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宮ラブ 〜後宮入りは、全力で阻止します!〜  作者: 無乃海
本編終了後の番外編 【本編のその後では…】
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33。貴方に永遠の愛を誓う

 最終話は、この章の主人公とも言える、人物視点です。今回が、最後の話となりました。


※現代版の人物紹介は、本日この最終話と共に、投稿することとなりました。

 「……愁水さまが、(そう)ちゃん…だったのね?」

 「…ああ、知られたか…。怜銘…いや、セリと呼んでも良いか?」


やはり怜銘は、的確に私の正体を見抜いていた。今の私の状態は、日本で彼女と恋人だったという、曖昧な記憶だけの状態だ。恋人として過ごした日々も記憶にあれど、詳細な出来事にも話を合わせられるかは、分からない。


其れでも…今は、彼女の話に合わせようと思う。何時か…この記憶が神の気まぐれだと、正直に打ち明けるつもりだ。いくら記憶が存在しても、私はまだ過ごしてもいない未来の日々を、自分が体験したとは思えない。それに、異世界を十分に理解したとも、言えない。


私の返答を聞くや否や、顔を俯けた正妃。怜銘が今どういう顔なのか、私には見えない。ふと彼女の手を見れば、小刻みに揺れている。


…もしかして、俺が隠していたと…怒ったのか?


 「……双ちゃん、前世では双ちゃんの恋人になれて、幸せだったよ。だけど…私が先に死んだから、さよならも言えなくて…ごめんね。双ちゃんに再会した時に、真っ先に謝ろうと思ってたし、幸せだったことも伝えたかったの。まさか此処で会えるなんて、驚いたけど……凄く嬉しい!」

 「…れい、………セリ………」


今の怜銘は、前世の『世里銘(せりな)』なのだろう。言葉遣いも仕草も雰囲気も、前世の姿になったのか…。世里奈が求める私の姿は、未来の『双愁(そうじゅ)』なのだろう。()()()()()()()()()怜銘であれど、今は…私が未来でつけた愛称で、呼ぶ機会(とき)である。


……そういう事情か。前世で儚くなったと当人から聞いていたが。彼女は私に謝りたかったのか…。私と彼女が同じ記憶を持たない以上、記憶の共有は永遠にできない。竜の神は決して気まぐれなどではなく、未来の私達が不幸になるのを、見過ごせなかったのかもしれない……


彼女は私が()()()()()()()()()、そう勘違いしたようだ。私が動揺するに値する内容が、今の謝罪に含まれている。彼女が長年悔いていたとも知らず、また未来の記憶の中にもない。神の意思は理解できるが、未来で私と彼女が出逢うことで、死別という危険を伴う(リスクがある)のだと、私の心はざわついた。未来で…幸せは掴めないのか?…彼女には過去となる世界も、私には未来の世界となる、どう足掻いても……


……本来、過去は変えられないものである。それは、過去の世界の住人では変えられない運命だ。しかし、異世界からの闖入者ならば、転生して過去の世界を不幸にしたように、また未来として変えていくことは、可能ではあるようだ。但し、転生者に未来を変える能力があるならば、此方(こちら)の世界と彼方(あちら)の世界で転生を繰り返す、そういう繋がりは断たれることだろう。それに、其方(そなた)にはその能力がある…。


唐突に、竜の神の声が私の頭の中に響く。これが、神から啓示を与えられたという状況か…。私の疑問に応えてくださったのか。未来の記憶を与えられたのは、神もまた未来を変えたいのだろう。


神の啓示に依れば、私には未来を変える能力がある。私のその能力こそ、この世界と異世界との繋がりを切るらしい。言い換えるとすれば、双愁は世里銘の人生全てに、関わる必要があるようだ。それならば、未来で私が足掻けば足掻くほど、私達の幸せが得られるのか…?


