奴隷の見繕い
イレーズは、地下に続く階段、その先にある奴隷商にその足を運んでいた。
奴隷商、奴隷を商業的に扱っている者たち。これは、国によって奴隷の待遇は違うらしいが、この国では普通に認められている。
奴隷についても、確かな出で立ちで、理由のきちんとしている者ばかりで、犯罪者から奴隷になる者以外は比較的真っ当な者ばかりであろう。
まぁ、奴隷というところで、普通の経歴だというやつはかなり少ないのだが。
そういうやつらをどうにかして、市民の合意をもって国が保証するということで、奴隷を買う主にも厳しい制約がある。
奴隷がしたことは、犯罪行為であれ、主が責任を持ち、それを全うすること。
奴隷を死なせた理由に応じて、主がそれ相応の罰を受ける場合がある。
奴隷は自分の借金などに値するものを支払えば、その行動の裏が取れ次第、奴隷から解放される。
上の二つが大体のもので、奴隷の尊厳と安全を守るという、新国王らしき決め事だ。
しかし、こんなに約束を締結して、自分の買う者に指さされては、買う意欲のある客もいなくなるだろう。奴隷商も商売にならなくなってしまう。
だが、これだけで終わらないのが今の新国王だ。奴隷商にも奴隷を維持するための食糧とスペースを確保させている。奴隷商のアフターフォローまで自分の関わったことには必ず結果を付けている。
しかしこの国王、奴隷という制度があること自体を最初は議題に上げていたそうだが、古参の大臣たちがそれを許さないだろう。
こうなったら、私兵を持ち出して、権力を奪還しようとしてくる奴がいるかとは思うが、国王自体が優れた剣の名手である。まともに近接戦闘ができる奴は大陸を探しても少ないだろう
奴隷の誓約、最後の一つ、これは定期的に、兵士が確認に来る。奴隷の所在を明らかにし、働きによって解放されているかどうか、逐一視察しているらしい。
奴隷という下の身分に対しても慈悲を与える今の国王の人気度は高い。古参の貴族や大臣が丸め込もうとしても出来はしないのだ。
奴隷の話からそれてしまったが、ここで言いたいのは、品質と品ぞろえはばっちりということだ。
逆に、認められないのにやっている奴は、その値段も法外なものがあるが、大抵は管理が悪く、性病もちで、そっちの世話にも向かない。
無論、イレーズは、そんなことのために買いに来たのではなくて、あくまで実験のためである。
しかし、イレーズのやろうとしていることは、場合によっては、奴隷の制約に抵触してしまうかもしれない。
しかし、そのときはそのときだ。ドラゴンを味方につけたイレーズは、大軍に匹敵するほどの実力であることは間違いない。
そんなイレーズがどんな奴隷を買うのだろうか。
イレーズは、懐から白金貨を一枚出すと、奴隷商に渡し、能力重視で頼む、というと、言葉より早い勢いで、奴隷商がはい、といって、奴隷がいる部屋のほうに飛んで行った。
白金貨は、持っているだけで、貴族と間違われるほど高価な硬貨だ。一介の奴隷商ではその金額に驚き、飛んでいくのも無理はない。
一人待たされるのもつらいので、イレーズは魔法で収納したものから、テーブルとイスとティーカップを取り出し、優雅にくつろぎ始めるのであった。