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子猫の骸


小学校に上がってはじめてできた新しい友達、明美ちゃんは

同じクラスで、下校の方向が一緒だった。


担任の指示で『一緒に帰る班』を作らされて

一年生は勝手に一人で下校できないから

3人とか4人ぐらいのグループを作って一緒に下校した。


学校からまっすぐの一本道からそれぞれの帰宅方向に別れていくんだけど

最後の最後、T字路の手前で私と明美ちゃんがサヨナラしておわり。


この通りまでくると、お互いに左右に分かれて細い路地に入って帰宅する。


だけどここまでくると私も明美ちゃんもサヨナラと言って帰ることが名残惜しくて

この左右で別れる路地の入口でいつも何をするでもなくしゃがみこんでは

二人で側溝の蓋から湧いてくる蟻の行く先を追って眺めていた。


明美ちゃんは年の離れたお兄ちゃんがいたけど

学校から帰るとすぐに遊びに出かけてしまうし

お母さんも働いていたから、家に帰れば

一人で留守番をしなくちゃならないって言っていた。


私は妹がいるんだけど、近所に同い年の友達がいなかったから

ちょっとでも明美ちゃんと一緒に居たかった。

だから道路の砂をほじくり返して雑草を摘んで

明美ちゃんが帰りたいっていうまで一緒にいた。



梅雨になって雨が降る日が続いて、

たぶん6月くらいだったと思うんだけど

明美ちゃんがいいものを見せてくれるから

今日はうちの方へ寄っていくといいと私を誘ってくれた。


いいものって何だと聞いたら

秘密なんだっていう。


とっても嬉しそうだった。


明美ちゃんの家は下校でお別れする場所から

すぐのところにあって

入学したての4月に一度だけ遊びに行ったことがあった。


その日は明美ちゃんのお母さんが仕事がお休みで

だから家に上げてもらえたんだと思うけど

おやつとか出されて

色々話しかけてくれて優しいお母さんだなぁ、と思った。


それでなにで遊ぶかっていうことになって、

二人でずっと絵を描いていて

明美ちゃんはずっと女の子を描いていた。

クラスで一番に上手だった。

クラスの女子が明美ちゃんから女の子の絵をかいてもらいたくて

休み時間に並んだことがあった。

その日は絵を描いている明美ちゃんを

私が一人で眺めていて、なんかちょっと単純に嬉しかった。


彼女は、クラスの女子で一番背が低くて小柄で

目がくるくる丸くて、人形みたいに可愛いかった。


私は明美ちゃんと仲良くなれて嬉しかったし

なにを話しても面白いことばっかり言って笑わせるから

私は明美ちゃんが大好きだったんだけど、


この日もまた彼女の自宅の方へ誘われて嬉しかったのと

しかも「いいものを秘密でってなんだ?!」と思って

すごくドキドキした。


家の手前まで来たら、

やっぱり学校帰りの寄り道は校則違反だから中断して

お互いにいったん帰宅してからここで落ち合おうとなった。


小雨が降っていて傘をさしていたので右往左往しているうちに

帰宅中の他のクラスの男子も道で一緒になって、

寄り道するなら先生に言いつけるとか言われてだった気がする。



一度家に帰ってから大急ぎで明美ちゃんの家に向かった。

たぶん妹もいっしょに連れて行ったんじゃなかったかと思うけど、

その辺はよく覚えていない。

ただ、大好きな明美ちゃんを待たせるのがだめだと思って走った。


彼女の家に着くと今日は家に大人の人が居なくてお兄ちゃんだけだから

友達は入れられないと言っていた。

そんなことは全然かまわない。


明美ちゃんのお父さんは大工さんで

自宅の前に作業したり道具を収める納屋がある。

納屋の隅にそのいいものを隠しているそうで、

見せてくれる前に明美ちゃんが何を隠しているのか教えてくれた。


秘密なんだけど、

子猫を何処かから連れてきたらしい。

秘密で家の納屋に隠していて、

でもお母さん猫が見つけるかもしれないから

そうなってもいいところに隠しているって言っている。


猫を拾ったの?


