後、身体の調子を崩すことが多くなり、皇女・香爛を産んでからは、寝たきりに近い状態だったという。
麓水国では、双子を産んだ女性も、また後で生まれて来た子供も、両方が罪に問われることとなる。双子を産んだ皇妃を守る為、鵬水は双子が生まれた事実を、徹底的に隠したようだった。
第一皇子として生まれた流水は、皇子として何の不便もなく過ごし、第二皇子として生まれた愁水は、今は殆ど使用されていない、後宮の奥にある離宮として建てられた建物で、その1部屋の中でずっと過ごしていた。赤子である彼が住む為に改造され、彼1人では出られないように、常に鍵が掛けられていた。然も、何重にも鍵を掛けられた部屋だった。
先ず、離宮に入ると一番奥の部屋に向かい、鍵を開けることとなる。その部屋に入ってからまた扉に鍵が掛かっている為、その鍵も開けることとなる。そしてその部屋にも同じく、鍵が掛けられた扉があるのだが、其処には秘密の階段が用意されており、その階段を一番上まで登った先に、その鍵の掛かった扉があった。その先の部屋が、漸く彼の部屋だったのである。
彼にとっては、閉じ込められた部屋は、檻と同様であった。実際に此処に世話に来てくれる者の中には、そう話す者もいた。但し彼は孤独ではなかった。毎日のように皇妃である母親は、彼に会いに来てくれては、皇族としての最低限の作法は教えてくれていた。
そして皇帝である父親も、偶に顔を出してくれていた。あの頃は、よそよそしい冷たい態度の父親に、自分を嫌っているのかと思っていた彼も、今は単に不器用なだけだったと知っている。本当は、双子を愛してくれていたのだと…。
しかし妹が生まれてから母が来なくなり、滅多に現れない父も、母が来ない理由を教えてくれなかった。自分はもう見捨てられたのかもしれないと、禁忌の子供であるのは理解していた彼は、いつしか何もかも諦めていた。
突然ある日の夜、父が母に合わせると、彼を檻の部屋から連れ出した。母は今にも生き絶えようとする寸前で、彼の顔を見た途端に安心して、亡くなった。まだ20代後半の若さで…。元々、病気がちな人だったらしい。
それからの彼の扱いは、180度変わることとなる。彼にも皇家の力があるのが判明し、第一皇子とは別の場所で育てられることとなり、相変わらず隠れる生活ではあるものの、教育を十分に受けさせてもらえ、剣術も教えてもらえることになった彼は、自由を手にしたように感じていたそうだ。
それを偶然にも知った第一皇子に、彼は早速敵視されることになる。然も、殺意を感じるほどに…。その後暫くして、怜銘に大怪我をさせた元第一皇子が失脚して、代わりに彼自身が第一皇子となる。そして第一皇子の座を失った流水は、愁水が以前閉じ込められていた部屋に、今度は流水が閉じ込められることになる。
愁水からの説明を掻い摘めば、以上のような事情があったらしい。説明だけ聞いていれば、流水が失脚したのは自業自得だと思うけれど、そういう簡単な事情ではないのは、怜銘もよく理解していた。
もしも、彼らの父親である皇帝が、麓水国の掟に忠誠心を持っていたならば、愁水と皇妃は即処刑されていただろう。愁水が今のように第一皇子となることもなく、香爛が皇女として生まれることもなく…。
何が正しくて、誰が正しいとも言えなくて、怜銘は…何も言葉が出なかった……。
これで漸く怜銘も、皇子達の秘密を知りましたね。ちょっと重すぎる内容ではありますが、これを乗り越えないと、怜銘の初恋が実らない…?
※キョンシーの噂は、以前に本文に書いた噂話です。何話に書いたのかは、筆者でも忘れました…。




