金平糖の恋心*
ここはとってもお菓子な世界
咲き誇るキャンディーの花畑
空にふわふわと浮かぶのは、綿菓子の雲
夜になれば、金平糖の星空が広がって。
世界中のあらゆる物が、お菓子でできたこの世界は、
どこもかしこも、甘い香りが立ち込めています。
ビスケットで出来たのベンチの上で
見つめ合う恋人の瞳も、まるで甘い飴玉のようでした。
けれども、
ぽろり、ほろり
甘い恋が、終わってしまったら。
飴玉の様な瞳はまるで溶けてしまったかのように、
雫が流れ落ちて。
こぼれた雫は、星の形の砂糖菓子に変わります。
今日もまた
少女の瞳からから金平糖が零れました。
零れた金平糖は、やがて空に浮かんで、
赤に、青に、黄色に、輝きます。
夜空を彩る金平糖は、死んでしまった恋心なのです。
このお菓子な世界では、失恋をすると
命を亡くした恋心が、金平糖になって夜空に昇ります。
今夜も見上げれば、七色に彩られた夜空の中で
もう随分昔から、夜空に浮かぶ
ひとつの赤い金平糖が、震えだしました。
震えは、だんだんと大きくなり
やがて、空から流れ落ちます。
苦い苦いコーヒーにも
少しずつ、少しずつ
甘いミルクを注いでいけば
苦味はいつしか、忘却の彼方へ消えるように。
苦い苦い失恋の痛みも
時間とともに記憶の彼方へ。
忘れられた失恋の痛みは、
やがて夜空から溶け落ちるのです。
『私』は、流れる金平糖を追いかける。
消えかけのロウソクのように
輝きを増す赤
バームクーヘンの並木道を
力強く駆けていくと、
「…みつけた。」
カステラの道の上に、転がる金平糖
拾い上げて、小瓶に入れる。
空から落ちた金平糖を、拾い集めて『先生に』の所へ、持っていくこと。
それが私の仕事。
先生は、この街の墓守。
墓守と言っても、人のお墓ではなく、
先生が管理しているのは、死んでしまった恋心
金平糖の、墓守なのだ。