始まり
この世界はパラレルワールドに位置する。
本来ならあり得ない方向に世界がねじ曲がったから、大昔に巫女と数人の人外がそれを安定させて誕生させた。
その時の伝説級の連中はすでに全員が死亡しているが、それは巫女を中心に自然と引き継がれることになっている。
いや、自然に引き継がれたわけではないな。
巫女がこいつだと思った人外に世界の調整者になってもらっている。
それは今回の代で20代目になる。
「これより20代目桜魔の巫女の継承式を行います!」
この世界最大の神社にして約400年前に伝説の巫女が建てた《矢倉神社》でその巫女の継承式が行われている。
今は亡き先代の代理の男がその式の進行役を務めていた。
神社の中で目を閉じて正座する私に延々と長い話を聞かせて役目を引き継ぐ。
正直言ってめんどくさい。
「今回の巫女様は真面目なので形式的な役割の説明は省きます。それは先代様からの遺言書にもやっていいと書いてありました」
ラッキー!これで座ってるのも短くて済む。
この式が終われば私は晴れて20代目として仕事をできる。
日本の国自体が隠す古の郷。《華幻郷》の巫女の役目を。
「えーと、手短に済ましてやれと言われてるので、今日をもってこの方を20代目に任命します。華々しい継承式のはずでしたが、先代の省略癖でこうなったことも代理して謝ります。では、これにて式を終わります」
めちゃくちゃ簡単に済まされて私は適当に巫女として正式に解放された。
これから忙しくなることを考えるとため息しか出なかった。
この日から20代目の矢倉鏡花が神社と役目を継承した。
「仕方ない。死んだクソババアの役目を引き継いだからには神社の管理もしないとね」
そう言うと桜色の巫女服を揺らして鏡花はたくさんの人型の式神を召喚した。
普段なら出来ないが継承式を見に来ていた人達がいなくなったから制限無く力を発揮した。
「私はこんな大きな神社を1人で管理できない。でも、役目を果たすために私は街に行くから任せるね」
鏡花は式神達に神社を任せて出かける準備をしに行った。
残された式神達は主人の考えを尊重して真面目に仕事を始めた。
しばらくして鏡花が巫女服のままカバンを持って出かけた。
境内を通って街に向かうので途中で式神に「いってきます」と言って元気よく出かけた。
街に出ると江戸か何かくらいの古い光景が目に入った。
所々に今風の建物や物があるが、それでも全体的に古くさかった。
そんな中で今風の服が見えるのは結構おかしな光景だ。
「おや、鏡花がもう出てくるとは。神社は余裕なのかな」
鏡花が街を歩いていると親友が団子屋で座って声をかけてきた。
それは夜の王と呼ばれる華幻郷最強の一角《吸血鬼ローズ・ミッドナイト》だ。
日傘で見にくいが相変わらず綺麗な金髪に青い目をしている。
「ローズ、医者の仕事はいいの?」
ローズがいい笑顔で話しかけてくるので鏡花もいい笑顔で質問を返した。
それから隣に座った。
「ここは人外の割合が高い。私の出番などそんなに無いのさ」
「ふーん、てことはいつものメンツが揃うのかな?」
暇そうにするローズの様子から鏡花は先を読んだ。
「そうだよ!」
2人は背後に突然現れたその子に対してため息をついた。
今やってきたのは人間で幻影の使い手、神影紫苑で音も気配も消せる達人だ。
「紫苑、また面倒ごとを持ってきたの?」
「巫女様にそれを土産にするのはバカだと思うんだけど」
「巫女様とヤブ医者、仕方ないじゃん。これでも私は昔から巫女の守護者の1人に選ばれたんだから」
それを聞いて2人は汚物を見る目で紫苑を見た。
それに負けることなく紫苑は笑って勝手に持ってきた仕事を話した。
「今回の相手は集めなきゃいけない12人にふさわしいと思う。十二星の証はまだ無いけど、すでにサソリと牛はいるからそれ以外を揃える必要があるから」
「それで、面倒ごとの内容は?」
「華幻郷に引っ越してきた人外がいきなり問題を起こした。多分人狼だけどその実力は本物だよ。ここの最高責任者がやられた。内容は人妖関係なく通り魔をしたこと」
内容とやられた人物を聞いて2人は驚いた。
やられた最高責任者は日本の首相からここを裏向きに任された《東雲椿》だった。
全てを見通せるから普段は山頂で暮らしているが、巫女が必要ない問題は自分で解決している。
それがやられてしまった。
「ばっちゃんがやられるとは。それほどの相手なら私が出るしか無さそうだね」
「ついでに天秤と蟹も呼んでこようか?待ってるより手っ取り早いと思うし」
「お願いするよ。ばっちゃんはここで最強を誇るけどそれがやられたら私の自慢の友達を使うしか無いもん」
「それじゃ、行ってくるよ。奇襲を仕掛けるなら夜か暗い場所で頼むよ。じゃないと夜の王は力を発揮できないからね」
この流れで戦闘をすることになった。