経過と報告
奴隷を買った日、そこから一年は途中経過というべき、本来結果の出にくい時期であった。
薬が完成とわかれば、死に体の実験物がそこにいる。理性的な目をして、ここでの暮らしを受け入れている。私はそんな彼を応援している。薬の検証のために生きろと。
私は、利己的な研究者として、あいつらに接したつもりだが、それともそれに気づいていないのか、どうにも嫌われていると感じたことがない。
私は子育てなんぞやったことはない。老人に世話を焼いたことはない。私以外の人間に純粋な善意からの施しなどしたことがない。
なのに、最近この実験奴隷たちに好かれている節がある。それは勘違いのほうが情を切り捨てやすいためそっちのほうが良かった。
例えば、獣人の少女、ミンだっけか。こいつはそれが顕著に出た。こいつも獣人ではあるが、ただの実験対象のガキだ。
そんなガキは、当初薬を摂取した後から、奴隷ゆえの不安定な心境からか、必死に捨てられないように私にかまってきた。残虐趣味のやつなら喜びそうな顔をしている。
何が捨てないで、だ。私の薬をくれてやったのだ。私の前で死ぬか私の手で死ぬかしかお前の選択肢は残っていないのだ。
何も言わないと、獣人ゆえ、そのバカみたいなエネルギーを宿した体から、日通し涙を流すのだから、近所迷惑たまったものではない。まぁ、防音の障壁は張っているが。
逆に獣人の少年のほう、、、シンは、屈しないともいうべき態度でなつくことはない。別に獣臭いとは言わぬが、私は忙しいのだから構わないでほしい。ミンの世話でもしてやれ。
奴隷の中で一番会話ができるのはやはり年長者の爺さん、いや、ゴンだ。魔法に理解があり、世間話くらいはさせてもらおう。
もう一人の男、ニンは中肉中背で、威圧感のない様相で、見ていてとても安心できる。とても弱そうだ。
奴隷になる以前は鍛冶をやっていたそうだ。
そして、鳥人間改めハーピーとなった女子、インチだ。こんな名前の鳥いそうじゃないか。
ハーピーとは鳥人間と違って、伝説とされるくらいの存在だ。そりゃ飛ぶために手を翼に変えたような見た目をしているんだからな。私としては、開発者が失敗して、実験に巻き込まれた結果、飛ぶ代わりに腕と頭脳を失った、という仮説にかけているが。
まぁ、インチは安定のアホだ。最初こそなつかれたが、檻に閉じ込めたら邪魔をしなくなった。単純である。利口である。そして、なんか面白い。
爺さんが一年間の間で死んでいない、というのは不老薬の一種の目安だったが、私は慎重だから2年待ってみようと思う。
だから、あと一年、インチでもみて面白おかしい様子を確認でもしようかな。我ながら地味な研究をしてしまったと今思う。
イレーズは、当初の期待値としてみたいなかったハーピー、インチの研究も視野に入れようとしたのであった。