交渉成立
あくまで穏便に行くための交渉、まだまだ実力的に持て余している私は、ドラゴンの返事を待ちます。
すると、「よかろう。そちらの条件を飲もう。」とこれまた素直に言ってきてくれました。
高い地位だろうか、体裁を立てたまま、こちらとしてもわざと下手にでた手前、それに乗ってきてくれるとは有り難い。
私の予想通りとはいえ、単なる獣であれば、一縷をかけて私を殺しに来るでしょう。改めて賢い判断だと思いました。
私は、「それはよかったです。では、さっそくあなたの血をいただきたいと思います。」というと、ドラゴンの王は、その首をこちらに近づけた。
おそらく、うろこの薄い首の腹辺りからということでしょう。気遣いが目に沁みます。
この状況は本来、完全なる隙ではありますが、約束をたがえないのが私です。首の皮を薄く切るようにして、少々血をもらいました。
そうですね、バケツ一杯分くらいですかね。ドラゴンが何やら小さく声を上げたので、苦しかったということでこれくらいにしました。
摂取した血を魔法で収納した後、開いた傷口を直そうかと思ったら、もうそこに傷口はありませんでした。
さすがですね。私に勝てる勝てないではなく、その再生力は見事といえるでしょう。
ドラゴンの長の血、さっそく研究してみたいところである。
それにしても、今非常に私は気持ちが高ぶっていると見える。
交渉事の口調を要らぬ感情にまでつきまとわせるのは自分らしくはないのだが。
もっと研究をしなければ、あのドラゴンを殺さなかったのは、貴重なサンプルだから。ただそれだけだ。
私は、自分の自宅もとい研究室に戻り、ドラゴンの長の血の解析を始めた。
分かってはいたが、再生に関していうことはない。切られた尻尾が数分もしない間に復活する、そんな驚異の再生力を持っていたというだけだ。
ここからが本番である。これまで、私が不老について研究したこと、それは自分自身の時を止めることだ。
これは、私の考えでは、私の力を持ってさえ、自分一人を試す段階に魔力の限界が来る、そのくらいの魔力の要求度が高い。
そして、失敗の代償というのが非常に大きいということである。私は私のやりたいことを形として通したいため、自分に試して、はいそうですか、と死ぬわけにはいかない。
今回のドラゴンの血は、再生力は高いが、それがあくまで人間である私の体に適応しうるものにしなければいけない。
そして、私としたことが、ひとつドラゴンに聞き忘れていたことがあった。
ドラゴンってほんとは何歳なんだろうかって。
不老、病にならない体という、人間を超えた神秘といってもいい領域。
強大すぎる故世間に公表することは決してないが、今私の頭の中ではすでに目の前まで来ている感覚だ。
私は、意識せずともはやる熱を押さえるために、特製のカプセルの中に入り、急速な眠りを迎えることにした。