直広と聖奈
チャイムが鳴り響く。
4時間目の授業終わりのチャイムである。
零は背伸びをして、眠気を飛ばそうとするが、そうそう眠気というものは飛ばない。
「眠そうじゃねえか」
少しだけとろんとした目の零に話しかけてきたのは平岡だった。
「授業中は寝ねえけど、当然眠くはなるんだよなぁ」
「んなことより、飯行こうぜ。龍二達と」
「達って?」
「核原」
「タクか」
「そ、俺だよ」
そう言って零に肩を組むように寄りかかってきた茶髪の少年の名前は核原匠。
カラオケに行っていたメンバーの1人で、既にクラス内で中心の1人と言える人物だ。
そう、零のいるグループつまりは、直広を含むカラオケ組は既に零達の代で中心となっている。
スクールカーストの頂点というわけだ。
核原は零と肩を組んだまま、
「学食か?」
「そうだな」
零がそう返すと、核原はグッと親指を立てて、
「なおには朝のうちに言っておいたぜ」
「タクは仕事早いな。なら、なおが席は取ってるだろ」
「だな。そういや龍二は?」
「先生に呼ばれたとかで職員室行ってから来るっていってたぞ」
平岡が財布をポケットにしまいながらそう言う。
零もカバンから財布を取り出し、
「ってか何塔の学食?」
「なおのとこだろ。特待生のが圧倒的に少ねえし混みにくいかなって」
「なるなる。ま、のんびりと行きましょうか。席はなおがなんとかしてるだろうし」
こうして零達はA塔の学食へと向かった。
零は数時間会っていないだけで、忘れていたのだ聖奈の存在を。
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ーA塔学食
龍二と合流し、連絡通路を渡り学食に着き、零達は驚愕していた。
何にって?
そりゃあ…人の量に。
学食は人で溢れかえっていたのだ。
「これじゃ、なおどこにいるかわからなくね?」
「んだな」
「どうするよ」
「うーむ」
どうするかと悩んだその時だった。
「零くん!」
聞こえてきたのは聖奈の声だった。
そして、その声が聞こえたのと同時にやっちまったと思いつつ零は、
「よ、よお聖奈」
やべえと思いつつ、とりあえず挨拶を交わすが、
「寂しかったよ!今から行こうと思ってたら、 零くんから会いに来てくれるなんて!嬉しい!」
聖奈はぴょんぴょんと飛び跳ねそういった後、零の腕に抱き付いてきた。
「ちょ…おま…」
そこまで言ったところで思い出す。
やめろと言えない状況なのだと。
そして、零は石のように固まる。
「零、お前もう彼女持ちかよ!」
「もしかして噂の聖奈ちゃん?」
「ぶっ…そうだよ。はっは…」
怒り気味の匠、テンションの高い龍二、そして笑いをこらえる気のない平岡が、各々の反応を示す。
零は騒がしくなる3人から逃げるために、話題を変えようと試みる。
「ってかそんな場合じゃねえだろ! 飯食えねえぞこのままじゃ」
「おおっ! そうだったな。こう人が多いとなおに連絡取りようがないな」
三桜は携帯の持ち込みは原則禁止なのだ。
しかし、そんな規則を守っている者は半数ほどで、残りの半数はバレないように使っている訳だ。
因みにバレた場合は1回目で厳重注意+反省文、2回目で無期停学、3回目で退学という厳しさだ。
どこからバレるかわからないため、こうも人が多いと使えないのもわかる。
しかし、そうなると直広との連絡が取れない。
どうするかと思っていると、
「もしかして直広と待ち合わせ?」
聖奈が顔を覗き込みつつ聞く。
「そうなんよ」
「なら、さっきその辺に…あっ、いた!」
聖奈の指の先には直広ともう1人の姿があり、こちらに手を振っている。
零達は直広の元に辿り着き、席に座った。
座席は零、聖奈、平岡、反対側に龍二、匠、直広、そしてもう1人の、
「やー、知らない人もいるし自己紹介するわ! 高橋天馬です! よろしく!」
爽やか系のイケメンがそう自己紹介をする。
「知ってるわ」
「正直興味がないけどよろしくね天馬くん」
「聖奈が酷すぎて笑う」
