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宮ラブ 〜後宮入りは、全力で阻止します!〜  作者: 無乃海
前半 彷徨う恋
29/123

28。皇女との恋の駆け引き

 前半は前回の同一日ですが、後半は何日か経っている状態です。


後半は、皇女視点よりの第三者視点が入ります。

 「突然の訪問をお詫び致します、赤怜銘様。わたくしはこの国の皇女で、香爛と申します。以前よりお兄さまから怜銘様のお話をお伺いし、是非ともお会いしたいと思っておりましたので、わたくしの方からお会いしに来てしまいましたわ。親愛の証としてわたくしのことは是非とも、香爛とお呼びくださいませ。わたくしからは怜銘様のことを、お姉様とお呼びさせていただきとうございます。」


一気に捲し上げるように話し掛けてきた皇女に、怜銘は勿論のこと、その場に居合わせた清蘭と清季も驚きで目を点にした。殊更に『お姉様』の部分を強調してくる皇女は、目をウルウルさせ期待に満ちた視線を送ってくる。怜銘は思わず遠い目になる。流石に相手は、自国の皇女様である。身分の高い怜銘も、皇女様には皇子(みこ)同様に逆らえない立場のお人だ。


怜銘はそっと溜息を吐くと、皇女の要求を吞むしかないだろうと、覚悟する。それに実際のところは、怜銘も満更ではない。普段は「お兄様、お姉様」と呼ぶ立場で末っ子の怜銘は、実はこう呼ばれることに憧れていた。そして前世でも覚えている限り、自分がそう呼ばれた経験もなく、それが例え初めて会う少女だとしても、またそう呼ぶ相手が身分が上の皇女様だとしても、嬉しい提案であった。否か応かと聞かれるならば、怜銘は状況的にすんなり応だと答えてしまうだろう。


それぐらいに彼女にとっては、魅力的な提案であったのだ。一度ぐらいはそう呼ばれてみたいと思う、末っ子ならではの悲願ではないだろうか。それにどう考えようとも相手が皇女である以上、どちらにせよ断るにもそれなりの理由が、必要となってくるので…。今の怜銘には、断る(すべ)がなくて。


 「……皇女様。…いえ、香蘭さま。お初にお目にかかります。もう既にご存知のご様子ですが、我が名は赤怜銘と申します。どうぞ皇女様のお好きにお呼びくださいませ…。もし…宜しければ、わたくしも香蘭さまのことを、『香香』さまとお呼びしても、宜しいでしょうか?」

 「…っ?!……も、勿論ですわ、怜銘お姉様。お兄様の正妃と成られる、お人なのですもの。そのように親しげにお呼びくださるなんて、嬉しい限りですわ。」

 「……っ!!…………」


怜銘のこの申し出には、皇女は飛び上がらんばかりの喜び様を、顔や身体を使って素直に表現してくれる。怜銘も眉を下げては、そういう皇女の姿に微笑ましいとさえ、思っていたのだが……。皇女が放った『お兄様の正妃』という言葉には、一瞬にして()()()()()()()()()()()()


…み、皇子の正妃………。『宮ラブ』の中では、皇女と仲良くなって皇子を攻略するという、そういう展開は一切ない筈よね。…ということは、現実とゲームの展開が変わりつつある、ということなのかしら…。それに抑々、皇女様はゲーム中にご登場されておられたかしら…。


怜銘がそう疑問に思うのは、無理もない。怜銘も赤家もゲームには登場しない人物なのだから、ゲームとは既に異なる現状を理解してはいる。しかしながら、皇女が皇子の婚姻に関係して登場することは、ゲームでそういう描写は一切ない筈だ。皇子が攻略するルートの過程で、皇女が()()()()()()()()()()()()、覚えている限りでは一度もなかったと、怜銘は思っていた。


皇女自身をあまり知らない怜銘は、自分をウルウルと見つめてくる皇女を、何気なさを装いつつ観察する。皇室の人間を思わせる紫の髪に、どことなく皇子に似た容姿の美少女だ。香蘭という名前にも聞き覚えがあるような…と思っていると、唐突に怜銘の頭の中にゲームの記憶が戻ってきた。


ゲームに登場していた皇女は、二次元という違いはあれども、怜銘の目の前の美少女そっくりな容姿で、名前も同じである。怜銘は主に、皇子を主人公に選択していたので、当然ながら実の兄妹である皇女は、攻略不可という仕様となっていた。


乙女ゲーでも、ヒロインが実の兄弟と恋愛することはないのと、同義である。但し乙女ゲーの場合は、ヒロインは低位の貧乏貴族、若しくは一般庶民が多くて、実の兄弟が存在しない代わりに、義理の兄弟が存在していた。そしてその義兄弟とは恋愛も可能な間柄であり、例え血の繋がりがあるとしても、従兄弟か遠い親戚の関係とされ、()()()()()()()()()()婚姻は問題ない、という設定であった。


しかし此処はギャルゲーの世界なので、男性主人公が攻略する立場であり、攻略外の人物はあまり登場しなかったりする。皇子ばかりを選んで進めていた怜銘は、皇女を堕とすルートに出くわす確率も、かなり少なかったことだろう。要するに攻略対象の皇女も、選ぶルートに選っては登場さえしなかった、ということになる。


……しまった。もっと皇子以外の主人公でも、攻略しておけば良かった…。もっと沢山、皇女や他の攻略対象を攻略しておけば良かった……。まさか私が、ゲームの中の世界に転生するなんて。然もそれが、自分が前世で嵌っていたゲームの世界なんて、絶対に予想出来る訳もないよね……。


