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宮ラブ 〜後宮入りは、全力で阻止します!〜  作者: 無乃海
本編終了後の番外編 【本編のその後では…】
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31。過去と未来を結ぶ試練

 今回も、とある人物視点で話は続きます。前半は、ちょっと話が逸れますが。

 「これは、麓水国の書物と同じ意味を持つ『本』で、私が書いた本は『小説』という分野であり、本を書いた作者が創作した物語、という意味があるのです。」


清季の小説の表紙には堂々と、『小説』に関する説明文がこう記載されていた。


今年、麓水国では『小説』なる書物が、話題を呼んでいる。国が管理する書物は国の歴史や政務ばかりで、お堅い内容だ。これらは、有名な学識者達が国の為に執筆した書物で、勉学で参考とされる貴重な書物でもある。庶民達が見たり読んだりする書物は、未だ必要ないとされていた。


無名の作家が執筆するのも、娯楽的な物語を書いて売ることも、今まで誰も成し遂げたことがない。執筆活動をしないというよりも、物語としての書物を売り買いして読むという、習慣がなかった。無名作家の物語は書物として値しない、そういう風潮である。また書物は非常に高価であり、庶民が買うのは難しい。貴族の子息が勉学に利用する、今まで()()()()()()()であった。


紙が非常に高価で、貴重とされている時代。書物を執筆しようとするのは、貴族ぐらいであろうか。伝記的な物語の伝授として、昔から口伝えで語る方法なのだが、商いとして生計を立てる者達は、口承師と名乗っている。麓水国各地を転々としながら、世代を超え代々口承を受け継いでいる。


気の向くまま旅をする口承師に会うのは、皇族でさえ難しい。この国の何処にいるか見つけるのも、容易ではないからだ。怜銘の前世では、『本』という書物は大量に存在する上、口承より迅速に伝わる手段があるそうだ。


まだ流水が生存した頃に、怜銘から聞かされた話だ。その頃から私は、本という書物を作りたい、誰もが本を読める国にしたい、そういう願望を持っている。前世の日本という国では、本を読めない者は居ないそうだ。誰もが学校という場で勉学を義務とされ、男女共に文字を学ぶ。私も、この国の発展を望む。そういう点でも、日本を見本としたい……


 「大層な妙案だが、執筆には多くの紙が必要となる。それほどの量を、どう手配するのだ?…他にも、問題は山積みだろう。」


皇帝陛下が懸念されるのも、無理はないことだ。成人後の私も、日本という国を丸ごと真似る気はない。その当時の彼女が、自分が見た夢だと語っていたことから、彼女の為にそうしてあげたいと思っただけで…。彼女と正式に婚約し、漸く彼女の前世の話だと知ることになる。当時のあの話は単なる夢の話ではなく、彼女自身の過去となる前世の記憶であり、()()()()()()()()()日本の話であった。


……ああ。彼女の話していた出来事は、前世で体験していたのだろう。現実世界で彼女が生きていた頃の、実話だったのか……


単なる夢の話ではないと知った私は、強く決意した。閉じ込められていた頃からの私の夢であった、この国を変えていくという決断をした。敢えて、茨の道を進むことにしたのだ。


 「皇太子さまに折り入って、聞いていただきたいことがあります。この国で娯楽とされる物語を、私が執筆して世に出したいのです。それには紙や資金が必要で、後宮を辞す時のお給金に、()()()()()()()()いただけないでしょうか?」

 「…ふむ。私にその話をするとは、庶民も読める書物を広める計画に、気付いているのかな?」

 「…つい最近、竜の神様からまた呼び出しを受けたのです。その時にお聞きしました。それで皇太子さまに取り入るのも、1つの手かと思いまして…。」

 「…其方は、自分の欲望に忠実だな。神も…お人が悪い。仕方がない、其方の物語とやらに私が助力してやろう。其方は必ずや、物語の書物を書き終えよ。」

 「…皇太子殿下が…助力してくださる?…それは、私のスポンサーになってくださるという、意味なのですかっ?!」

 「…すぽ……何だ?…怜銘の…前世の言葉か?」

 「スポンサーです。資金を出して、援助する人のことです。沢山の紙と多大な資金が、執筆するのに必要なんです。沢山売れれば売れるほど、援助した資金が倍以上に膨らみます。それを期待し必要な資金を出してくださる人、それがスポンサーなんですよ。勿論これは、他の商売にも通じる基本でして…」

 「…ああ、全て理解した。そのスポンサーとやらに、私がなってやろう。」


私と怜銘の婚姻が決定し、後宮入りした者達が退宮する前…。娯楽とする書物を執筆したいと、墨清季が申し出る。もしや、私の夢を実現する架け橋になるやもと、清季のスポンサーとやらになることにした。清季は元々、怜銘の侍女として仕えていたので、信頼に値すると判断したのである。怜銘が、娯楽的な本がないとぼやいていたから、私も即決したけれど……


 「まさか、こういう事態に陥るとは……」






    ****************************






 「これは…この世界で書いた、杏梨さんの小説?…この世界でも、彼女は作家になったのね?」


今は、私の正妃である怜銘。彼女がぽつりと呟いた途端、私の頭の中に…何かが流れ込んだ気がする。本来、これは…私の記憶にないものだ。しかし、私はこれに…覚えがある。


……竜の神の仕業だな?…私の記憶を、都合よく操作したらしい。本来、この世界の私が死後に向かった先、未来の世界の記憶だと思われる。いくら私が未来を懸念し、私と彼女の記憶が共有できないことに、物寂しく思うこともあれども、未来の記憶を今の私に受け渡す行為は、神の領域外ではないのか…?


