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海月聖奈


海月聖奈は普通の女の子だった。

いて言うなら家が裕福なくらいだ。

しかし、そんなものは小学生当時の聖奈には関係のないことだった。

聖奈はごく普通の小学生生活を送っていた。

高学年になると、仲の良い女の子3人に零と平岡というある種のグループを作り、遊びに行ったり、勉強会をしたり、交換日記をしたり…しかし、平和だった日常は急に終わりを迎えた。

グループのリーダー格の女の子が急にこう言いだしたのだ。


「明日から聖奈のこと無視しよう」


この日から聖奈は無視をされ始めた。

聖奈が何をして、彼女の逆鱗に触れてしまったかはわからなかったが、誰もこれに逆らうことはなかった。

学校ではよくある話だ。

何故なら、学年でも数あるグループの中で零達のグループは最上位だったのだから。

スクールカーストの頂点だったからだ。

逆らえば今度虐められるのは自分になる。

そんなことは誰にでもわかった。

零以外に聖奈のことを相手にするものはいなくなった。

零は自分の立場を利用し、聖奈と普通に話をした唯一の人だった。

当時の零は、聖奈が好きだったのだ。


だけど、この行動に聖奈は救われた。

考えてみて欲しい、毎日誰とも会話をしない日々を。

どれほどつらいか。

ただ無視をされることがどれだけつらく、悲しいか。

そんな中1人変わらずに話をしてくれる人がいるのだ。

そんな人を気にならない訳がない。

ある日から聖奈はこう思い始めた。


零くん以外要らないや


っと。


その前の多くのことから運命を感じていた聖奈の考えは確信に変わったのだ。

片えくぼも一緒、親の誕生日も一緒、誕生月も、生まれた病院も、分娩室のベットも隣同士、そして自殺すら考えるほどつらかった日々から救ってくれた。

これはもう運命だと感じ、いつの間にか聖奈は零を好きになっていた。


零くんもきっと私が好き


さらに時は進み、こう考えるようになった。

卒業時には、


零くんと私は運命で繋がれてる

行くところは違ってもまた会える

だって、どうせ結ばれるんだもの

どうせ道は重なるもの


その後も日に日に歪んだ思いは大きくなっていった。

そして、高校入学式を迎え、現在に至る。


そして現在、海月家の豪邸にて、


「って訳だよ〜」

「って訳だよ〜じゃねえから!?」

「え〜、まだ私がどれだけ好きだかわかってないの?」


そう言いながらベタベタとくっついてくる。

少なくとも聖奈が零を好きになった理由はわかったが、


「色々おかしいからな!?」

「何が?」


零の腕にスリスリ顔を擦り付けながら心底わからないって顔で聖奈は聞く。


「いろいろだよ! ってか先ず俺の今の状況の説明を頼みたいんだが!」


聖奈を振りほどき、立ち上がってそう言う。

聖奈は名残惜しそうな顔をしてから、


「零くんの状況〜?」

「俺どうなるの?」

「どうって…うちで私と暮らすんだよぉ〜」

「いや、そういうことじゃなくて俺は捨てられたんか?」

「売られたんだよぉ〜」

「それについて詳しく」


しばらく話していて喉が渇いたのだろう。

聖奈は一旦、零から離れ綺麗なグラスに入った赤ワインのようなものを飲み、グラスを持ったまま近づいてくる。

液体を口に含み、零にキスをし、口移しで飲ませてくる。

唇が離れると同時に零は液体を吹き出し、


「俺未成年だからってかそうじゃなくて! キスとかそんな簡単にやるなよ!」

「零くんにしかしないよぉ〜。それにこれぶどうジュースだよ?」

「あっ…ほんとだ」


零は口に残ったわずかなぶどうジュースを味わう。

めちゃめちゃ美味い。


「飲む?」

「口移しじゃなければな」


聖奈は不満げな顔で、


「照れ屋さんだなぁ」


聖奈はもう一個のグラスにぶどうジュースを入れ、零に手渡し話を始める。


「零くんのお母様とお父様はうちに多大な借金があったのね」

「上手く回ってると思ってたらうちは回ってなかったのか…」

「それを聞いた私がパパにお願いしたの! 零くんが欲しいって。パパは私のこと大好きだからオッケーしてくれて、零くんのお母様とお父様に話したの。零くんをお婿にくれれば借金チャラってね。そしたらすぐオッケーしてくれたんだよぉ〜」

