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彼女の具現化

 僕は神谷光太郎。26歳、大学所属の科学研究者だ。今はアンドロイド開発の第一人者として研究に携わっており、先日ようやく、数体の開発に成功した。今からデータを入れ、記念すべき1体目が完成するところだ。

(リリリリリリ...。)フィールドワークから直帰した同期の研究者が確認の電話を掛けてきた。

「あぁ。今、データを輸送中だ。心配するな。ん...?帰りを待つ彼女もいなくて可哀想だって...?最早研究対象がそれみたいなものさ...。ははっ、ありがとう。後でまた連絡する。」(ピッ)

「宜しく頼むぞ…、ホープG7.」

自身のスマホを差し込み、媒体にしてデータを輸送する。大学所属の研究者だから、媒体端末等の支給にも限度があり、今回は自前の物を使うことになってしまったのだ。数分掛かるだろうから、一服しに外へ出る。

今回開発したアンドロイドは、メンタルヘルスケアを目的とした、人型アンドロイドだ。会話はもちろん、家事や人命救助まで出来る優れものである。自ら考えて状況に応じた言動をとることが出来、緊急時用として、ダイナマイトの内蔵や変形機構等の戦闘能力も備えている。外見も自由にカスタマイズ可能で、今回は僕好みの女性仕様に仕立てあげた。

「大変です!」

「どうした?助手の足柄!」

「我々のアンドロイドが暴走を始めました!!何者かが電子的介入を起こしたものと思われます!!」

「くっ…。今すぐ全てのシステムを遮断しろ!」

「了解!」

緊急時用のブザーが鳴り響く。

ブーーガシュン…。

どうやら棟内の設備システムは止まった様だ。不安そうな研究員達の声が響く。すぐさま、緊急通信で連絡を入れる。

「皆、聞いてくれ。アンドロイドに異常が生じた為、一時的にシステムをダウンさせた。僕はこれから、アンドロイド研究室へ確認に行く。研究員達は皆、その場で待機するように。」

状況を確かめに行かなくては。万が一、アンドロイドが暴走したままだったなら洒落にならない。電気が消えて静まりかえった不気味な研究棟。助手が一緒とはいえ、心細い。

その時……!!

(ドガッシャンンンンゴゴォォオオオ!!!!!!)

アンドロイドが襲いかかってきた!どうやら研究室から抜け出してきたらしい!すかさず、持っていたスタンガンで応戦する。

(バッッチンン!!!バチィ!!!)

火花が散る。このアンドロイドは電気に弱い性質で、それだけが改善点だったのだ。しかし、一向に機能停止する様子がない。何故だ?試験段階では、外部から電気的な刺激を加えるとすぐさま停止したというのに!?

「アブソル-ト...ライト......!!!!!!」

よく分からないことを言い出したと思えば、鉄球に変化させた拳を振り上げた。

「部長!!」

叫ぶくらいなら助けろや足柄!なんてこった!こんな研究室で死ぬなんて、何処ぞのホラーゲームだよォ…!

…と思ったその時……!!!

(ヒュン)

大きな物体が、横を通り過ぎていった。あれは何だ…?三角形で…、でも丸みを帯びていて…、優しい形…。

(ドンガラドンドンガラズッドォォオオオオオンンンンンン!!!!!!!!)

大きな爆発が起きた。これは死んだか?

―オオオオオオ―

あれ?死んでない…?安堵に包まれつつも不安を抱きながら、顔を見上げる。そこには1体のアンドロイドが立っていた。

「好きだったよね…?おにぎり……。」

何処かで聞いたことのある、懐かしい、癒される声…。いつだったろうか。大学受験で迷走していたあの時を思い出す。

「久しぶりだねぇ↑神谷君♬」

この子はまさか…!?

「7年ぶりだねぇ↑会いに来てくれなくって、寂しかったなぁ…?」

「ふ…福与さん…??ど…どうして…!?」

「え~??君が私に、命を吹き込んでくれたんだよぉ?↑ありがとぉ♬」

姿を見るに、話しているのは、僕がスマホを媒体にしてデータを送り込んだ1体目のアンドロイドらしい。どうやらデータ輸送が成功し、暴走を免れたようだ。にしても何故、数年前にプレイしたゲームのキャラが乗り移っているんだ?

「部長…、よくぞご無事で…。ところで…、一体何が……?」

「それは僕が聞きたいさ…。」

何が何だか分からぬまま、僕達はただ茫然と立ち尽くすだけだった。


 数日後、福与さんから話を聞き、ようやく事の詳細が見えてきた。彼女がアンドロイドのデータとして乗り移ったのは、持ち主が一番に愛着を持って接したデータを、アンドロイド自らが抽出したかららしい。研究用のデータより恋愛ゲームのデータの方に愛着があったというのは、科学研究者としてなかなか問題ではあるが…。そして、福与さんが倒した、電磁介入を受けたアンドロイドの詳細も見えてきた。どうやら犯人は、人類の技術革命に懸念を抱く保守派の一端、「ライトセーブ」であることが分かった。「アブソルートライト(絶対的な権利)」とは、人類の生物としての存在権を主張する、彼らのポリシーである。スタンガンが効かなかったのは、内部へ電磁的介入を起こした際に発する微弱な電波により、電気を分散させることが出来ていたかららしい。偶然にも凄い発明をしたものだと、敵ながら感心してしまう。向こう側に渡ってしまったアンドロイドは、先日倒した者を除いて2体。試作に1体作るだけにしておけば良かった。予備機を3体も作るんじゃなかった…。

