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入学式(2回目)


ゆさゆさと身体が揺らされ、眠っていた意識がだんだんと覚醒へと向かう。


「零くん!零くんってば!」


もうすっかり聞き慣れた声が聞こえる。

目をこすり、


「ん、おはよう聖奈」

「おはよう! んっ!」


聖奈は目をつぶりそう言ってくる。

これまた日課となっちまったおはようのキスの時間だ。

すっかり慣れきり、諦めもついている零は黙ってそれに従う。

サッと唇を重ねる。

相変わらず驚くほど柔らかい唇。

最近は舌を入れてくることも少なくて助かっている。

キスを終えると、


「さっ、ご飯できてるよ! 今日は入学式だから早く食べて、ちょっと早めに家を出よ!」

「1年前みたいに走らなくてもいいようにか?」

「やっぱり覚えててくれたんだね」

「あの濃密な1年を忘れるわけねえよ」


聖奈は零の腕に抱きつき、


「楽しみ?」


零は少し笑ってから、


「当たり前だろ? 久しぶりにみんなに会えるんだからよ」


その答えを聞いた聖奈は、腕の力を強め、


「約束…忘れてないよね?」


少し怒りの表情を見せる。

もはやこの程度では零は動じず、


「覚えてるよ」

「良かった!」


力が緩まり、機嫌も良くなる。


学校に通うにあたって、聖奈との約束がいくつかある。


1、登下校は原則聖奈、もしくは聖奈が用意した人とすること

1人で登下校は禁止

一緒に登下校したい人がいる場合はちゃんと相談する


2、校内では常にスマホを持ち歩くこと


3、友人の連絡先の登録は聖奈に報告すること

女の子の登録は許さない


4、可能な限り聖奈といること


5、何かあれば相談すること


以上の5個の約束を既に取り付けられている。

なお、この約束は場合によっては増えるとのことだ。


ちなみに三桜学院はこの1年でかなり変わったらしい。

長年変わることのなかった教師陣の大幅変更があり、約半数が今年からの新任教師となっているらしい。

さらには、変わることなどあり得ないと思っていた校則も少し緩くなったらしい。

聖奈によると大きく変わったのはスマートフォンや携帯の持ち込みについてと髪型などの身だしなみの自由化だ。

スマートフォンなどの持ち込みは可能となり、授業中などでなければ使用することを許可されたらしい。

身だしなみについては、以前は髪の長さ、ピアスなどの禁止などうるさかったのだが、全て自由になったらしい。

この辺は古参の教師陣が大幅にいなくなったから可能になったとのことだ。

零たちが通っていた当時も髪を染めることなども禁止されていたのだが、なぜか聖奈は許されていた。

まあ、権力というやつだろうが。


「とはいえ、身だしなみの件は関係ないけどな」


零はそう言うと、前を歩く聖奈の綺麗な髪を手に取る。

綺麗な黒髪を。


「どうしたの?」


振り返ることなく、聖奈がそう尋ねる。


「いや、やっぱり黒のが俺は好きだって思ってさ」

「そんなに金髪似合ってなかった?」

「似合ってたよ。でも、俺は大和撫子が好きなんだよ」


そう、あれほど学院で悪目立ちしていた聖奈の金髪は今は綺麗な黒色へと変わっている。

零のリクエストにより夏に染めたのだ。

髪型もストレートとなり、零はご満悦だ。


「零くんが好きならなんでもいいけどさー!」


そうこう話をしていると、食事用の部屋へとたどり着く。

白米、味噌汁、卵焼き、納豆、海苔というクズ親と暮らしていた時に、食べていたような普通の朝食を食べ、身支度を整える。

黒と赤を基調としたこの制服に着替えると、懐かしさが込み上げ、少しだけ泣きそうになる。

零は少しだけ出てしまった涙を拭って、


「行くか」

「うん!」


聖奈と家を出る。

2回目の入学式に向かうために。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


約1ヶ月ほど通った通学路を久しぶりに歩く。


「懐かしいな」


思わず呟く。


「ふふっ、零くん嬉しそうで良かったぁ」

「ああ、ほんとに嬉しいよ」

「私も最初は乗り気じゃなかったけど、今度は零くんと同じクラスなんだって思うと、だんだん楽しみになっちゃってね。私も結構嬉しいんだー」


聖奈はそう言うと、両手を広げ、くるくると回る。


「そういえば、俺らの登下校は徒歩なのか? 歩いて通えなくはないけど、まあまあ遠いぞ?」

「んーー、今後はどうしようかなって考えてるよ。運転手呼んで、送迎してもらおうかなって考えてるよ。でも…」

「でも?」


聖奈は満面の笑みで、


「今日は歩いて行きたかったかなって思ったから」


その顔を見て、


「だな。ありがとよ」


心からの感謝を伝えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


三桜学院入学式場


「首席挨拶頑張れよ」

「紙に書いてあるの読むだけだよー?」

「だとしても、俺なら緊張で死んでる」

「頑張るから、ちゃんと見ててね?」

「あいよ」


零はそう言うと手を振り聖奈と別れ、自分の席へと向かう。

席へ着くまでに、同級生となる人を流れるように見ていた。


「本当に変わったんだな」


髪を染めている者、ピアスやネックレスを着用している者、スマホを眺めている者がいる。

全員1年前の三桜学院なら、停学か退学になっているだろう。

そんなことを思っていると、自分の席に着く。

以前よりも後ろの席だった。

零が席に座ると、


「なにすんだテメェ!」


後ろから男の怒鳴り声が聞こえる。

振り返ると、身長180はある金髪の大男が小学生くらいの大きさの赤髪ツインテの女の子を怒鳴りつけていた。