こうして後悔しても、後の祭りだった。それでも、怜銘は皇女ルートをやっていないことに、後悔していた。人生何があるか分からないものだと、此処に来てその意味を身を以て知った、怜銘である。






    ****************************






 「…香香さま。皇子様はまだ誰も、お選びになられておられません。わたくしが皇子様の正妃などとは、烏滸がましい限りですわ。わたくしは唯の正妃候補にしか、過ぎませんのよ…。」

 「あら、そんなことはございませんわ。怜銘お姉様は常に、兄を立てるかの如くご謙遜なさっていて、本当に謙虚なお人なのですね。何処かの誰かさんとは、大違いですわよ。そういうお人がわたくしのお姉様になってくださるなんて、お兄様もわたくしも果報者ですわ。…うふふふふふ。」


如何(どう)やら皇女は、盛大に勘違いされている様子であり、ゲームの設定を気にすることよりも、先ずは皇女の誤解を解こうと決心した怜銘は、必死で事実を伝えて否定しようしたのに、何故か皇女は誤解だと気付くどころか、更に益々誤解を重ねて行く様子で。これでは…もう、()()()()()()()()()()()()()ではないか、と…。


…ええ〜!……どうしましょう…。謙遜とか謙虚扱いされてるけど、更に誤解されているような気が…。他人の意見を聞き入れられず、自分の都合の良いように捉えられる皇女様は、ある意味では愁水さまよりも、手強い気がする……。


あまりにも嬉しそうな顔で、瞳をキラキラさせながらお姉様と呼んでくる皇女の態度には、怜銘も若干気圧され気味だった。『宮ラブ』の中では、ここまでキャラが濃くなかったと思うのになあ…と、彼女のキャラ設定を思い出しつつ、怜銘は戸惑うばかりであった。ゲームでの設定と現実での人物像は、実際には異っていると頭で理解出来ても、心が追い付いていなかった。


 「それでね、怜銘お姉様……。お兄様ったら、毎日のようにお姉様のお話ばかりをされますのよ。昨日はこのようなことがあった…とか、今日はこのような会話を交わした…などと、お姉様のことばかりですのよ…。」


あの後日から皇女は、嬉々として怜銘に話し掛けて来るようになった。如何(いか)に皇子が怜銘のことを、大切に思っているのかという話を…。皇子から聞いたり確認したりした本人からの気持ちではなく、皇女がそうだと思う確信に至った経緯を、満面の笑顔で語り掛けてくる訳で。


怜銘は遠い目をしながらも、皇女の話に耳を傾けるしか、方法がなかった。相手は皇子同様に自分よりも身分が上で、彼女に逆らうということは反撃行為とも見られかねず、家族も没落という罰を受けるかもしれないと…。実際の赤家は容易には没落しないが、他の家柄ならばそうなり得る可能性もあるだろう。


誤解を解きたいと思っていても、この様子ではそう簡単に溶けそうもない、そう考えた怜銘は大正解である。皇女は怜銘に初めて対峙した時から、怜銘の気持ちには薄々気付いており、態と勘違いしたと思わせる部分もある。


初めて彼女と出逢ったのは、この前の宴の日だ。宴の夜、皇族一族に挨拶に来た怜銘は、簡素な挨拶をしただけで、皇族に媚を売ったり余計な色目は一切せずに、その場からサッサと去って行く彼女に、父としても威厳ある皇帝も、普段は感情を殺している皇子でさえも、気に掛けた視線を彼女に送っていた。


それで何となく察した香爛は、一応は怜銘から接近してくれる機会を伺っていたけれど、待てど暮らせど何時(いつ)まで経っても、その機会がなく…。痺れを切らした香爛は、()()()()()()()()()()()()のだ。そうしてやや強引に怜銘と仲良くして、他の正妃候補にも牽制しようと企み…。要するに皇女は、それなりに腹黒い性格をしていたりするのだが…。


こうして皇女は、怜銘と仲良くなることに成功したのである。香爛は王家と同族である淑玲のことを、心の底から嫌っていたこともあり、宴で見た怜銘のことは一目で気に入っていた。


こうほど誠実で清楚なお人であれば、麓水国の皇妃という点でも、何の問題もございませんわね。お兄様には、最も相応しいお方ですわ。それに比べて淑玲お姉様の我が儘には、本当に呆れますこと…。あのようなお人が正妃となれば、麓水国の民が暴動を起こす日も、そう遠くないことでしょうね…。


香爛が男として生まれていたならば、愁水の良き補佐役として活躍するか、それとも皇太子争いとなったのか…。香爛自身は例え皇子として生まれて来ても、兄を蹴落としてまで皇太子になりたいと思っていないが、周りの貴族達はそう思わないことだろう。政務で兄を補佐するのではなく、寧ろ女性だからこそ補助出来ることをしたいのだと、彼女はそう考え…。


今はわたくしが女性だから、出来る手助けなのですもの。愁水お兄様の為にも怜銘お姉様を、()()()()()()()()()()()()()()()わよ。…ふふふふっ。

 一応、香爛が毎日のように怜銘に愁水をアピールし、意識させるという努力をしていて、自分が怜銘を堕とそうと考えています。当然ながら、ゲームとは異なる展開なのですが、怜銘はまだ真実を見ていない状態ですね…。

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