平岡への相談
後日談。
ゴンちゃんはあの後、続々とみんながいなくなっている中きちんと言われた通りに最後まで残っていた。
零を含む平岡達や他のクラスメイトも教室の外にて、結果を見守っていたんだが、これが衝撃の結果だった。
1人ポツンと座っているゴンちゃんに市原先生が近づいて行き、ゴンちゃんの前で立ち止まり、こう言った。
「お前何してるんだ? 早くプリント出して帰れ」
信じられないことだが、市原先生は自分で言ったことを忘れていたらしい。
「は、はい」
こうしてゴンちゃんは悲しげにプリントを提出し帰った。
零達は流石に気の毒だなと思いつつ、爆笑しながら楽しげに帰宅した。
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「ってことがあったんだよ」
零は美味しそうな料理を手に取りながら、楽しげに聖奈に話をしていた。
「その子面白いねー」
「ゴンが面白いのかどうかだけどな」
「多分ゴンちゃんが面白いんだよ」
「ま、飽きないうちは彼で暇が潰れそうだよ。授業つまんないのあるよなぁ」
「だねぇ」
「先生的に当たり外れがあるよな」
「面白い先生の授業は楽しいよね」
「それなー! でも、厳しめの先生とかのは雰囲気も重いし最悪だよな」
「特待生はそういうのが多いんだよね…」
「マジで大変だな。なんか手伝いとかあれば言えよ? 俺に出来ることならしてやるぞ」
流石に毎日何もしないのは気が引けるからと思っての発言だ。
「零くん優しい! じゃあエッチしよ!」
「少しでも気の毒に思った俺が馬鹿だったな。まったく」
「出来ることはしてくれるって言ったじゃん!」
「悪いが出来ないことだ」
まだ心の整理が追いついてはいなかった。
「私はいつでも歓迎だからねぇ〜」
零はため息を吐きつつ、
「なぁ、聖奈。お前は俺のどこが好きなんだ?」
「全部だよ」
「やっぱそう返ってくるか」
「?」
不思議そうにしている聖奈を見て、再び軽くため息を吐き、
「まあ、いいや。ごちそうさま」
「お風呂?」
「おう」
「背中…」
「流さなくていい」
強めに拒否し部屋を後にした。
その後、特に変わったことはなく就寝となったのだが、いつものように零が目をつぶり寝たふりをしていると、
「零くん、大好きだよ。零くんの全てが愛しい。本当は学校なんて行かせたくないんだよ? 変な虫がついちゃったら大変だもん。学校なんて行かなくても私が養ってあげるのになぁ…今度話してみようかな………」
などとずっとブツブツと1人で話している聖奈を確認し、若干の恐怖とどうにかしなきゃなという思いと共に、今日も睡魔に誘われ夢の世界へと逃げ込んだ。
というかこの状況下で眠らせてくれる睡魔のレベルが高すぎる。
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翌朝。
本日は寝坊もなくゆっくりと食事をとり、着替えて学校へと向かうことができた。
学校にて、ゴンを昨日のことで軽く弄り、楽しい気分のまま朝のホームルームが始まった。
「おはようございます! 今日も特に話すことは…あっ! あったあった。来週からの勉強合宿についてですが、このプリントに詳しく書いてあるからご両親に見せてね」
そう言われ配られたプリントに目を通すと、2泊3日の合宿に必要なもの等いろいろと書かれていた。
まあ、どうせ聖奈からは逃げられまいと思い、どうでもいいなとプリントをしまった。
午前の授業は面白い先生のが多く、退屈しなかったからか、4時間目が終わりチャイムが鳴っても眠くなかった。
平岡達と学食へと向かうため教室を出ると、
「よっ!」
「零くん!」
待っていた直広と聖奈と合流した。
「よっ! 天馬は?」
「学食で席取ってるよ」
「お前天馬をパシリに使ってるのかよ」
「零くん、零くん! ゴンちゃんどれ?」
直広と話していると、聖奈がぴょんぴょん飛び跳ねそう言ってきた。
「聖奈ちゃんゴンちゃんのこと知ってるの?」
核原が尋ねる。
「昨日零くんに話聞いたの!」
「ほー、あんな遅くに帰ってから会ったんか」
核原が軽く睨んでくる。
聖奈はそんなものに全く気がつく様子はなく、
「だって一緒に…」
「あーーー!!! あれがゴンだぞ」
とんでもないことを言われる前に、話を遮る。
「えっ! どれどれ?」
「ぶっは…ほらあれだよ」
平岡が笑いながらアシストしてくれた。
少し感謝をしつつ、
「そんなことより飯食いに行こうぜ」
話をそらすために急かす。
「そうだな。みんな行こうぜ」
直広がさらにアシストをしてくれる。