怜銘にとっては過去の世界で、私にとっては未来の世界。その記憶を思い出させるかの如く、蘇ってくる。彼女と同じ記憶を私も共有できる、そう単純に考えるなら嬉しい限りだろうに……


当然ながらその記憶には、彼女との時間枠だけではなく、他者と関わった記憶も追加され、私は無言のまま眉を顰めることになる。怜銘が私を不審げに見つめていても、不機嫌な私は気付けない。今の今まで、その記憶がなかった私。怜銘を喜ばせるのは自分だと、思っていたかった。上機嫌だった私が、急に不機嫌になったことに疑問を持つのは、当然のことだろう。


…幸いにも此処に居るのは、我々だけだ。先に侍女を下がらせ、私の手から彼女に手渡して良かったよ。竜の神は人間相手に、何処までお節介なのか…。私が今得た記憶では、未来でも怜銘と私は互いに気付けず、私も過去の記憶はないのだろう。神が余計なお節介をされなければ、私も彼女も…何も覚えていなかった。


それでも神は、私の幸せを願ってくれているのだろう。未来も過去も、私は…怜銘と幸せになりたかったから。私は何度生まれ変わろうと、彼女の傍に在りたいと望み、それは…過去も未来も。神のお節介に、心の中では苦笑しつつも。


……ただ…()()()()()()()は、不満だ。せめて1人きりの時間、若しくは夢の中に居る時に、記憶を追加してほしかった。


皇太子になって以降、私が1人になる機会は殆どない。流水が存在して私が監禁されていた頃、私が逃げられないという前提で、双子の存在が麓水国の極秘情報であり、誰かに狙われる理由もないと、侍女も護衛も誰も…傍に居なかった。しかし、私が皇太子に即位した時、侍女や武官を傍に置かれた上、隠密もこっそり付けられている。今の私の傍には、必ず誰かが傍に付く。今も近くで待機する隠密に、百も承知であった私も未来の記憶に気を取られ、忘れてしまったようだ。


…前世の話をする時の怜銘は、口調や行動が普段とは異なる。()()()()()()()()()状態の私も、未来世界の影響を受けるとは、(つい)ぞ…思わなかったな。それほどに()の世界の影響は強く、日本という国の独自の文化、日本人としての生活習慣など、私の居る世界とは比べ物にならないほど、大きい存在だと言えるのかもね。本当に興味深いよ、日本という異世界の国は……


私の隣では、小説に熱中する我が正妃が居る。小説の虜となった彼女は、夫の存在を忘れているようだ。そういう愛らしい彼女に見惚れれば、未来の私と過去の彼女との貴重な日々を、垣間見ることになる。私が未体験であったとしても、過去に起きたことと錯覚するぐらいだ。


私は視線を自分の手に移し、手に持った本の表紙を確認するように見た。本を手に入れた時は全く興味がなかったが、今となって漸く好奇心に襲われ、初めて目を通すことになる。


清季の小説は、後宮が舞台となっている。彼女の妄想も含め、ある程度は誤魔化したようだが、我々夫婦を題材(モデル)としたのは間違いなかった。小説の主要人物達が現皇太子夫妻だとは、後宮の詳細を知らぬ者には分からずとも、王宮・後宮に仕えている者達や、一時的に後宮で暮らした令嬢達には、題材(モデル)とされる登場人物達に心覚えがあるだろう。私は全く気にしないが、怜銘は…絶対に嫌がるだろうな。そう思いつつ振り向けば、顔を真っ赤にして恥じらう正妃が……


恥じらう正妃もまた可愛いな…と、彼女を愛しく思いつつも、何気なく本の表紙に視線を落とした私…。表紙に載せられた作者名に、目を見開く。先程、妻が呟いた言葉とも重なり、無言のまま暫し固まる。


…これは悪夢だ。嫌な予感が当たったな…。神のお節介よりも清季の方が、私にとっては厄介ではないか…。初めて見た筈の名に、以前から良く知ったように感じていたのは、清季が転生した『杏梨』だったからだろう。流石に私も、ショックを隠し切れそうにない。


 「……皇太…いえ、愁水さま?…どうなされたのですか?」


私は顔を思い切り顰め、本を睨み付けていたらしい。私の様子が急変し、何となくおかしいと気付いて声を掛けてくれる正妃に、今は…応える余裕がなかった。何時(いつ)正妃は我に返ったのか、普段ならそう揶揄う私なのに。


…神よ、何故『杏梨』も転生させたのだ?…疑問を()()()()()()()、応えてくれる筈もない…。事前に知っていれば、転生するのを阻止しただろうな……


 「貴方は…ご存知でしたか?…僕清季の前世が『杏梨』であることを……」

 前半は過去の話を含みますが、後半からは前回の続きとなります。竜の神は少しお節介な神様のようですね。彼も相当に混乱しているのか、日本人が使う言葉が…ちらほらと、出てるかも…? 杏梨さん、前世も未来でも…彼の天敵?



※本編終了後の番外編です。本編は完結済み。今年中を目途に、番外編完結を目指します。現在は、番外最終章です。完結まではあと数話を予定しています。最後まで応援をよろしくお願いします。

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