初めての彼女!?
僕は神谷光太郎、17歳、高校2年生。突然だが、僕には今、好きな人がいる。僕と同じ、文学研究会に所属する同級生、福与 はる さんだ。彼女は栗色のボブヘアーで、透き通るような黒い目をしている、非常に可愛らしい女の子だ。姉御肌な性格で、よく僕を構ってくれる。正直言って、どストライクだ。彼女とは今、文化祭に出展する文芸創作を共同で行なっている。毎日が楽しい。この日も胸を躍らせて、部室の扉を開いた。
「お疲れ〜」
「あ、神谷君!お疲れぇ↑」
この語尾が上がる少しあざとい話し方も、僕の好みである。
「じゃあ早速、昨日の続きを始めようか。」
「うん、そうだね〜。」
共同の創作を行う時は、2人で予め用意した案を元にパソコンで打ち込むのだが、部室のパソコンは数少ない故、各チームで1台ずつ使うことになる。よって必然的に、互いの距離が近くなることが多い。
「ねぇ、ここの文章、こんな感じにした方が良さげじゃなぁい?↑」
彼女の声を間近で聴きながら作業が出来るなんて…、ここは天国か…!?
「あぁ…、確かに…、そうだね。」
緊張して、まともに話すことが出来ない。すると彼女は何を思ったのか、クスッと笑い、
「うんうん↑神谷君、パソコン打つの早いよね〜。凄いなぁ↑」
何故か意味の分からない所を誉めてくる。個人的には凄く嬉しいが、彼女は偶に、ズレたことを言う。そんなこんなで、彼女に癒されながら、共同執筆は続いた。
「お、そろそろ5時だな。一休みするかぁ。」
この僕にはもう1つ、好きなものがある。おにぎりだ。中身は焼肉。この時間におにぎりを食べることが僕の中でのルーティンとなっている。文芸創作も頭を使うから、腹ごしらえは欠かせない。運動部と違って文化部は動かないから疲れないという訳ではないのだ。
「神谷くんはホントにおにぎりが好きだよねぇ↑またお肉?↑可愛い〜。」
こうやって福与さんが構ってくれるのも、この時間の楽しみである。緊張でロクな会話は出来ないが、切実に嬉しい。
「いつか神谷君に、おにぎり握ってあげたいなぁ。」
「えぇ…。なんでまた…。」
この人はまたよく分からない事を言う。何故いつも、言われて嬉しいけれど脈絡のないことを突然言うのだろうか。
こんな感じで毎日、授業を受けて、福与さんと話して、おにぎりを食べ…、彼女と話しておにぎりを食べ、話して食べ、話して…、話して……。そのうち、福与さんとは一緒に帰るほどの仲になった。やったぜ。
部活の帰り道、彼女は言った。
「ねぇ、今度の日曜日、空いてる?↑」
「あ、あぁ…、空いてるけど?」
「今度友達と水族館行くんだけどさ〜、下見したいから、一緒に来てくれない?」
水族館に行く為に下見なんて必要あるのか…?友達って誰なんだ、もしかして彼氏?そんなに重要なイベントを控えているのか?そんな疑問が湧いても聞けるはずもなく、
「べ…、別にいいけど?」
と、OKしてしまった。福与さんと水族館に行けるなんて。こういうの、デートと言ってしまっていいのだろうか。いや、彼氏と一緒に行くのだとしたら僕は練習台…?都合のいい男なのか?まぁ、なにはどうあれ、憧れの女の子と出掛けるのだ。それなりの準備をしなくては。
こうして僕は、水族館の下見、の下見をしに行くのだった。正直、水族館は少し苦手なのだ。海の中の青い感じが好きじゃない。深海エリアなんて、水槽を見ていると、魚諸共吸い込まれそうな感覚になってゾクゾクしてしまう。こういうの、深海恐怖症というらしい。彼女の為だと克服しようと試みたが、結局、途中で引き返し、入口から出して貰った。不覚だった。絶対変な客として顔覚えられたわ。
当日、福与さんはキマった服装で、待ち合わせ場所に来た。白いワンピースの上に水色のブラウスをはおり、清楚感溢れるコーディネート!普段は制服姿しか見ていないから、僕にとって、効果はバツグンだった!
