幕間③ 邪神竜の誕生
今回から、本編の後半が始まります。後半の1回目は、番外編からに開始です。
タイトル通り、邪神も神も登場します。
この世界の麓水国並びに各国々では、これらの国々が創設された時より、神様が存在するものとして長年信じられていた。しかし怜銘達が生きている時代には、その神様も伝説として扱われており、その昔に神様と実際にあった人物も居たと、言い伝えられる程度だ。
この世界の神様と、怜銘の前世で一般的に言われている神様とは、決定的な違いがある。前世では国により、様々な姿形の神が信じられていた。また怜銘の生まれ育った日本では、多種多様化した宗教を信じていた所為で、自国の神という象徴は特になくて、神は存在しないとされていた。それに比べれば、この世界の神の種類は圧倒的に少ないが、メインは創造主としての神であり、また繁栄も豊穣も破滅も…全て、同一の神により為されると考えられている。
しかしこの世界では何処の国々も、同類の神を信じていた。日本のように仏様のような存在や、没後の世界の存在は、信じられていないようなのに。麓水国の神は竜の神様で、他国はドラゴンであったり蛇であったりと、何処も神は似た存在だ。
竜の神様の姿は、怜銘達の前世の世界・日本でも広く知られる竜と、ほぼ同様の姿である。日本の漫画やアニメなどでは、よく人型としても登場するが、この世界の神は竜そのままの姿であり、人型に変身することは不可能であった。抑々、神にも可能な事柄と不可能な事柄があり、この世界の神が多種のお祈りに応じる一方、神自身が変身するとか、人間のような姿に見せるという機能とかは、備えていないようだった。神も、何でも出来る万能な生き物ではない、という話だ。
麓水国の神は、この世界自体を創成した神でもあり、その姿が竜であるのは間違いないが、ドラゴンや蛇を神とした国には、そういう姿に見えただけだろう。本来ならば神という存在は、人間と接点を持たないよう禁止されている。竜の神様もそれは同様で、長年人間と接点を持つことはなかった。
ところが大昔、国同士の争いが起こり、竜の神様の中の心優しい性質の神が、人間の争いを失くそうとして、接点を持ってしまう。当初、人間も竜の神様を敬っていたけれど、竜の神様を利用しようとする人間も現れ、神が最も信じた人間が食い止めようとして、絶命した。その後も争いが起き続け、その心優しき竜の神は、人間の無念を含む邪気を払い続けるうちに、徐々に邪悪な心に染まっていく。
神が邪神竜に半分ほど成りかけていた頃、その当時の麓水国の皇族の1人で、まだ幼かった 麓西丹 に出逢う。西丹には大勢の義兄弟がおり、彼だけが身分の低い踊り子の子供で、他の兄妹達からよくバカにされていた。それでも彼の心は美しく、真っ白で汚れが一点もなく。
麓水国での皇族争いが本格的になり、真っ先に西丹の母親が暗殺され、彼自身も酷い罠に嵌められて、瀕死の状態まで追い詰められていた。何とか一命は取り留めたものの、彼は牢屋に押し込められ、死ぬ直前まで酷い扱いを受けたという…。
真っ白な西丹の心も、母親を失い恋人も失って、そして…自分の心も徐々に失っていき、彼の心は徐々に壊れて行く。最終的には彼は人間の心を、失くしてしまったのだろうか…。彼は義兄弟達を憎み、麓水国の皇族を呪い、この世界全体を壊したいと願い息絶えた…という話である。彼の最後の言葉は、呪いの言葉だと…。
彼の最後の言葉を聞いたのが、邪神竜に成りかけていた神だった。西丹の憎悪を含んだ邪気を取り込んだ神は…到頭、完全な邪神竜となってしまう。西丹の純粋な心に惹かれて、元の姿に戻りそうになっていた神は、彼の心が邪悪に染められたことが、許せなくて…。邪神竜になることで、この世界は滅ぼそうと決意した元神は、麓水国の皇族への復讐を誓った…。その頃から何代にも渡り、麓の皇族が代替わりする度、皇族達を何度も邪心な心に染めようと、邪神竜は操ろうと企んで。
しかし、邪神竜の思い通りにはいかなかった。その後の麓水国の皇族は、西丹のような犠牲者を増やさないようにと法律を変え、皇族も一夫一妻とするなど国を変えて来たのだ。邪神竜が何度か耳元で邪な想いを唆しても、テレパシーのように彼らの頭の中へメッセージを送っても、麓水国の皇族達は全く耳を貸さない。邪神竜が取り付く縞は、全くなくて。
麓 鵬水 の時代となり、現在は既に崩御されている皇妃に、ほんの僅かな油断が出来てしまう。彼女は元々身体が弱く、無事に丈夫な赤子が産めるかと、不安で…。
「…見つけた。漸く、見つけたのだ、ワレは…。麓水国の皇族にワレが復讐する機会を…。そして、この世界を破滅する手段を…。これでワレの念願が叶う…。」
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実は…西丹は、麓水国では一時期は有名な人物だ。麓水国内での皇位争いに国中が荒れている中、彼は麓水を有利にする作戦を立て、他国との戦争に圧倒的な勝利を齎した人物だ。それも、何年間にも渡って…。