零、聖奈、平岡の発言を聞いて、天馬は笑いながら、
「ひでぇな」
平岡はフォローを入れるかのように、
「ま、気にしないでよ。見ての通り昔からこの子は零以外に興味ないからさ」
「てめぇ、平岡適当なこと言うな」
「本当のことだろ!」
「「「「リア充しね」」」」
「うるせぇ!!!」
かなり疲れた零が、
「とりあえず飯注文行くわ」
「おっ、俺も行くぜ」
そう言って零と平岡が立ち上がる。
「ってかみんな行っといでよ。俺、弁当だし荷物見てるよ」
弁当だという直広と既に購買でパンを買っていた聖奈を残し、零達は食券を買いに向かった。
聖奈はついて来ようとしたが、なんとか言いくるめて待たせた。
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「なあ、1つ良いか?」
零は同じラーメンの列に並ぶ平岡に問いかける。
「なんだ?」
「お前さ、聖奈と会ってたろ?」
「なんの話だか」
とぼける平岡に追撃を行う。
「とぼけるなよ」
「とぼけてなんかいないさ」
「なら、なんで聖奈のこと見てすぐ聖奈だってわかったんだ? あんな見た目変わってるのにわかるわけねえ。ってことは事前に会ったことがあるってことだろ?」
「お前のそういうとこ嫌いだわ〜」
「うるせ! そんで回答は?」
平岡はやれやれといったジェスチャーの後に、話し始めた。
「実は入学説明会で声かけられてな」
「入学説明会?」
「そ、お前さんのサボったな」
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パイプ椅子に座りあくびをする平岡がいる。
「あの」
眠気も吹っ飛ぶ様な美しい少女に声をかけれた平岡はパチッと目を覚まし、
「なんでしょうか?」
「平岡…だよね?」
「いかにも平岡ですが、どなたですかね?」
「覚えてない? 小学校の頃の海月だよ。海月聖奈」
平岡は少し驚いた顔をして、
「あー、海月か! 久しぶりだね」
「うん。久しぶり。ねぇ零くんは?」
「零? あー多分サボりだよあいつは」
「そっか…」
平岡は、残念そうな顔をする聖奈に
「零に用だったのか?」
「うん。でも良いや」
「そっか? ま、座れよ。なおもここなんだぜー!」
「ふーん。どうでも良いや。零くん以外のことは」
平岡はこの時点で少し異変に気がついていた。
「ん?そうか」
「平岡って零くんと同じ中学だよね?」
「そうだよ」
「その時のこと色々聞きたいから後で連絡して」
そう言って聖奈は、平岡に自分のSNSアカウントのIDのメモ用紙を渡す。
「了解」
「それじゃあね」
聖奈はそう言うと立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「サボる。零くんと同じことしてたいから」
「そ、そうか」
そうして聖奈は説明会の部屋を後にした。
残された平岡は聖奈の雰囲気等に恐怖………することはなく、
「(面白くなってきたぁ!)」
その後SNSでやり取りをして、平岡は知っていた。
聖奈が病んでいることを、聖奈の状況を、零の状況を。
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「って訳」
零は悠々とそう言う平岡の胸倉を掴み、ガンガンと揺らしながら、
「てめぇ! 知ってたなら言えよ!? 俺がどんだけの恐怖を味わったと思うんだよ! 本当ふざけんなよ!」
「言ったら面白くねえだろ」
零は掴んでいた胸倉を離し、
「俺はお前のそう言うところが嫌いだ」
「そうか?」
平岡はへらへらと笑いながらそう言って、続ける。
「ところでいいの?」
「何が」
「なおと聖奈」
「がどうした?」
「なおはどう思ってるか知らないけど、聖奈は敵対心あるよ。揉めててもおかしくなくねえか?」
「そう言うことは………」
零は息を大きく吸い、
「早く言え!!!」
そして零は2人の元へと走り出した。
「はぁ…はぁ…」
息を上げ2人の元へたどり着くと、
