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宮ラブ 〜後宮入りは、全力で阻止します!〜  作者: 無乃海
本編終了後の番外編 【元幻の章】
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13。面倒見の良いオカン

 今回からは、元幻の話となります。彼の相手は、誰なのか……

 黄家おうけ の次男として生まれた元幻(がんげん) は、今年20歳となる成人男性だ。炎豪以上の面倒見の良さで、普段は 小黄(しょうおう) と呼ばれる彼も、後輩達には 大哥(にいさん) と呼ばれ慕われている。黄家と青家は昔から仲も良く、丁暗を実の弟のように特別可愛がり、面倒を見ていた。


彼も武官という立場から、外見はかなりゴツイ系の大男である。炎豪と比べるとまた異なるタイプではあるものの、見た目で女性達から敬遠される傾向は、炎豪と似た者同士と言えそうだ。


彼を知る誰もが、炎豪を上回る面倒見の良さだと、真っ先に述べるだろう。まるで彼自身が世話好き女性の如く、後輩達の世話を焼くのが好きなのだ。あの(いか)つい顔からは全く想像不可能だが、()()()()()()()()()()()細かい事柄にも、配慮できるタイプである。オカマでもニューハーフでもなく、同性が恋愛対象でもないが。


元幻の幼少時、母親が身体を壊した。黄家待望の女児となる4つ下の妹は、殆ど母と触れ合えない状態で、彼の父や嫡男の兄に過度に甘やかされ、我が儘に育ってしまった。だからこそ、彼が母の代わりとして妹に根気よく諭し続け、妹・凜紫が悪役令嬢へと進む道筋を、知らず知らずのうちに圧し折った。丁度その頃に、凜紫は丁暗と出会っていたけれど、自分が2人の初恋の架け橋をしたとは、元幻は全く知らぬ事情であろうか。


また、彼より2つ年下となる、青家(せいけ)の親戚に当たる令嬢・恋華(れんか)は、彼の幼馴染でもある。恋華は、丁暗の従姉弟(いとこ)という関係でもあり、清家分家として同じく『青』を名乗る家柄の娘だ。嫡男だった丁暗の父が本家を継ぎ、その弟である恋華の父は分家を名乗っている。


幼少時頃の丁暗は泣き虫で、感受性の強い少年であったものの、従姉に当たる恋華は一見して、おっとりとして楚々とした美少女だ。偶に真顔で諫言を言ったりと、同年代の子供らに『怒らせたら怖いタイプ』と認定されたが、正にその通りの人物だと言えよう。丁暗に対して怒ることはなくとも、自分より年上の元幻には、容赦なく棘のある言葉を告げたりと、遠慮もなかったが……


妹の面倒をずっと見てきた彼には、大人びた恋華は苦手だと言うべきか。天邪鬼な凜紫とは逆に、しっかり者であった恋華は、全く手のかからない子供であっただろう。寧ろ、彼女にキツイ一言を言われた元幻が、毎回のように落ち込んでいた。


 『緑登竜は、女性遊びをしている』


そういう噂が流れた頃から、登竜の妹として 茗明(めいみん) の存在を、偶然にも知ることとなった彼は、彼女の姿を見て思うところもあり、それを機に元幻は登竜の面倒を見るようになる。彼女は実の兄を蔑むような目で、思い切り睨んでいた。現在の姿の兄に不信感を持つ彼女は、品行の悪い兄を毛嫌いする行動に出たようだ。以前の彼らは仲の良い兄妹だと評判であったものの、兄が()()()()()()()()()()と思い込む妹は、許せない心境なのだろう。


元幻は、存外と空気を読む。登竜が何か秘密の職務に就いていると、何となく気付いた。炎豪は皇帝から聞かされていた為、登竜の本来の職務をしっかり把握できたが、逆に聞かされていなければ、登竜が隠し事をしていると気付けても、本来の職務まで見破れたかどうかは分からない。