女の子の方はいかにも気が強そうな顔で、男の方を睨みつけ、


「手を離しなさい! その子嫌がってるじゃないの!」

「あぁ?」


よく見ると男は隣に座っている黒髪の女の子の手を掴んでいた。


「テメェには関係ねえだろ!」

「関係あるわよ! 今日から同級生なんだから!」

「うるせえやつだなぁ!」


男はそう言うと、拳を握り、振りかぶる。

やべぇ!と思っても間に合うはずもない。

女の子の方は拳が迫って来ても目を閉じることもなく、睨み続けている。

もうぶつかる…そう思ったところで、男の拳が止まる。


「はい、落ち着いてね」


男の手を黒髪のショートカットの女の人が掴んでいた。

白のジャージに身を包んだその人は見覚えがある。


「周防さん!??」


あまりの驚きに声が出ていた。

そこにいたのは、夏まで一緒に生活していた海月家のメイドさんだった。

躾のためと言われ、夏に本邸に連行された周防姫花の姿がそこにあった。


「君元気だね〜。でも、女の子に手出すのはいけないでしょ〜」

「なんなんだよ、次から次へとよぉ!!!」


逆上した男がもう片方の手で殴りかかる。

しかし、今度は危ないと思う隙もなく、


「はい連行します」


次の瞬間には男は床に伏せられ、両手を腰のあたりで抑えられていた。


「ええっ…」


零は呆然としながらそんなことしか言えない。

周防さんの周りがざわつくが、気にするそぶりなど見せることなく、男を外へと連れて行ってしまった。

赤髪の女の子は頭を下げていた。

呆然とそちらを見ていた零はその子と目が合う。

とっさに零はニコッと笑ったが、彼女の方は何故か睨んでいた。

なんでだよと思っていると、その子を瓜二つの女の子が迎えに来ていた。

おそらく、双子だろう。

周防さんの件もあり、なんとなく嫌な予感しかしない零は、見なかったことにして大人しく前を向きなおした。

なんで周防さんがいるんだ!?

などと考えているうちに、入学式が始まる。

式が始まっても、お偉いさんの挨拶や、吹奏楽部の演奏などの間ずっと考えていた。

というか、もう式どころではなくなっていたのだが、


「次に新入生代表挨拶となります。新入生代表の海月聖奈さんお願いします」


聖奈の挨拶が始まる。

黒髪をなびかせながら、スタスタと登壇し、礼をする。

それに合わせ、教師陣も礼をするのだが、そのうちの半数はめちゃくちゃ深々と頭を下げていた。

なんかもう大方の察しがついた零は、考えるのをやめた。

そして、どこの学校でも聞くような挨拶の文を読み始める。


「めっちゃかわいくね?」

「あれで頭もいいってすごー」

「髪めっちゃきれー! 羨ましい!」

「何組の人かな?」


新入生の中ではざわつきが起こっている。

周りの声を聞いて、改めて思う。

聖奈は綺麗だと。

でも、それを再び実感すると照れくさい。

聖奈が挨拶を終わると盛大な拍手が送られ、理事長挨拶へと移行した。

登壇したのは1年前にみたお爺さんだった。


「あの人…」


1年前に学園長だったお爺さんだ。

退学を言い渡されたわけだが、あの人は嫌いじゃなかった。

やめているのかと思っていたが、まさか出世していたとは。

そして、閉式の言葉が述べられて、2回目の入学式が終わる。

零は入口の前で、聖奈を待っていた。


「れ〜いくん!」


後ろから聖奈が抱きついてくる。


「おつかれ。ところで、いろいろ聞きたいことがあるんだが?」

「姫花のこととかかな?」

「やっぱり知ってたか」

「もちろん。さてさて、行きましょ!」

「どこに?」

「理事長室」


聖奈に手を引かれながら、理事長へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


零と聖奈が理事長室に向かったその頃、2年6組(普通科)の教室内にて


「おい! 聞いたかよ!?」


元気な声が聞こえ、目が覚める。

だが、突っ伏した顔を直ぐには上げない。


「ひーらーおーかー! 起きろよ!」

「んだよ」


騒がしさに負け渋々顔を上げる。

顔には眠気が残り目は完全には開いてない。


「聞いたか!?」

「なんのことだよ」

「今日の入学式のことだよ!」


そういえば今日は入学式だったな。


「入学式がどうした?」

「首席の女の子がめっちゃ可愛かったらしいんだよ!」


平岡は大きくため息を吐く。

平岡からすれば、至極どうでもいいことだった。


「くそでかため息やめろ! 黒髪のめっちゃ綺麗かつ可愛い子らしいんだよ!」

「興味ねえー。ってかなんでお前が入学式のことなんか知ってるんだよ」

「おっ? そんなこと言って興味あるんじゃねえか」

「情報源はな」

「いや、普通に俺の友達が吹奏楽部だからだよ」

「なるほどな。演奏があるもんな」

「そうそう! とにかくめっちゃやばかったらしいぞ!」

「そうか」


平岡はそう言って再び寝る姿勢に戻る。


「なんだよー!本当に興味ねえじゃねえかよー」


次の授業は自習だ。

このまま寝て過ごすつもりのため、意識を再び夢の世界へと向かわせる。

だんだんと意識が薄くなっていく中で、さっきの友人の声が聞こえる。


「寝やがった…。他のやつに教えに行くかー。あれ? その子の名前なんだったかな? なんか珍しい名前だったなー。確か…」


うるせえなと思っていたが、ある言葉を聞いて、意識は一気に覚醒する。


「あー! 海月だ! 確か海月って言ってたなー」


平岡は一瞬で立ち上がる。


「うおっ!?」


平岡は友人の肩を力強く掴み、


「その話詳しく教えてくれ!」


少し笑みを浮かべてそう言った。

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