5.距離感
ソニアとの一件があってからアベリアはソニアと少し距離を置くようになった。
それはアベリア自身のためもあるが、ソニアとのトラブルを避けるためでもある。
「アベリア!せんせいがきょうしつのピアノさわっていいって!」
「いいの!?」
「うん!アベリア、ピアノひけるでしょ?ひいてよ!」
リリーは目を輝かせながらアベリアを見つめた。
そんなリリーの大きな声を聞きつけたクラスメートたちも口々にアベリアにピアノを弾くようせがんだ。
「わ、わかったよぉ…」
みんなの圧に負け、アベリアはピアノの椅子に座った。
クラスメートみんながアベリアを見つめている中、教室の隅にソニアはぽつんと座っている。
ソニアが気になってしまうが、ピアノを少し弾けばこの注目も終わるだろうと思い、アベリアはピアノを弾き始めた。
弾き始めてすぐクラスメートたちは盛り上がった。
「さすがアベリア」
そう囃し立てた。
その声を聞いたソニアはクラスメートたちの中に割って入ってきた。
そしてアベリアを椅子から突き飛ばした。
「アベリア!だいじょうぶ!?」
「いたた…だいじょうぶ、びっくりしたぁ」
「ソニアなにしてんだよ!」
ソニアは何も言わず走って教室から出て行った。
帰りに迎えに来た母に先生からその一件は伝えられた。
「アベリア、怪我してない?」
「うん、だいじょうぶだよ、ママ」
アベリアは少し嫌な予感がした。
もしかしたら自分は無意識に自慢をしてしまっているのではないかと。
ピアノが弾けることがソニアには自慢に聞こえ、不快に思ったのではないかと。
「もうきょうしつでピアノひかない」
「じゃあ、おうちでたくさん弾きましょう」
「うん」
幼稚園児でも距離感を取るのがとても難しい。
子ども故に感情のコントロールが上手くいかないから手が出る。
奏時代の陰湿ないじめに比べたらこんなの軽い。
アベリアはそう思ってしまっていた。