……竜の神のご厚意に、心から感謝致します。怜銘と世里銘のことは、愁水と双愁が必ず幸せにすることを、此処に断言致します!…私達が幸せを掴む姿を、どうか神の領域から見守っていただければ、と…。


生まれて初めて、私は神の存在に感謝する。双愁として生きる世界に、神の存在はない。自分の決意と神への感謝を、今のうちに告げて置こう。双愁が竜の神を覚えているのか、愁水には分からないのだから。


……我々の謝罪を、受け入れたか?…罪もないお前達を巻き込んだ、ワレ()神たちからの罪滅ぼしである。お前達は絶対に、幸せになれ。其方達が幸福を掴むまで、手助けしよう。其方達の生涯を見守り、神の責任を果たそうぞ。


……竜の神が責任を取ってくださるのは、大変有り難いことですが、人間が使う言葉とは、少々異なるかと。()()()()()()()責任は、重過ぎる気が致します……


……神も暇ではない。人間の営み全てを見守るのは、無理だ。特に異世界は頻繁に接触が出来ない。何が不安か分からぬが、心配は無用だ。






    ****************************






 私の頭の中での神との遣り取りは、実際の時間にしてみれば、其れほど経過していなかった。1分にも満たない、僅か数秒のことと思われる。神の領域から現実に戻れば、目の前には涙を堪えた怜銘が居て、先程と変化がないようだ。本来ならば泣き出す寸前の妻を放置し、呑気に神と交信した自分を許せないところだ。


今の時間は日本流に言えば、夜の7時~8時ぐらいであろうか?…侍女を含めた使用人達は皆、私達が居るこの部屋から既に去っている。今は私達夫婦2人だけの時間だからこそ、正妃を1人にしたくないのだ。私の所為で、彼女が寂しさや悲しみを感じるのは、嫌だ。自分から生み出された流水を、私は理解してやれなかった。怜銘には同じ想いを、させたくない……


 「セリは…謝まる必要がない。私は君との記憶はあれど、他の記憶はあまりないんだ。君と過ごした幸せな記憶が、私の全てなんだよ。だから抑々、君が謝る必要はないんだ。」


私は、彼女に本当の真実を隠した。泣きそうな妻に今、態々真相に触れる必要はないと、神の厚意に甘えることにした。自らと同じ記憶を持つ転生者、正妃がそう思い込んでいるならば、其れを…利用しようと思う。例えそれが間違った行為だとしても、今はまだ真実を打ち明ける時期ではない、と。


 「……そうだとしても、貴方に謝りたい…。私は双ちゃんだけでなく、愁水さまのことも思い出せなかったから……」


私はそっと、彼女の肩を抱き寄せた。彼女は私に凭れ掛かると、目を瞑ったまま涙をぽろぽろ溢れさせた。双愁との思い出を取り戻したことで、世里銘としての感情が抑えきれずに、溢れてくる状態となっている。


 「…私も同じく、墨清季の小説を切っ掛けに、思い出したばかりだ。怜銘がセリだったことは凄く驚いたけど、それよりも…杏梨の存在の方が、強烈過ぎるよな。お陰で、墨清季が杏梨だと判明したけれど、私は複雑だよ。」

 「…ふふっ、そうですわね。清季があの杏梨さんだったなんて、とても驚きましたもの。彼女は初めから、わたくしの正体に気付いておられましたわ。竜の神様に頼まれたと…。双……愁水さまもご存じでしょう?…ゲームの中の『清季』は攻略対象ではなく、ナビゲーターキャラなのですから。」

 「……ああ、そうだ。私が創作した、()()()()()()()()()()()だったな。」


……怜銘と同じ記憶があるフリをするのも、案外と難しいものだな。現世の記憶を素に、双愁が創作したゲームだ。本当は ギャルゲーという 部類(ジャンル)で、『宮ラブ』と 呼ばれるほど女性に人気が出たらしい。未来の双愁は十分理解していても、愁水の私には理解不能の 部類(ジャンル) だな…?


