安らかに
まさかの
安らかな眠りを、、、、、、
蒼い英雄の前で一つの形が崩れる。
神に祈るかのように膝をつき亡者のような右腕はむなしく宙をさまよう。
紅い海へと先に沈んだ銀の切っ先。さまよっても、さまよっても掠めるだけの剣の持ち手。口から、ゆっくりと朱をはきながら、地に引かれるように男は海へと沈む。
動かない、動けない紅い海へと沈んだままの男を英雄は抱きかかえる。ゆっくりと光を見せ、そのままでそっと海へ浮かべる。亡者の腕は人形のように垂れ下がりもう動くことはない。
側に沈んだ銀の刃は主の紅で染め抜かれ主が持つのをただ待つばかり。かすかに動く男の口は言葉を結ばずただ動くのみ。光が差す眼に光は届かず徐々に光は消えていく。
首から提げた装飾は眩しいほどに光を返し消えていく男の思いを乗せていく。返すように英雄が祈りを捧げる
「安らかに」
ゆっくりと蒼い英雄が立ち上がる。牙なる刃を納め蒼い鎧は動き出す。糸でつながれた様に流れていく人。親に連れられた子のように、置いて行かれまいと必死に後を追う。
皆が後を追い終えた頃、男の側に給仕が腰砕けていた。長く柔らかな髪が光を遮る。
無くなっていく男の暖かさを柔らかな手で覆いぽつりぽつりと雨を降らせては、男を困らせる。
その雨を拭うことも、止ますことも出来ないのだ、男には、もう、、、、、、。
「馬鹿、、、馬鹿な、、んっく 人」
給仕は男の胸へと倒れ込む。力強く打つ鼓動も優しく抱き留める腕も愛しそうに髪をなでる手も海へと沈んで聞こえない。
心地よかった温もりはいつまでそうしていても戻らない。
ゆっくりと起きあがり男の顔を優しく撫でる。光を宿さぬ男の眼はゆっくりと眠りへと落ちた。
「愛、してるよ」
女の雨はいつまでも止まず光に照らされ宝石となる。差す光は女のうなじを照らし女は紅い海に沈む銀の刃を柔らかな手でつかむ。
ひっそりと女のうなじに食い込む刃を光は差したからずしっとりと濡れた髪は光を拒む。
銀の切っ先が海へと沈む。
刃が落ちる音がする。
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