西丹は生涯、皇帝になることは叶わなかった。西丹の義兄弟達から、酷い裏切りにあったからだ。彼が故人となってからも皇位争いは続き、最終的には西丹の年の離れた実弟が、義兄弟達を全員処刑し皇位に就くことで、漸く麓水国での皇族争いは終了していた。そして、現在の皇帝陛下である鵬水に、続いている。
西丹の弟が皇位についた頃、西端は英雄扱いだったにも拘らず、鵬水が皇位に就くまでの間に、不名誉の死を迎えた西丹の事情が伏せられ、隠されていく。終いには彼自身も不名誉とする思想が芽生え、結果的に現在では彼の存在は、麓の歴史上からも抹殺されているようだ。
但し、麓の人民には知らされない存在となれど、西丹が麓水国の皇族である事実は変わらない。皇族関係者には彼の存在と彼の活躍を、代々に渡りひっそりと伝えているらしい。現皇帝である鵬水も、これらが馬鹿な風習だとは思うが、今更ながらそれを変えていこうという気持ちは、現皇帝にはなく。
西丹の報われない魂が邪に染まり、その魂を邪神竜に取り込まれたとは、皇族ですら誰も知らない事実だ。あの頃から…西丹の弟さえ、誰も知る筈のなく…。この事実を知るのは…それは他ならぬ、邪神竜となる前の神と共に、この世界を創成した仲間の竜の神様たち…だけである。竜の神様としての存在は、実は…幾つか存在しており、それぞれがこの世界の国々の神様として、この世界を見守っている。
麓水国は他の国々よりも広く、常に2体の神様が守っている。そのうちの1体が邪神竜となってしまっており、もう片方の神が1人で麓水国を守り続けている。彼の神だけが原因ではなく、元々は邪気となる人間も悪いと、心を痛め…。既に邪神竜へと堕ちた彼の神を元に戻すのは、容易なことではないと分かっていても…。
そして…見つけた。異なる世界の人間の女性を。この世界には運よく、彼女はその異世界で事故死をして、同じ世界の輪廻に乗るところであり。彼女の魂は彼女の世界では普通でも、この世界では…とある特別な力を持っていた。竜の神は迷わず、彼女の魂を自分の世界に誘いで…。
「邪神竜へと堕ちた神を…元に戻すのは、彼女の力ならば可能やもしれん…。」
竜の神はそう期待しつつ、魂となった彼女に例の取引を持ち掛けた。この世界での役割は、彼女自身が乗り越える必要があるものの、彼女にとっても決して悪い条件ではないだろう…と。取引した情報も彼女の前世の記憶も一部、神は隠すことにしなければならないけれど…。それが、人間に関わらないギリギリの接点で。
自分の代わりに彼女を手伝う人間も見つけ、元々は彼女と同じ世界の、その人間とも取引して。その人間の過去には、ゲームとやらの情報を提供する代わりに、彼女同様に此方に輪廻させた。また邪神竜に利用された人間は、逆に彼女達の世界へと輪廻させ…。こうして、神の手による人為的な輪廻を展開させた。せめて、其方の世界で幸せになってもらいたい…と、思いつつ…。大切な人と共に、後悔しない人生を送ってほしいと…。そう願う神は。
これらの事情は全て、邪神竜へと堕ちた神を助けるべく、ワレが巻き込んだ。せめてもの償いとして、彼らには絶対に幸せになってもらわねば、ワレも…正気に戻った時のアレも、目覚めが悪すぎるワ……。
こうして神により、巻き込まれた彼女達は今現在、集団お見合いという最中に置かれている。神でさえ今後どうなるのか、全く想像が出来ない。創造主である限り、人類の世界にこれ以上の干渉は出来なくて。唯一干渉出来る瞬間は、亡くなった人間が次の輪廻に乗るまでの間に、その僅かな時間の間だけが絶好の機会であった。生きている人間に会えても、干渉することは絶対に禁止されている。神が関わると世界が壊れる、という理由で…。
輪廻に干渉した人間は、辛うじてその後も多少の関与は可能だ。但し、当人の記憶以外の操作は出来ないが、邪神竜はそれらに関係なしに、神の禁忌を犯していく。自らは彼の神の仲間として、止めたい…。もうすぐ、この世界は壊れてしまう…。邪神竜の干渉はもう…危ういところまで、来ている…と。
さあ、人間の子供達ヨ…。お前たちにこの世界の未来が、掛かっている。お前たちの本当の力を発揮する時が、もうすぐやって来るだろう。ワレの力を貸してやる代わりに、ワレにも力を貸してくれ。お前たちの本来の力を…。
そう祈るように、他の国のこの世界の神たちもが、彼らを見守っているとは、神に選ばれた彼女もそれ以外の誰もが、知らずにいる。これから彼女達の行く道には、茨の道が待ち受けることだろう…と。
こうして、彼らの新たな人生は、波乱な人生を迎えることとなっていく。神の試練とも言えそうな、世界の命運を背負わされ…。神の試練を合格するのか、それとも破滅となるのか…。神のみぞ知る筈だが、その神たちも誰も知らなかった……。
『宮ラブ』世界の神様視点寄りの第三者視点、となりました。
ちょこちょことマル秘情報が、出て来ています。神様でも今後が想像がつかない、という話でした…。
※今回から後半の開始となりました。後半部分では残酷な内容も含んでおり、これまでのどの物語よりも、残酷な物語となっておりますので、ご注意くださいませ。また、人間の死に関することを扱っており、死が身近なものとして…そういう言葉が、度々出て来るかと思います。
※後半部もまた、よろしくお願い致します。