「天馬待ってるしなぁ」
核原もそう言って歩き始めた。
「ほら行くぞ聖奈」
「零くん待ってよぉ!」
後に続くように零と聖奈も歩き始める。
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学食。
今日も今日で人で溢れかえっている。
人混みをかき分け、天馬を見つける。
「みんな遅えよ! 特待生組は帰るのに時間かかるんだぞ!」
「悪い悪い。さ、飯にしようぜ」
直広の一言に各々が動き始める。
と言っても、零と聖奈と直広は弁当なので座って待つだけだ。
零の弁当は当然聖奈が作っている。
そういえばこないだは弁当渡されなかったな。
忙しかったからだろうか。
今日は当然のように渡されたんだけどね。
そんなことを少し考えて、弁当を食べ始める。
因みに遅刻ギリギリ時は学食で食べたぞ。
「なあ、聞いたか?」
直広の急な問いに口の中のものを飲み込み、
「何を?」
「勉強合宿について」
「あぁ」
「クソ学校行事の事?」
「聖奈ちゃんお口悪いよ」
直広は笑いながら、
「正直だるいよなぁ」
「そうか? 案外楽しみだけどな」
「零くん学校行事好きだっけ?」
「まあ普通かな」
「中学のはめんどくさがって、全サボりだったろ」
「気のせいだろ」
そんな話をしていると続々とみんなが戻って来た。
戻って来たみんなで勉強合宿について話しながら食事をとり、解散し各々の教室へと向かった。
いつも通り聖奈は別れを惜しんでいたが、なんとか説得し帰らせた。
その後の授業も滞りなく進み帰る時間となった。
「平岡ー!今日暇か?」
「暇だけど」
「ちょい相談がある」
「おっおう!? 珍しいな」
零と平岡は帰り道にあるファストフード店にて話をすることにした。
平岡はポテトをつまみながら、
「そんで? 相談ってのは?」
「わかってて聞いてるだろ」
「まあね〜」
平岡はポテトを上に投げ口に入れる。
「聖奈のことだよ」
「うんうん」
「聖奈と俺ってカップルに見えるか?」
「もちろん」
「だよなぁ〜」
「嫌なの?」
「なんとも言えねえんだよな」
零はコーラを飲み、
「俺って聖奈のこと好きなのかな?」
「ぶっ! はっはっはっ!」
「笑うんじゃねえ」
「いや〜、超真剣な顔で言うからさ」
平岡は腹を抱え、笑いながら写真撮り、そう言う。
「それだけ真剣に悩んでるんだよ」
「自分の気持ちをか?」
「そうだよ」
零はコーラを置き、
「いろいろ急すぎて、気持ちの整理がつくことなく流された感じだからな」
「確かに急なことだったな。んでさ、さっきのだけどさ。お前、昔聖奈のこと好きだったろ?」
「………あぁ」
「なんの間だよ」
笑う平岡に若干声を荒げ、
「好きでしたよ。だからなんだよ」
「今は変わったのかよ」
「まあ…」
「多分さ諦めてただけだろ」
「そりゃあ…まあ…」
「なら少なくとも今も好意はあるんじゃねえの? 聖奈可愛いし」
「確かに聖奈は可愛い」
「その時点で、お前の気持ちは決まってる気するけどな」
平岡はボソッと呟いた。
「なんだって?」
「ま、あれだよ。もうちょい悩んどけよ。俺に出来ることはねえしな。どうせお前は自分で結論出すだろうし」
「うーむ」
腕を組み悩む。
「んじゃ俺帰るわ」
平岡はそう言うと席を立ち、サッサと帰った。
1人残された零はしばらく考えていたが、聖奈の帰ってくる時間が近づいてることに気がつき、大急ぎで帰り道についた。
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「おかえり」
汗だくの零は、
「た、ただいま」
聖奈が玄関で腕を組み仁王立ちしていた。
「さて、どこに行ってたか聞こうかな」
「ひ、平岡と寄り道してたんだよ」
「ふーん」
しばしの間があり、
「正直なところ好きだよ」
聖奈はそう言って零の頭を撫でた。
「な、やめろよ! ってか知ってたのかよ! なんで?」
「ん」
聖奈が見せてきたのは平岡と聖奈のSNSのやりとりだった。
内容は平岡が証拠写真のアップをして、一緒にいると言っていてくれた。
心の底から感謝した。
「なるほど」
「すぐご飯作るね」
「あぁ、俺風呂行くわ」
「えー寂しい」
「だって俺に出来ることねえし。風呂入ったら休み明けの勉強合宿の用意するからさ、飯出来たら呼んでくれ」
「はーい」
ちょっとふてくされ気味の聖奈は調理場へと消えていった。
「モヤモヤが悪化した気する」
平岡に相談しモヤモヤが悪化した零は、これを解消することなく休み明けの勉強合宿を迎える事となった。