「………」


開いた口がふさがらない。

前々からクズ親だとは思っていたが、まさか借金をしていて、それを息子で払おうとは。


「あ………」

「あ?」

「あんのクズ親ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


零の叫びは豪邸に鳴り響いた。

しばらくして落ち着き、というか開き直り、


「そんで? 俺はここで働かされでもするってか?」


椅子に座りなおしそう聞くと、


「そんなことないよぉ! ここで好きなように暮らすだけ! 欲しい物とか必要な物があれば言ってねぇ〜」


そう返ってきた。


「えっ…マジでそれだけ? 学校以外は雑用とかじゃなく?」

「零くんにそんなことさせる人がいたら、私が殺っちゃうよ!」


この子目がマジなんだよなぁ。

だが、待て。

これが本当なら元の暮らしより格段に良いぞ。

もしかして勝ち組か?

なんか相当惚れてるし強気に出ても大丈夫そうか。


「そ、そうか。海月、部屋とかどこなの?」


そう尋ねると聖奈は無言となる。


「海月?」

「え?」

「ダメ。海月じゃなくて、昔みたいに名前で呼んで。怒るよ」


殺気ってこういうのを言うのだろうか。

聖奈から放たれるそれを見て、強気に出ても大丈夫とかアホなこと考えていたなと悟り、従う。


「せ、聖奈?」

「うん! こっちだよ!」


ニコニコの聖奈に部屋へと案内された。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おおっ!」


部屋に着くと自然と声が漏れていた。

あまりの豪華さに。

部屋の大きさは元々使ってた部屋の5倍はある広さだった。

零の部屋はごく一般的な部屋だったのだが、それから考えてくれるとわかると思うが、とてつもなく広い。

もちろん冷暖房完備にベット等も既に取り付けられていた。

めっちゃでかいベットだ。

更には零の部屋の荷物も元の通りにしてあるのだが、部屋が広すぎて違和感しかない。


「ここにマジで住んでいいのか?」

「うん!」

「うひゃあ! これたなぼたなのでは?」


しかし、1つ気になることがあった。

やたらとベットがでかいのだ。


「ベットはもうちょい小さくても良かった感あるよな」

「えっ!」


聖奈がもじもじとしている。


「もっとくっつきたかったってこと?」

「えっ?」


またもや嫌な予感がして尋ねる。


「ここさ、俺の部屋だよね?」

「うん!零くんと私の部屋だよ」

「あっはー!?!?」


どうやら零と聖奈は同じ部屋で暮らすらしい。

そうこう問答をしているうちに時間は流れていき、


「そういや腹減ったな」


腹の虫が鳴き声をあげていた。


「ご飯も用意してるよ! 冷めちゃうし、そろそろ食べに行こうか!」


聖奈はそう言って零の手を取り、部屋を出る。

長廊下をしばらく進むと階段が現れ、それを登り突き当たりの部屋の前へと来た。


「ご飯はここで食べるんだよ」


部屋の扉を開けると、アニメや漫画の世界でしか見たことのない豪華な料理がずらっと並んでいた。

零は聖奈に促され席に着き、


「なぁ、場違いな服装だし、テーブルマナーとかなってないんだけど大丈夫か?」

「私しかいないから大丈夫だよ〜! ってか零くんに文句とか言う人いたら私が殺っちゃうから大丈夫」

「全然大丈夫な気はしないが、とりあえず腹も減ってるしいただくか。いただきます!」

「どうぞ〜」


そうして料理を口に運ぶのだが、これが見事に全て美味い。

庶民の零が食べていたものとは格が違う肉に魚に野菜、全ての素材の味が引き出されていた。

飲み物として頼んだお茶すら別格の美味さだ。

料理へと伸びる手が止まらない零を、聖奈はニコニコとして見ながら、


「美味しい?」

「ん? おう」

「良かった♡」


