騎士
一人称に挑戦
何でこうなったんだろうな。何がどうなったかって、もう俺には解らない。俺は誰、ここはどこってな状況だな。俺は騎士、のはずで、それも出世の望み少なき城の常駐騎士で、ここは王都で、俺の生まれ故郷から三日、馬車で北上した場所だったかな。
俺が騎士になろうと思ったのは、小さな子供の頃だったかな。子供の頃見た騎士は、輝いていて、威厳に満ちていて、あこがれの的だった。
理想と現実の違いに気づくのにそう時間はかからなかった。王都に来たのは俺が15の時、田舎者の騎士希望者なんて俺を含めて数えるほどだった。
入隊試験に好成績で合格し、胸を張って町を歩けるのは初めから決まっているのだ。
それは俺たち中途半端な田舎出身の者ではなく、幼き日より徹底的に教育され、訓練された騎士養成学校の者たち。
鎧も服も彼らの物より悪く、力も知識も実力も彼らには及ばない。
唯一、同じなのは王より授けられし騎士の剣ただ一つ。
そんな小さな事を誇りに働いて3年、小さな誇りが無くなるのなんて常駐の城騎士にはあっという間だった。王より授けられし剣を抜くことなど訓練と都市の武術大会以外ない。
抜いている時間よりさやに収めている時間、手に持っている時間より腰に下げてる時間、もって歩く時間より、体から外して置いておく時間の方が長いのは仕方のないことだった。
それでも、俺はこの町が好きになった、この国が大好きだ。命をかけて王と、王の統治によって平和に暮らす民衆を守る気持ちは強くなった。
輝かしい、名誉も勲章も必要ない、騎士として活躍しどこかの王妃に恋をして王になろうなんて馬鹿げた夢は今となってはくだらない。
小さな家庭を作り、末永く楽しくやっていければ、それでいいさ。
そう思い始めてからもう2年たつ。
まぁ、なんて言ったらいいのかな、今俺は剣を抜いてるわけだ。訓練でなく、武術大会でもない、ましてや剣の手入れなんて城じゃぁしない。いわゆる戦闘態勢というやつか。
出世の希望なんて既に無くし、子供の頃の夢なんて騎士になったときに崩れた。そんな俺が剣を抜くような大事に巻き込まれるのは実に予想外、あぁ予想外だとも。
いつものように夜が明けていつものように見張りに立ちいつものように欠伸をしていつものように仕事が終わるそのはずだったんだ。
どうして、革命なんて起きるんだ。どうしてこの平和を崩す、昨日のあの笑顔を嘘なのか
。どうして国にこだわる、いつまで昔を引きずる。争いなんて殺し合い何て御免だね。ましてや民衆と殺し合うなんて冗談じゃない。
そして、何でお前はそっちにいるんだ、何で剣を向けなければならない。教えてくれ昨日までの思いでは全部嘘なのか。笑いあった日々、交わした約束、誓った思い、全部この日の為だったのか。お前は城の給仕で俺は城の騎士。俺への言葉、思いは嘘だったのか、俺にとっては今でもお前が何より大事なんだ。
「道をあけてくれ、犠牲はなるだけだしたくない」
何言ってるのか意味がわからない。昨日遠征に赴いたあんたが何故ここにいる。あんたは騎士の憧れだろ、蒼騎士の団長だろ、偉いんだろこんな時一番に王を守るんじゃないのか。王から与えられた名誉、王から託された思い、王から認められた力、あんたは王から授けられた剣で革命を起こすのか、王から任された兵で立ち上がるのか、王に変わって民を導くのか。
「無駄な犠牲は出したくはない。道をあけろ団長として命令する」
解ったことがあるそれは、こいつは騎士のあこがれで民衆の夢でこの国の希望だ。そして自らの手を裏切り者として汚していない。友との約束の為こいつを王と認めるわけにはいかないこと。そんなこいつをここまで連れてきたのは城に使えていた給仕たち。抜け道を通らなければその鎧がそこまで青さを保つこと何て出来ない。結局、お前も他の給仕たちも初めからこの時の為に俺たちに近づいてきたんだな。
もう一つ、隊長とやらが王として成るとき俺はこの世にいない。後悔何てしないさ、それが俺の城騎士としての誇り。結局あいつとの約束は果たせそうにないがそれはお互い様だからいいのかな。
「もう一度だけ言う道をあけろ、退かぬと言うなら尊い犠牲になってもらう」
最後にこの思いだけははっきりさせておく。初めから俺を利用する為だけにお前が近づいたのだとしても、俺に見せたえ笑顔が作りものだとしても、一緒に過ごした楽しかった時間、嬉しかった思いが全部嘘だったとしても俺の思いは変わらない。
俺は世界でお前を誰よりも愛している。
だから俺は口にする。終わりの言葉を
「王に使える者として反逆者を通すわけにはいかない」
苦手です