「おまたせ〜、待った?」
「いや、今来た所だけど?」
こう答えるのが定石だと、ネットに載っていた。戦略は充分練ってきてあるのだ。
「ふふっ♬そっかそっか↑今日は宜しくね〜。」
今日はこの福与さんを独り占め出来るなんて…!!夢のようだ。
まず、第一ステージ。水族館へ行って、彼女と楽しい時を過ごす!券売カウンターに行くと、この間、僕の対応をしてくれた係員がいた。くすくすと笑っている。
「はい、大人2名様ですね〜。今日はお連れ様も一緒なのですね!頑張ってくださいねっ…!」
「神谷君、もしかして下見来てくれたの?」
「う…うん、まぁね…。」
「わ〜、嬉しいなぁ〜↑でも、なんで頑張ってくださいなんだろうね?」
「さぁ…。」
その訳は言えない…。言ってはならない。
「水族館の雰囲気って良いよね〜。空想的で、満たされる感じ…!!」
「そうだね〜。確かに、綺麗だ…。」
改めて見ると、水族館の雰囲気も良いと思えてきた。煌びやかな水槽を泳ぐ魚達が、自分達をもてなしてくれているように感じた。でもこれは、好きな人と一緒にいるからなのだろう。やっぱり好きな人がいるって、最高だな!
そうこうするうちに、因縁の深海エリアに来てしまった。彼女には迷惑をかけたくなかったが、本能には逆らえないのだろうか。彼女の手を掴んでしまった。
「ひゃんっ!?」
「あ、ご…ごめん……!」
「どうしたの?突然…。え、もしかして、怖いの?」
「面目ない…。」
「しょうがないから、このまま、手、繋いでてあげる。頼りないなぁ…、もう……。」
もしかして、嫌われたか?後で挽回しなくては!こうして初めての水族館デート(?)を終えた。
次は第二ステージ。近くのショッピングモールに付属する公園で、昼食を摂る事にしていた。彼女は今日の為に、料理をしてきてくれたようだ。
「そうそう!神谷君の好きなおにぎり!握ってきたんだぁ。一緒に食べよ!」
「お、おう!」
青空の下、彼女と2人で昼食を摂るなんて…。この上ない幸福である!
「なんならあ〜んして…。」
「もう。調子に乗らないでください。」
流石にダメなようだ。でも、段々彼女と流暢に話せるようになってきた。人って変わるものだな。彼女のおにぎりを頬張る。塩は控えめで、ふわふわとしたご飯が美味しい。彼女の優しさが染み込んだ一品である。
「どう?美味しい?」
「うん!とても美味しいよ!!」
「良かったぁ〜♬人にご飯振舞ったの初めてだったからさ〜。心配だったんだぁ〜」
「そっかそっかぁ。でも、本当においしいよ!!ありがとう〜」
「いいえ〜↑でも良かった〜。神谷君呼んで〜。」
「良い下見?に、なった?」
「ん?あぁ、その話なんだけどね…?実は…、友達と行くって話は作り話だったんだ。」
「えっっ。そうだったの?じゃあ、何の為に…。」
「もう…。そこまで言わせるの?神谷君と行きたかったからだよ?でも神谷君、全然誘ってくれないんだもん。このくらい言わないと何も出来ないでしょ?」
「……!そうだったんだ……。」
こ…、これは…!!勝ち確というやつか!?そうなのか!?そうなんだな!!やった!!やったぞぉぉお!!今なら…、今ならいけるかもしれない!!!
「下見したのは、苦手を克服する為なの?」
「そう。福与さんの前では迷惑掛けられないから…。結局あの日は、係員に出して貰ったけど。」
「そうだったんだ…。でも、そこまでしてくれるのは、なんで?」
「だって僕…、福与さんのことが好きなんだもん!!」
言ってしまった。これは言ってしまったぞ。賽は投げられた。
「ようやく言ってくれたね…。待ちくたびれたんだよ?これから宜しくね…?もう。現実ではこうはいかないんだからね?」
やった!僕は成し遂げたんだ……!!!
<ハッピーエンド Aルート>
スマホを閉じた。あぁ〜、面白いゲームだったなぁ。僕は神谷光太郎。男子校3年生。来年から大学生、の予定だ。今丁度、話題の恋愛ゲームをクリアした所だ。それにしても、こんな恋愛劇を一度経験してみたかったものだ。あ〜あ。大学では上手くいくのかしら?
恋愛ゲームだったというオチにすることで、恋愛小説に独自の捻りを加えたつもりです。また、主人公の視点にすることで、表側では恋愛に奥手な姿を、内側では好きな人と話せてテンションが上がっている様子を描き、表と裏での主人公のギャップを表現しようと思いました。
内容に関しては、「想う→デート→告白」という、一番ついていきやすい展開にフォーカスしました。しかし、それだけでは単調すぎると思ったので、最後にゲーム落ちをかますことで、インパクトも持たせようと思った次第です。 作中で、「福与さん」の思わせぶりな態度に気付いていないこと、水族館の克服を盛り込むことで、主人公の奥手さを際立たせたり、初めてできた彼女の為に苦手を克服する健気さを描いたりして、アクセントをつけたつもりです。 また、福与さんの台詞の語尾(↑や♬)は、可愛い話し方をする女の子であることを強調しましたが、ゲーム内のキャラであるからこその表現であるとも捉えられ、表現に多様性が加えられました。




