まけぐみ
たまには、起こされるほうの気持ちで
革命だっ!!
夜明け、空がうっすらと白み、かすかに差す光が朝の兆しが見え始める頃だった。
日が沈んでから城の見張りをしていた者とこれからする者が入れ替わった時、その声は城中に響いた。
眠い目を擦りながら自らの宿舎に戻ろうしていた彼は、ただならぬ声に後にしたはずの見張り台へと駆け戻る。青ざめた友人は開いた口がふさがらず額には汗を浮かべ、手を置いたままの剣は鞘ごと小刻みに震えていた。
閉じられた正門の前では無数の人、人、人、ひと、ひと、、、、、、
日が沈む前に一杯飲んだ居酒屋、毎朝他愛もない話をする花屋、公園で子供ら相手に駄菓子を売る気の良い親父、よく世話になる鍛冶屋。数えるのも嫌になる人の数の中に、見知った顔がある。
つい先日まで会話を楽しみ、笑顔で挨拶を交わしていたはずの人々、命を犠牲にしても守ろうと誓っていた人たち、言葉を交わさずとも通じ合えていたはずの彼等
なのに、今はどの眼からも確固たる意志と、並々ならぬ決意が感じ取れる。
「私はドゥルグ王国に滅ぼされし小国グランヌ、今は亡き王が三男ソルゴフ」
人々の前に守るように並ぶ武装した蒼い武具は王国が誇る蒼騎士団。そしてあいつは蒼騎士団団長ソルゴフ。
「亡き父、母の為、無念の思いを抱いて死んだ兄、姉の為、そして祖国を奪われ踏みにじられし民の為、王よ私は貴方を倒しこの国を我らの手へと取り戻す」
憧れていたはずのソルゴフの声は正門を打ち壊そうとする者たちに勇気を与えたが、正門を守ろうとする者たちには絶望を与えた。
何故彼がここに、昨日の大規模な遠征式典は何だったのだろうか。
王が蒼い騎士たちに向けた言葉は幻だったのだろうか。。声を上げている男が言い放った留守を任せるという言葉は偽りだったのか。今となってはもうどうでも良い。今現実に目の前で起きていることが、真実であり、答えなのだから。
眠気など吹き飛んだ彼は震える友人を見続けることが出来なかった。おそらくあの正門が破られれば勝ち目などない、正門を守る亀裂の走った木の固まりな杭に勝ち目など無い。城を守る騎士など正門の前にいる者たちの半分もいない。
王国が誇る蒼騎士に武具も実力もかなうはずが無く、何より親しかった者たちに剣を向けるなど出来るはずがない。
だが、彼等はそうじゃない。
祖国を取り戻す為、目指すはドゥルグ王国、国王セブラの部屋、もし邪魔をするなら容赦なく打ち倒していくだろう。
「ソルゴフよ、私はここにいる」
見張り台の二人は声のする方へと顔を向ける。城の中央にある王の寝室の一際大きな窓からその人は叫んでいた。彼こそドゥルグ王国の現国王、その威厳に満ちた風格と優しげな顔は悲しみと苦悶に歪んでいた。
「ソルゴフよ私はここにいる、逃げも隠れもせぬ。騎士たちをひけ、民衆を沈めよ」
「王よ、私は貴方を倒さなければならない、もし邪魔をする者がいるならば打ち倒すのみ。それはここに集う民も同じ決意だ」
「ソルゴフよ、騎士をひかせ民衆を沈めよ。革命に争いは必要ない」
「ならぬ貴方を打ち倒すまで」
「犠牲になるのはいつも下の者ばかり、私は嫌なのだ彼等を失うのは」
「貴方にそれを言う資格はない。国王セブラ覚悟」
ソルゴフのその言葉を期に無数の人々の声があがる。これが俗に言う鬨の声だろうか、見張り台でその声を聞いた彼は背中に流れる冷たい汗を感じながら一人そう考えていた。正門が音を立ててこじ開けられる。なだれ込む革命の先導者たち。
「お、王の名において」
正門を守っていた騎士が王より授かりし剣を抜き蒼き先導者へと斬りかかる。蒼い騎士は剣を抜き、振り下ろす、舞う朱に崩れる騎士。
「王を、王を守れぇ」
その声に彼は友と同じように走り出していた。
遙か遠くで獣の声を聞く。
見張り台のある棟から王のいる棟へは距離がある。彼等が王の元へとたどり着くよりも革命の先導者が王にたどり着くのが早いかもしれない。先についたとしても獣を相手に勝ちなど初めからありはしない。
どちらにつけば生き残れるか何て考えるほど彼等は愚かで無い。
心残りなのは昨日までの笑顔が偽りか真実か見極められぬ事。彼等は走る、待っているのが絶望だと解っていても、騎士であるが為に。守ってきたはずの秩序を信じて。
「なぁあジルベルス」
前を走る友の声に彼は耳を傾ける。
「この革命を沈めたら、俺はあの娘を妻にする」
名前など聞かぬとも友が誰のことを言っているのか彼には解っていた。
「だから、お前もあの娘を妻にしろよ」
この様な状態になっても普段と変わらぬようにいえる友に彼はついおかしくて笑ってしまう。友に言われずとも彼は心に決めていた人がいた。
「あぁ、もちろんだ」
「子供はたくさんほしいな」
「そうだな」
「たまには家族そろって遊びに行くぞ」
「あぁ楽しみにしている」
彼等は見張り台のある棟を抜け渡りの通路を走る。通路から見える中庭の奥の方から先導者に続いてたくさんの人たちが押し寄せてくるのが見て取れる。蒼い頭を持つ獣たちの熱気は離れた場所にいる彼等にも感じ取れる。
「ジルベルス」
「なんだ」
蒼い獣が牙をむき王ののど元へと食らいついていく。
「約束だからなっ」
友のその声に彼はゆっくりと頷く。首に下げた装飾が光を返す。
握っている剣にしみ出る汗は手から落ちていく、震えと一緒に。
あぁ、約束だっ
死亡フラグってやつです。