秘密の職務と言えば、皇帝や皇太子からの指示で動く密偵であろうと、元幻は其処まで見抜くものの、決して言葉に出すことはない。登竜本人にも気付いた事実は、一切口に出すこともなかった。


登竜も、馬鹿ではない。元幻に気付かれたことに、百も承知のことだ。質問されたり断言されたりしない以上、お互いに黙認することが妙案である。それは皇帝や皇太子も承知のことなので、要は…バレた後も指摘されたり見咎められたり、そうならなければ良いだけなのだ。簡潔に言うならば、黙認して見逃してもらえば良い…ということになる。


そういう事情を良く知る元幻は、登竜と茗明の兄妹を大層不憫に思う。黄家と緑家の関係は特に敵対はしていないが、逆に特別な交流もなかった。自分の面倒を見てくれる彼に、登竜も少しずつ気を許し始め、女性嫌いとなった事情を語る。


…登竜は女性嫌いになっても、同じ女性である母親や姉妹の為に、異性を好ましく思えるように、彼なりの努力を重ねてきたようだ。母と姉妹を嫌わないようにと、職務として自ら異性に疑似恋愛を仕掛け、克服しようとしている…。


登竜は、女性恐怖症になった時期がある。本人からそういう事情を聞かされ、元幻は当たらずとも遠からず、彼なりの解釈をした。無意識ながらも努力を重ねる登竜の姿は、何とか自分が間に入って仲裁できないものかと、彼の()()()()()()()の心に火を付けたようだ。






    ****************************






 「わたくしが幼い頃からお慕いする登竜お兄様は、尊敬するに値するとてもご立派な人物で、家族思いの真面目な勤勉家でしたわ。わたくしの自慢の兄上でしたのに、何故か…お兄様は別人のように、すっかりお変わりになられて……」


登竜と血の繋がる妹として生を受けたことに、今迄ずっと誇りに思いながら生きてきた茗明は、溜息を吐きつつ愚痴を零す。これからもずっと、兄を誇りに思うだろうと信じていた彼女は、盲目的に信じていたこともあって、王宮に就職した後の兄の姿に落胆し、何もかもが信じられなくなってくる。


茗明には兄の登竜の他にも、他家に嫁いだ姉達が3人居る。登竜は嫡男ということもあり、(いず)れは緑家を継ぐだろう。その際には兄が、()()()()()()()()()()()女性との婚姻をと、都合良く夢見ていたのは間違いない。


兄が女性嫌いとなった時期があると、実は…最近になってから知った。自らの信頼も何もかも裏切られた気がして、闇雲に兄を嫌い憎む姿勢でいた。けれども、自分の期待や思い込みが大きく、兄は無理して応えてくれていたのだと、兄は何も裏切っていないと知ったばかりだ。兄側の事情を知っても、皇帝の支配下で兄がスパイ活動をしているとは、彼女は…未だ知らない。


兄は女性嫌いとなる原因や事情を、彼女はその真相を聞いただけだ。女性をはべらかす行為は単なる見せかけで、家族にも言えない何らかの秘密を隠している。そういう隠密に関わりそうな内容は、未だ彼女に言えぬ事情であった。


これらの真相は飽くまでも、緑家一家から見た一般的な見解だ。緑家当主は具体的な真相を知るも、家族にも打ち明けられぬ話だと、身を以て知っていた。あまりにも茗明が兄を蔑むので、話しても差し支えない程度の事情を、真相として告げることにしたのだ。兄が女性恐怖症となった原因と理由は話せても、女性関係の淫らな噂話に関しては、詳しく話せない。職務に関することは、1つも……


 「登竜はもう、既に成人した男性なのだ。女性遊びの噂などに関しては、彼奴にも何らかの考えがあるのだろう…。其れなりに彼奴も、何かしらの正論の理由を用意している筈だ。…茗明。お前が兄に落胆する気持ちも、父も母も…分からなくもないのだが、兄の立場も少しは考えてやりなさい。これ以上兄に対し、過度の期待を掛けないでやってくれ……」