長雨が続いていて、

明美ちゃんに言われるままに後をついていったら

ほんとうに小さな鳴き声がする。

ミャーミャー何匹か子猫がいるみたい。


でも。



置いてある場所は長雨の続く納屋の外だった。



その上に大きなかごが置いてあって、

何日か前に連れてきた子猫を

そのかごの中に置いておいて

そのままだったみたいで、


私も当時猫を飼っていて

その猫はどこから家の縁の下に迷い込んだ野良猫で

数日ずっとニャーニャー鳴いていたのを

無理やり縁の下から引きずり出して捕まえて

その日から是非飼いたいと両親にお願いして

爪を研ぐから家が傷むのでだめだと言う

祖母の反対を押し切って飼った白猫は子猫じゃなかった。

最初から、なんか、でかかった。


オスで白いからシロって名前にして、

うちにもシロいるけど最初から大人だったと説明した。


子猫をちゃんと見たことない。

何匹か子猫が見れるなんてちょっとすごい。



『ねぇ、エサはどうしてるの?』




明美ちゃんは多分一週間くらい

長雨の納屋の外で

かごに重しを付けて

子猫を置いておいたんだと思う。



子猫の鳴き声がする。


ちょっと待っててといわれたので、

そういわれた場所で立ち止まって

かごを開けに行った明美ちゃんを待った。


小走りで子猫のいる場所へかけよって、

かごを開けた明美ちゃんがぎゃあと言って泣き顔で戻ってきた。



どうしたんだろう。


子猫を見に駆け寄ったら

まだ目も開かない本当に小さな子猫が

たぶん4匹ぐらいいたんだけど

全部の子猫の口とか耳の穴から

びっしりとウジ虫が湧いていた。


生まれたばかりの子猫だったし、

ちゃんとお世話してくれる母猫から引き離されて

たぶんこの時点でもうだめだったと思う。


それに

どこで拾ってきたかわかんないんだけど

長雨の中外に置いておいた間に

ハエが寄って卵を産み付けてウジが湧いていたんだけど、

驚いたとかそういう話じゃなかった。



それから3日もしないで子猫は全部死んでしまって

まだ私たちは小学校の一年生だったし、成す術もなくて

明美ちゃんもそんなことになると思ってなかっただろうし


私も、何がなんだかよくわからなくて

出来事があった後にはしばらくの間変な夢を見て

真夜中何度か目を覚ました気がするんだけど、

どんなに当時ショックだったかな、なんかもう、わすれた。


二人で一緒に相談して、

子猫をどこかにちゃんと埋めてやろう

ってことになった。


子猫の死骸を埋める場所を探しに行くことにした。


どういう訳か別のクラスの男子が数人ついてきた。


どうするああするをみんなで無い知恵を絞って相談するんだけど

埋める場所が見つからなくて


結局近所のお寺の砂利の中に埋めた。


でも砂利の中じゃすぐ出てきちゃうから

次の日お寺の方が掘り起こして何処かへもっていってしまった。


そんなとこに埋めてしまってもしかしなくても

ご迷惑をおかけしたかもしれないが

小学校一年生が何人集まったところで大した知恵も出ずに、

どうするああする言って夕方になったんだ。

お寺の方がちゃんとしてくださったと思うことにする。


子猫は何かの箱に入っていたし

敷物も入っていたと思う。

昔はよくその辺で子犬とか子猫とか捨てられていたような気がするから

もとの飼い主もきっとそうやって何か適当な箱に入れて捨てたのかもしれない。


それを明美ちゃんが連れてきたのかも。


なにがどうなって私の前にその出来事が起こったのか

経緯なんてもうわかんないけど、

たぶんその月一番ショックな出来事だったと思うし

あんまり大人の人にその出来事をちゃんと説明したり相談できなかった。







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