プロローグ:穏やかな日々
初投稿です。自分でも小説を書いてみたくなりました。
俺は他人の欲しがる凡そ全てを持っていた、そして飽いていた、そして手放すことも躊躇しなかった。
そうだな……例えば俺は金や時間を持て余している。金が湧いてくる仕組みを作り上げたので、自然と余った時間は自由に使えると言う訳だ。自身の時間を金に換えている人間は余りにも多い。
美味いものを食べたければ文字通り何処にでも食べに行くことが出来たし、女を抱きたければ俺に惚れた者から高嶺の花と呼ばれるアイドル、女優だろうと不自由することはなかった。幸いなことに生まれ持った容姿は整ったものであったし、トレーニングも欠かす事は無いため肉体自体もそれなりのものであろう。
他人のすることに口を出す、周りに見せつけるかの如く振る舞う、人を試すような言動……正直付き合っては居られない。数度褥を共にした、精々その程度。出かける、食事をする、寝る。行為も含めてこの【作業】は限りなく排泄に近い何かなのだろうと理解した。何処かに愛情を置き忘れたのかも知れないが、取り戻したいとは……思わなかった。
人間の欲には限りは無いと言うが本当なのだろうか、俺は欲を満たす度に興味を失っていった。そして取り戻したいという執着も無かった。ゲームで言えばクリアした後の世界で暮らしているようなものだ。贅沢な暮らしに飽きると段々と生活はシンプルになって行く。モノ自体は良いものなのだろう、執事の藤田はその辺り抜かり無い人間だ。そうだな、一つだけ言わせてもらうと『坊っちゃん』呼ばわりはいい加減やめてほしいものだが。
そんなルーティーンを繰り返し消化する日々、昔はこれで良いのだろうかと自問したものだ。色々と試して、その時々に何かしら思う事はあったかも知れない。ただ今思い返してみても、その記憶は何かぼんやりとしていて【どうでも良い】ものに成ってしまっているようだ。
結局人生とは死ぬまでの暇つぶしなのだろう。多くを【持っている】俺は、持たざる不幸を知らないのかというとそういう訳でもない。子供の頃は……そうだな、これはまあ良い。俺は神では無い、自身に問題がある部分もあるのは間違い無いだろう。ただ何かに代えて望むというものでは無いことは確かだ。
それにしても『求めよ、さらば与えられん』とはよく言ったものだ。何も求めなくなった俺には、とどのつまり与えられるモノも無いと言ったところか。
昼下がり、何度繰り返したのかも分からない思考をシャワーで流し、いつものようにサンドイッチを喰む。そして藤田の淹れた紅茶を流し込む。食後だからか、それとも穏やかな陽気のせいだろうか。柔らかなソファーに身を預け微睡んでいるうちに、ゆっくりと意識が闇に沈んでいく……
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。