父からそう忠告され、茗明も意地を張るのを止めようとする。兄のことを理解していたつもりでいたが、自分は全く理解していなかったのだと、今更のように気付いた。父の言葉の重さに、初めて彼女は反省する。


…ああ、わたくしは…今まで、登竜お兄様の本当のお気持ちを、慮ったことがなかったのですね…。お兄様が異性に恐怖を抱かれておられたことも、未だに女性嫌いは治っておられないことも、何もかも…存じませんでしたわ。あの頃のお兄様は、妹のわたくしの過度の期待にも、我慢をなさっておられたの?…あらっ、確か元幻さまも以前に、わたくしに同様のことを仰っておられたような……


茗明は其処まで考えて、ふと思い出す。登竜の先輩となる元幻は、彼女が実兄を誤解していると、話し掛けてきたことがある。それも、何度も何度も…。茗明と登竜を仲直りさせようとして、彼女に声を掛けてくれたらしい。


その時の茗明は、兄のことには全く聞く耳を持たず、元幻は苦笑しつつも何度も声を掛けてきたことを…。兄に関する話題に、耳を貸そうとしない彼女に、彼は何かと世話を焼こうとしたので、余計なお節介小母(おば)さんみたいな人だとは、感じていたけれども…。如何やら、世話を焼きたがる母親みたいな部分と、包み込むように広い心で見守る父親のような部分と、両方を持つ人のようだ。


自らの感想を思い出し、茗明はつい…吹き出した。何しろ元幻は背が高く、がっちりとした身体をした大男であり、この世界では変凡とされる厳つい容姿だ。怜銘の前世の世界から見れば、容姿も筋肉も悪くないと評価されることだろう。彼も彼方(あちら)の世界に転生出来たならば、()()()()()()()()()()ことだろう。


美男美女レベルの高いこの世界では、元幻の外見はモテない容姿だ。彼を良く知る茗明も、どう見ても野蛮そうな男性の彼が、女性のような世話好きオカンだと思い出せば、あまりにも想定外な彼の正体に、笑いが込み上げてきて仕方がない。


…元幻さまは、本当におかしなお人です。登竜お兄様のお世話も、されておられるなどとは…。わたくしのお世話をしてくださるように、お兄様のお世話もなさるかと想像致しますだけで、笑いが止まりませんわ。ふふふ……


侍女が退出した後、茗明は1人自室で笑い転げる。笑っては失礼なことだと思いつつも、彼の容姿や仕草を思い出す度に、笑いが込み上げてくる。兄が緑家を出て行き、兄の様子がすっかり様変(さまが)わりしてから、()()()()()()()()()()()()()のだと、彼女は漸く気付くことになる。


…そうでしたわ。これほど大笑いを致しますのは、何年ぶりかしら?…元幻さまのお陰でしょうか?……ふふふっ。…駄目ですわね。当分の間は、笑いが収まりそうにございませんことね……


久しぶりに彼女は穏やかな気分となり、笑い続けるのであった。

 元幻の章、始まりました。前半は元幻メインの話で、本編では怜銘の友人枠で登場した茗明が、後半からはメインとなっています。


今回も、実際の中国語を一部使用しました。振り仮名は飽くまでも、日本の意味に訳しています。正式な読み方ではありませんので、お間違いなく。また、今回のタイトルともなっている『オカン』や横文字の言葉は、この世界には存在しない言葉なのですが、敢えて本文で使用しました。但し、会話中や心の中のセリフに含まないようには、配慮をしたつもりです。



※本編は終了しています。本編終了後の番外編では1人1話ではなく、人物により話数が異なる予定としています。次回の更新は未定です。次回まで、もう少々お待ちくださいませ…。

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