そう言って見せた笑顔は眩しいほどで、思わず顔をそらしてしまう。

悪くないのかもな。

こんな可愛い子(ちょっと怖い面もあるけど)と同じ屋根の下で豪華な暮らし。

うん、悪くない。

零はそんな風に思い始めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


晩御飯を食べ終わると風呂へと案内してくれたので、風呂に入ることとなった。

当然、聖奈は部屋へと帰らせたのだが、


「どこの銭湯なんだよここは」


脱衣所の広さに独り言が漏れ出る。

サッと服を脱ぎ風呂への扉を開けると、またもや独り言が漏れ出る。


「マーライオンがおる」


脱衣所以上に広い風呂だった。

零は体と頭と顔を洗い終わると、どこの風呂に入るかで迷っていた。

温泉好きとしてはかなり悩む。


「こんだけあると悩むよな。ってか女湯と別れてなかったけど、聖奈のお母さんとかメイドさん入ってきたりしないだろうな」


結局マーライオンのある風呂へと入り、


「極楽極楽〜。そういやこの家こんだけでかいのに俺と聖奈以外見てないな」


今更ながらそんなことに零時は気が付いた。

どうしてか?

考えているうちに風呂の扉が開く。


「誰だ?」


気になり扉の方に目をやると、そこにはタオルで前を隠した全裸の聖奈の姿があった。


「零くん〜」


聖奈はそう言って手を振っているが、零はそれどころではない。


「おまっ…!?聖奈何やって…」


咄嗟に熱くなった顔を湯船につける。

聖奈は何の迷いもなく零の横へと入ってきて、


「気持ちいいねぇ〜」


などといってくる。


「俺でるから」


聖奈はそう言って出ようとした零の手を掴み、


「だ〜め」

「いやいや、俺がダメだから」

「男の子の事情?」

「そうだよ!」

「気にしないよぉ〜」

「俺が気にするわぁぁぁ!!!」


そう叫び手を昼間のように無理やり振り解こうとするが、


「力強くね?」


昼間と違いビクともしない。


「10分一緒に入ってくれたら出るの許してあげる」


振り解けない以上は仕方がない。


「わかったよ!」


逆らわない方がいいと察した零は湯船に浸かり直す。

聖奈は尋ねる。


「ここで暮らすのはどう思う?」

「どうって」

「正直に言っていいよ。ダメなところは私直すから何でも言ってね」


そう言って零の方を見つめる聖奈をまともに見ることは出来ず、目をそらしつつ、


「最初はふざけんなって思ってたけど、今は…悪くねえかもって感じ」

「そっか! 良かったぁ!」


心底嬉しそうな聖奈の笑顔は昔と変わってないことに気が付き少し嬉しかった。

零は小学生の頃聖奈の笑顔好きだった。

笑顔に惚れていた事を思い出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


風呂を出ると零は部屋のベットに倒れていた。

今日は何かとつかれていた。

今日はもう寝ようと思った時、聖奈が戻って来て、


「寝る?」

「今日は疲れたから寝るわ」

「うん」


聖奈はそう言うと電気を消し当然のように、零の横へと入って来た。


「やっぱここで寝るんだよね」


わかっていたが尋ねる。


「うん」


零は聖奈に背を向けて寝ているのだが、背中に柔らかいものが当たり、


「えっちなことしてもいいよ?」

「ふざけんなって」

「私はいつでもいいからね」

「はいはい」


聖奈は零の耳元で、


「愛してるよ零くん。おやすみ」


そうささやいた。

そうして聖奈は眠りについたが、零は顔やらいろんなところが熱くて寝れそうになかった。

今夜は寝れなそうだな。

そう思い零は目を閉じてみる。

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