巫女と守護者
面倒な仕事は夜にするようにしてる。
そうしないと困ることがあるから。
鏡花は夜に人狼が出たという長屋の路地裏にやってきた。
そこには仲間のさそり座のローズ、おうし座の紫苑、かに座のダリア、てんびん座のリンゴも来てくれた。
「さて、今回は多分5人がかりでギリギリ倒せる相手だ。気合を入れていくよ」
私がそう言うとここに集まってくれた友達はみんな覚悟を決めた目をしていた。
でも、最強クラスの蜘蛛の妖怪であるリンゴがいれば勝てると思っている。
夜雀のダリアも弱いわけじゃないからいるだけで心強い。
そんな2人は鏡花を含めた3人よりやる気が薄かった。
「優美であれ。うちがずっと言われたことだ。気まぐれに戦うから期待しないで」
「選択は君次第だ。私は商売と友しか興味がない。それで、今回の報酬はババアに払わせますよ。まぁ、巫女様は負けそうなかったら後ろを頼りなさい」
……訂正しよう。2人はやる気がないわけじゃない。
巫女の鏡花を信じてるのだ。
一応、先に言ったのがダリアでその後がリンゴだ。
そうしていると奴が出てきた時間になった。
懐中時計を持つリンゴが午後10時を告げると、殺気と血の匂いが暗闇から向かってきた。
「食い殺す!」
その声が聞こえた直後、リンゴは硬度の高いクモの糸で素早い攻撃を防いだ。
そして相手をいなして後ろに回らせた。
その素早い一連の動きに戸惑いながら全員で振り返ると、そこには牙をむく少年の人狼がいた。
「あれが例の通り魔?」
鏡花はまだやる気な姿を見てそこに疑問を持った。
本来の通り魔なら戦おうとはしないはずだ。
なら、ターゲットは巫女と守護者なのかも知れない。
「お前らが目障りな百鬼夜行か。完成する前に食い殺してやる!」
その人狼の発言ではっきりした。
こいつの狙いはここで百鬼夜行のボスにもなる予定の鏡花を殺すことだ。
でも、それにしては5人に突っ込む無謀さが気がかりだ。
「やるなら相手になってやる!」
鏡花はこいつについて考察していたが、それに気づかずに仲間達が勝手に動こうとした。
やる気を見せた4人にやらせる訳にはいかないと思った鏡花は前に出て止めた。
「これは無理する必用なんてない。リンゴ、ジャッジメントでやって」
相手の目的を聞いて無駄な戦闘をやめて平和に解決することにした。
鏡花にそう言われたリンゴは天秤を取り出すと人狼に向けながら近づいた。
それを見せながら天秤座の力を発動した。
「選択せよ。価値でその者の生死が決まる」
そう言った途端に人狼は殺気を抑えてリンゴに対峙した。
これが天秤座のリンゴの力らしい。
「これから天秤に乗せる物を出してもらう。互いに情報を話してその重さで生死と勝敗を決める。最後は私の判断で結果が変わる。さて、静かで危険な戦いを始めよう」
本気のリンゴは命を天秤に乗せて、その傾きを情報に委ねた。
大抵の相手はこの最終兵器の圧に負けて天秤を重くして生き残る。
しかし、今回は命をかけてるから最初から重い。
「言っておくが最初に命の価値をはかる」
そう言うと手に持ってる天秤に圧がかかった。
だが、残念ながら守護者に匹敵する価値で最初の戦いは互角になった。
それを見てリンゴはもしかしてと思って手を緩めることにした。
「互角の重さなので出す情報で決まる。では始める」
この一言で仕方なく人狼は話すことにした。
生き残るために。
「俺は葵だ。百鬼夜行はヤクザみたいな集団だと聞いたから壊しに来た。だが、見た感じは違うからやめることにした」
彼はこの話に価値があると思ってるらしい。
でも、これが本音ならリンゴにはやる理由がなくなった。
「こちらは悪くない。百鬼にだって平和な奴はいる」
こう言うと天秤は人狼の葵の方に傾いて消えた。
これで2人とも解放された。
「これで終わりだ。やる必用が無いなら私達は帰るぞ」
そう言うと無駄骨になったとがっかりする鏡花を連れて5人で帰って行った。
それを見ながら葵は何だこれと思った。
その直後に天秤を持つリンゴがすごくかっこよかったなと思うようになった。
そして、ここから葵は無駄なことをやめて翌日から鏡花達とつるむようになった。
ここの裏ボス的な妖怪はのちに葵が謝りに来たので許すことになった。
こんな変なことが起きるのが華幻郷の特徴だ。
覚えておくと普通に思えるかも知れない。