今の正妃は世里銘ではなく、現世本来の怜銘に戻りつつある。口調も普段の彼女に近くなり、私への態度も普段の様子に近い。彼女も全ての記憶を思い出し、私の未来の姿を知ったことで、日本で恋人でいた頃よりも、親密になった気がする。これは私としても嬉しい限りなのだが、素直に喜べない部分もあったりする。


未来の私は、流水と()()()()()()()()()筈だ。流水と共に、私が彼女を幸せにするのだと、改めて決意したのである。彼女の素敵な笑顔を見たい。来世でも恋人として、思い切りイチャイチャしたい。皇太子と皇太子妃若しくは、皇帝と皇后という関係性ではなく、ごく普通の一般人の国民になって、もう一度出逢って恋をしたいと思う。自分達の未来を知ったお陰で、願望がどんどん大きく膨らんでいく気がするのだが。本当に人間とは、何とも強欲な存在なのか?


その後、この日は怜銘と夜遅くまで語り合い、今よりずっと信頼できる関係になれた筈…。過去の話ばかりではなく、この世界での未来も語り合う。正妃も肩の荷が下りたのか、晴れやかな笑顔を見せている。


正妃の本心を知れて、私も晴れやかな気分である。時折、彼女が寂しそうな顔をしたが、前世の恋人に別れができず、悔いていたのだろう。異世界で別人となったのに、双愁を忘れずにいてくれた。私が未来に転生した所為で、前世の彼女の運命が激変して、私の存在が彼女の死の原因となれど、私は何も知らず……


未来に転生したら、此処での彼女との大切な日々を、絶対に思い出す!…そう決意してからは、目の前にある幸せを見失わないよう、私は懸命に生きる努力をする。そうして穏やかに年月を重ね、私は皇帝に怜銘は皇后に即位した。それは…あっという間の出来事で。


お腹の子も無事生まれ、その後も私達は子宝に恵まれた。子供達は元気にすくすく育ち、親元から離れて行った。私は50代というまだ若いうちに譲位し、成人した子供達のうちの1人が皇帝に即位した。こうして…麓水国の平和は、今後も守られていくだろう。


 「…今まで、ご苦労様でした。どうかわたくしが傍へ参りますまで、待っていてくださいませ。後からわたくしも、貴方の元へと参ります…。()()()()()()()()()()、わたくしは…今まで、とても幸せでしたのよ……」


私が先に未来へと、旅発つことになるようだ。我が妻には…後から、来てもらうことにしよう。私は黄泉の国で、先に行って待っているよ、と。


……ああ、貴方に見送られ…幸せだ。今度の人生も、また貴方と共に幸せになりたいと願うよ。今度こそ、彼方の貴方を死なせたりしない。貴方を守って見せる!…絶対に、2人で幸せになろう!!


もう声も出せず、心の中で誓いを立て瞼を閉じる。私は二度と目を開くことはなかった。その数年後、彼女が崩御したという事実を、私が…知る由もない。





                終わり

 さて、怜銘や愁水の初恋物語は、今回で最後です。開始から丸1年、筆者には長かった…。中華風作品は初めてで、試行錯誤した印象が強かった。漸く完結となった今では、感無量と言えそうです。


この章では過去や未来が頻繁に登場し、読みづらく分かりにくいと、思われたことでしょう。そういう理由から今回だけですが、もう1つの名を使いました。多少は分かりやすくなったかも…?


以下、今回の本文の補足です。


● 愁水が神に重過ぎるという場面は、神が自分達の生活を監視する気だと、感じています。それに対しての神の返答には、深い意味はありません。人間の生活を守るつもりでいますが、愁水には別の意味に聞こえ、神に揶揄われたか嫌味を言われたように、感じたようでした。所々、神を非難する雰囲気が見られるかと。


● 本文の中で、振り仮名も含めてカタカナ文字が見られますが、怜銘だけでなく愁水も、記憶に引き摺られています。勿論、自分では全く気付かない……


● 愁水と怜銘とは、前世が逆だという真相に関して、愁水は怜銘に嘘を吐いています。その後、怜銘に真相を話したかは…ご想像にお任せします。


以上が補足です。ご覧いただき、ありがとうございました。



※本編終了後の番外編、漸く最後となりました。この後に、現代版の人物紹介を投稿します。それにて、『宮ラブ』は完結となります。最後まで応援していただき、本当にありがとうございます!

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