「どうしたの?落ち込んでるの?」

「あ…あの、仕事中にやめてくれよ…。」

「いいじゃんいいじゃん↑」

「もう…。」

「ははっ。賑やかで良いですね。部長の趣味も知れましたし。」

「まったく。やめないか、足柄ぁ。」

「でもどうするのですか?敵は恐らく、アンドロイドの完全破壊を目的に、また攻めてくるでしょう。その時は、彼女しか頼れる者はいません。」

「そうだな…。」

彼ら「ライトセーブ」の目的は、我々が所有するアンドロイドを完全破壊し、人類の技術進歩を絶やすこと。福与さんを殺した後、他のアンドロイドも処分するつもりだろう。

「私はアンドロイドとして生まれたんだから、皆の希望の前に散れるなら本望だなぁ」

「そんな寂しいこと言わないでよ、福与さん…。」

確かに、彼らへの対抗は福与さんを用いた作戦しかない。しかし僕は、自分の研究を…、大切な人を、失いたくはない。


 敵には本拠地がバレてしまっている。襲われるのも時間の問題だ。考える暇もなく、迎撃の準備が始まった。まず、先日使った「おにぎり型爆弾」を強化する。緊急脱出用のダイナマイトが変化したものだったから、元の武器を軍事用の爆弾に置き換える。次に主砲を肩に取り付ける。なんだかすっかり、軍事武装という感じだ。

「ねぇ?神谷君。」

「何?福与さん。」

「これが望まれた未来だったのかなぁ。君は確か、研究者になる為に猛勉強して、理科大学に入ったんだよね?私、スマホのカメラ越しで見てたよ?勉強で疲れて、未来に迷って、ちょっとした気分転換があの恋愛ゲームでさ…。志望校に受かった日、君はお世話になった予備校講師に言ってたよね?『僕には夢がある。アンドロイドの開発に携わり、寂しい思いをしている人々を癒せるような、心のあるアンドロイドを開発したい』って…。起動中だったポケットのスマホから聞いてたんだよ?それがこの主砲なの…?それがこの軍事用爆弾なの…?人類は何処へ向かっているの…?人を癒せるはずの者が兵器になる世界?もしこれが君の望んでいない世界なら、私はやっぱり、君と生きたい。」

「福与さん…。僕だって…、僕だって嫌さ!!こんなに可愛くて大好きな人に、笑顔を作ってほしい人に、こんな…、軍事物資を積ませるなんて……!!」


 ある日、敵の侵入が確認された。我々の気持ちとは裏腹に、作戦の決行が開始される。作戦自体は至極単純。迫ってくる2体のアンドロイドを福与さんと共に迎撃するだけだ。

「神谷君。」

「なに?福与さん。」

「この戦いが終わったら、私のことはどうするつもりなの?」

そんなの決まっている。

「もちろん、一緒に暮らすさ。アンドロイドに人権を付与して貰えるよう、行政に申し出てみるつもり。」

「嬉しい…。でも私達が人権を持ったら、今回みたいな騒動がまた起きちゃうかもしれないよ?」

「そんな事ないさ。大切なのは人とモノの線引きをすることじゃあない。技術革新と如何に時を紡ごうとするかだ。それが人類の発展というものなんじゃないかな?」

「そっか…。」

敵が侵入してきた音が聞こえる。こちらへ迫っているようだ...!!

「来ましたよ!部長!!」

「了解!じゃあ、行こうか。」

「うん。」

敵陣に突入する。我々が開発したアンドロイドは完全武装を施され、変わり果てた姿で殺気を帯び、そこに立っていた。

「行くよ!ぶちかませ!!」

直接戦をして欲しくないから、主砲で応戦し、敵を迎撃する。彼らは幸い、近接用の武器しか持っていないようだ。

(ドガァァアアンン!!!)

1機撃破!あと1機だ。僕らの未来はもうすぐそこまで来ている…。

「徹底射撃だよ!!」

2機目撃破!!成し遂げたのだ。

「やった!やったね!!」

福与さんと僕は互いに熱く抱擁をした。その後、敵の本拠地を突き止めた僕達は、警察と共に一斉摘発を図った。


 僕は神谷光太郎。35歳、研究所長だ。あれから、アンドロイドの安全性が問題視され、戦闘機構や自立稼働の一斉見直しを図った。自立的ではなく自律的に活動出来るプログラムの開発に成功し、今はそのプログラムを搭載しているアンドロイドだけが開発を許可され、人権が付与されている。

「所長、お茶をお持ちしました。」

「あぁ、ありがとう。」

ここにいる美人さんは私の妻、神谷 はるさん。元はホープG7という名だったが、人権が付与され、姓と名も獲得した。

「ねぇ。そろそろ私達の結婚記念日じゃない?」

「そうだね!」

                僕達の生活は、まだ始まったばかりだ。

 福与さんが現れるシーンに「おにぎり型爆弾」を飛ばし、「コイツはまさか…?」という展開で、主人公のおにぎり好きを伏線として回収しました。また、前作のゲーム落ちも、主人公の携帯がキャラのデータをアンドロイドへ反映させることで、伏線として回収してみました。「人類の技術革命に懸念を抱く」という「ライトセーブ」の行動理念も、スッキリさせて描いてみました。

 敵側のアンドロイドがあまりにもあっさりと倒されるので、そこにもう少しストーリー性を含ませてみても良かったように感じました。

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