「零くん! ご飯は?」
「なお、なんかあったか?」
「なんかってなんだよ。お前の彼女に手なんか出さねえよ」
零は笑いながら言う直広を見て胸を撫で下ろし、
「良かった」
この後ヘらへらした顔で戻って来た平岡を殴り、ラーメンを平らげ授業へ戻ることになった。
「うー!零くんと別れるのやだ」
そう言って離さない聖奈に、
「またすぐ会えるだろ」
なんとか納得させて、教室へと走った。
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零達が行った後。
「さて、俺らも戻るとしますか?」
直広がそう尋ね歩き出すと、
「気安く話しかけないでくれるかしら?」
「随分と態度が変わるね」
直広は顔色一つ変えずそう言う。
「零くんの前だから普通にしてあげただけだから」
「どうしてそんな嫌うかね」
「わからないの?」
「あいにくね」
聖奈は淡々と答える直広を見て、
「本当クズばかり。零くん以外クズしかいない」
「だから零に好意を寄せたって?」
「答える必要ない」
直広は足を止め、
「零に迷惑かけるなよ。親友として見逃せねえから」
「迷惑? かけてないから。後、あまり調子に乗らないでね」
聖奈も足を止め、
「零くんの親友じゃなければ殺しちゃってるから」
そう言うと聖奈は教室へと向かって再び歩き始めた。
廊下で直広は1人呟く、
「やっぱ俺らのことは嫌ってるか…」
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「ギリギリ間に合ったな」
零が息を上げつつそう言う。
「やっぱ、A塔行くとこうなるかぁ」
平岡も軽く息を切らしてそう言う。
「明日からは大人しくB塔の学食行こうぜ」
「A塔も混んでたしな」
話をしていると、教室の扉が開き、中年って感じのおっさんが入ってきた。
授業は社会だ。
おっさんの自己紹介と共に、またまた同じような授業、つまりは自己紹介の時間である。
流石にこれだけ自己紹介を聞けば、みんなの名前も覚えられる。
零はクラス内の大半の名を把握している。
おそらくみんなもそうなのだろう。
何せこの時間含めて5時間自己紹介をしているのだから。
流石に飽き飽きとしてきた零は、早く終わらねえかななどと思い授業を受けるのだった。
チャイムが怠く眠かった1日の終わりを告げる。
零は学校支給の黒のバックにサッと荷物を詰め、帰路に着こうとする。
平岡に声をかけ一緒に帰ることにした。
聖奈は特待生クラスのため零達よりも授業時間が長いため、帰りはバラバラだ。
帰り道は怠かっただのなんだだのと、くだらないことを話しつつ帰った。
少し不安に思っていた友人関係も良好で零は少し機嫌が良かった。
何故か帰り道は早く、直ぐに平岡と別れる道に着き、
「じゃあな。明日も聖奈とラブラブ登校だろうから、俺は大人しくボッチ登校するわ」
零は、相変わらずへらへらと言うか平岡に、
「うるせえ! 死ね」
足元の小石を投げつける。
平岡はサッとかわし、
「こわ〜」
「はぁ…じゃあな」
「おう」
平岡と別れた後、鼻歌を歌いつつ朝出た豪邸にたどり着く。
順応の早さは零のいいところだ。
鍵を開け中に入るが、相変わらず人のいる感じはしない。
こんな大きな家に自分以外の人の姿がないのは違和感がある。
いや、違和感を越えて若干怖くもある。
零は少し早足で部屋に向かい、着くと直ぐに着替え、ベットにダイブした。
「あれ? 以外と疲れてるか?」
楽だと思っていたが、以外と気を張り疲れていたらしい。
零はそのまま睡魔に負け意識を失った。
しばらくして聖奈が帰って来て、寝ている零を発見した。
聖奈は即座に馬乗りになろうかと思ったが思いとどまり、傍にあった布団をソッとかけて、
「おやすみ零くん。私ね本当に零くんが好きなの。大好き…違うね。愛してるよ零くん。大丈夫きっと零くんも直ぐに私を好きになってくれるよね。なってくれないと私…」
そこまで言うと聖奈は部屋を後にした。