女神との邂逅
前回までのあらすじ:何不自由の無い生活、もはや日々は消化だった。昼下がり、いつものように微睡んでいたら寝てしまったらしい
#状況が分かりづらかったので大幅に加筆修正しました
辺りが暗い、どうやら夜になってしまったらしい。今は何時だろうか、身体を起こしたところ、突然柔らかな光に包まれた。
……これは俺の部屋では無い、真っ白い空間と言えば良いのだろうか。空中にガラス玉のような球体が幾つか浮かんでおり、それらを見守っている桃色、あれはローブだろうか。人らしき姿が見える。先程まで寝ていたソファーに座ったところで桃色がこちらを振り返り笑顔を向けてきた。
「あ!起きましたね、おはようございますっ。ソファーごと持ってきてよかったぁ」
女だ。歳は10代後半だろうか、髪はローブよりも濃い目のピンク色、長さ腰辺りまであり傷んでいる様子は無い、よく手入れされている様だ。目尻の下がった大きめの目で美人というよりは可愛いといった印象の整った顔立ちをしている。
「可愛いだなんて知ってますけど照れちゃいますよぉ」
喋らないほうが良いタイプだろうか、そして俺は何も言っていない。まず無いだろうが顔に出てしまっていたのだろうか。一旦置いておいてまずは現状把握からだ。俺はソファーにもたれ脚を組む。
「お前が何者かは聞かない、一体どういうつもりだ?」
拉致されたと仮定して心当たりは無いことも無いが、流石に気づかないほど耄碌していない。執事の藤田が薬を盛ったということも考え難い。夢……というわけでも無いのだろう、交渉を進めなければならないが面倒事になりそうな予感がしていた。
「うーん、ええとですねぇ。人生に刺激をプレゼントしちゃいました、というところでどうでしょうか。勿論ノークレームノーリターンでお願いしますね、いっぱいおまけもつけたので!お仕事も。うふふ」
過去形か。そして全く意味が分からない。会話の成立を早々に諦め、仔細を確認したところどうやら次のことが分かった。
まずは状況からだ。かなり長い話だったので一回整理しておこう。
・あのガラス玉の様なものは女神の管理する世界であり、作るためにはエネルギーが必要
・管理している世界の数が多いほど女神としての格が高い
・世界のエネルギーを増やし新しい技術発見の確率を上げさらに成長を加速させたい
・一つの世界で、形を維持するエネルギーの枯渇が進み、世界を放棄し作り直すことを考えている
・異世界者の過剰な召喚が枯渇の原因となっている
・生物は死ぬと魂が世界に還元される、魂の質が高いほどエネルギーが大きい
・女神の代行者として力を行使して欲しい、加えて話相手になって欲しい
求められている役割は詰まるところエネルギーの回収らしい、簡単にいうと異世界者を殺せという訳か。
ちなみにNC NRとは世界を押し付けられただけでなく、元の世界に帰れないという意味も含まれているらしい。あの上手いこと言った、みたいなドヤ顔は殴っても許されるのではないだろうか。
俺が選ばれた理由は、人生に飽きた者に意義を再び見つけさせるのが女神の役目といった建前から始まり、容姿が気に入ったという巫山戯たもの、執着心の無さ、おおよそ他人に無関心であること、それらを含めて【向いている】という彼女なりの判断があったそうだ。『一生この世界で暮らしていたいです』とか『チートでハーレム作りたいです』みたいな者よりは代行者としてエネルギーの回収だけをしっかりとこなしてくれる事が期待できる俺のような者の方が確かに【向いている】のだろう。話し相手にはとても向いているとは思えないが些事だ、触れないでおこう。
「そもそも拒否権すらも無いことだ、条件さえ良ければ承ろう……藤田には少し悪いがな。」
俺が居なくとも会社は経済活動を続けるだろう、藤田への給金も自動的に支払われることになっている、心配しているかも知れないが俺一人居なくなったところで世界は回るのだ。
「では待遇について聞かせてもらう、【異世界者】を殺害・回収するにも相応の力が必要だろうな。そして代行者として力を振るっても良いができるだけ目立つのは好ましくない。まさか野原や森に放り出されてスタート、と言う筈では勿論無いと思っているが相違無いか?」
女神直々に呼ばれたとは言え、いわゆる異世界モノの世界観では【目立った行動をしてしまう】ように誘導させられている節がある。勿論話が進まないから止むを得ないところはあるが、ハードワーカーになる気も今更無いのだ。それに異世界者は特別な【スキル】を持つということは一筋縄では行かないだろう。
「幸也さんはしっかりしてますね、流石旦……ではなく私が目をつけただけあります、うん。代行者として【消失】の【権能】を与えちゃいますね。これは何でも消せちゃうんです、何でもです。これってすごいんですよ!」
非常にざっくりした説明だが、おいおい試してみればいいだろう。
「まずは身分証明用のギルドカード、それにしばらく暮らせるだけのお金、あとはスキルもあげちゃいますね、中身あとでのお楽しみです。『ステータスオープン』と念じれば分かりますので大丈夫。そろそろ時間も無くなってきたから説明はこの辺りで送りますね、世界の中心の王都なら色々便利ですから。暫くは慣れるまで働かなくても大丈夫ですよ、寂しくなったり困ったら連絡してくださいねっ!」
彼女のウィンクと共に淡い光に包まれる。そういえば……あいつ自己紹介すらしなかったな。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ようやく主人公の名前を出すことができました。