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再受験


「つまり、来年の入試をもう一度受けようってことなの!」


聖奈は、アホのような顔でフリーズする零に、ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねながらそう言う。

ぴょんぴょんするのは聖奈の癖の1つのようだ。


「ねぇ、聞いてる? 零くん?」


フリーズしたままの零をガンガンと揺らすが、反応はない。

聖奈は頬を膨れさせ、


「むー……えいっ!」


そう言うと、零の顔を両手で掴み唇を奪い去る。

更に、ニュルンと当然のように舌をねじ込む。


「ぬおー!? 何すんだお前!?」


これで流石にフリーズが解けた零がそう言って聖奈を引き剥がす。


「ごちそうさま♡」


舌舐めずりをして、恍惚こうこつとした顔で聖奈がそう言う。

エロい。


「お前なぁ……ほんとにお前なぁ…」


真っ赤な顔でそれしか言えない。


「目は覚めまたかな?」


ニコッとして聞いてくる。

零は唇を腕で拭い、


「おかげさまで」


軽く苦笑しながらそう言って、前を向き直すと、聖奈は不満気な顔で…と言うか若干キレ気味な顔だった。

えっ…?っと思っていると、


「今、拭いたよね?」


やっちまった。


「いや、落ち着け! 嫌だったとかではないんだ! ただ口周りが濡れてるのが気になってだな…」


言い訳を述べているうちにも、こちらに近づき、


「もう1回する。 拭いたら無限にするから」


光の無くなった目で、ふらふらと近寄ってくる。

後ずさりをしながら、後ろのドアから逃げようとする。

しかし、扉が開き、


「お嬢さまぁぁぁ! おかえりなさいませぇ!」


周防さんが入ってきた。


「周防さん! すいません!」


そう言って、逃げるために周防さんに軽く体当たりをして逃げようとするが、1ミリも動かない。


「へっ!?」


周防さんは、驚いた顔の零を「何してるんだこの人は?」みたいな表情で見ている。

何が起きたのかわからなかった。

そんな零の顔に両手が伸びてきて、恐る恐る振り返る。

聖奈は一瞬ニコッとして、再び唇を奪い去り、


「んーーーーー!??!?」


そんな零の悲鳴?と艶めかしい音が響く。


その姿を周防さんは、


「あらあらあら」


などと言って見ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ものの数分で、何やらいろんなものを吸われた零はぐったりとした感じで大きな長テーブルに溶ける。

その一方で、隣に座る聖奈は随分と艶のある顔でこれ以上なくご機嫌だ。

ちなみに周防さんは席を外している。

正直いて欲しいのだが…


「えーと、それでなんだっけ?」


若干記憶を失っている零が尋ねると、


「えっ? だから新ルールだよ! キスの後に口を拭ったりしたら5倍の刑!」

「いや、その話じゃなくて…って!? 5倍!?」

「うん」


ふざけんな!…とは言えない。


「そもそも告白までしてくれたのに、なんで嫌がるかな?」

「展開が早すぎるんだよ……こちとら交際経験なしの今年16歳の童貞なんだよ。 それがいきなり、めちゃくちゃ可愛くなってる小学校の同級生と2人暮らしするとこになり(今は3人だが)、風呂には侵入、寝るのは同じベット、常に密着してくる生活だぞ? 展開の早さが打ち切り決まった漫画並みだよ」

「可愛いなんて嬉しい! あと、私も処女だよ? あっ! じゃあ今日一緒に卒業しようよー!」

「そう言うことじゃねえんだよ!」


零はため息を吐き、


「いいか聖奈? 俺は普通の交際がしたい。告白もそのつもりでしたんよ。 ゆっくりと関係を発展させたいんだ。 卒業がしたくて、お前に告ったわけじゃない。 そう言うのはムードとかが大切だと思うわけよ」

「どんな時が、理想なの?」

「ん? まあそりゃあホワイトクリスマスとかなんかいいよね」


凄く童貞くさい答えだが、これはわざとだ。

この地域は雪が降ることは年に1度あるかないかって感じ。

それが、クリスマスに当たる確率などほぼないに近い。

聖奈は基本的に滅茶苦茶ではあるが、零の意見をガン無視する傾向はない。

つまり、こう言っておけば理想通りとまでは行かなくても、ゆっくりと関係を発展させてられるのでは…と考えた。

いや、ほんとにわざとだよ?

こんな願望あったりしないからね?


「ふーん…」


とりあえずはこの場と今夜を乗り越えられたわけだ。しかし、零のこのホワイトクリスマス発言は、割とすぐに自分の首を思いっきり絞めることになるのだが…


「ところで、ほんとになんの話だっけ?」

「ん? そうだそうだ再受験のお話だよ」

「あー、それだ! 結局理解は追いついてないけど、どう言うこと?」

「んーと! 普通に来年にある入試をもう1回受験するってことだよ!」

「そんなことできるのか?」

「できるよ! 過年度生の受験って制度上は問題ないはずだから! でも、意地悪な学校とかが多くてね。過年度生は限りなく合格しにくいとかあるんだよねー」


零はふむふむと頷き、


「三桜は大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ」

「でも、俺に入学金をもう1回支払う財力はないぞ?」

「それは所有者である私に任せなさい!」


聖奈はドンっと胸を叩く。


「ヒモじゃねえか俺」

「今さら?」


サラッと吐いた毒があまりに猛毒で、テーブルに倒れる。


「あー! ごめん! その…悪い意味じゃないよ?」


悪い意味以外で何かあるかよ。


「私が好きで出すわけだからね!」

「流石に申し訳がなくて仕方がない。 出世払いとかで…」


そう言うと、聖奈はうーんっと少し考え、


「それじゃ、お願いを1つ聞いて欲しいな!」

「ちょっと前の話を含め、できることなら…」

「毎日2回ちゅーしよ! おはようとおやすみの!」

「んー…」


零が腕を組み考えていると、


「衣食住ぜーんぶお世話してるのになー」

「うっ!」

「スマホとか漫画とかも買ってるしなー」


聖奈が心にくる言葉を言い始めた。


「他にもー…」

「わかった! わかりました! ぜひ、毎日2回ちゅーさせてください! お願いします!」


聖奈はえへーっと笑い、


「交渉成立! じゃあ、今日の夜からね!」


そう言ってピースをする。


「わかったよ。 そんじゃ、話を戻そう」

「うん」

「三桜は過年度生も合格がしにくいことはなくて、お金の心配もない。とりあえずこう言うことだな?」

「そうだねー!」

「最後に気になるのは内申書なんだが、どうするんだ?」

「それは中学校の担任か進路担当の先生に相談するみたい! だから、零くんには近いうちに出身中学まで行ってきてもらうしかないんだよねー」

「なるほどな。まあそれはもちろん構わないが。どうせ暇だし」

「車は私が用意しておくねー!」


零は座ったまま、少しだけ背伸びをし、


「ところでさ」

「なにー?」

「なんでここまでしてくれたんだ?」


疑問に思っていたことを尋ねる。


「どういうこと?」

「いや、聖奈的には俺が学校に行かない方が得…というかいいんじゃないのか?」

「んー…まあ、確かにねー。悪い虫とかが寄ってくる心配もないし、零くんとこのままずーっと一緒に、おばあちゃんとおじいちゃんになるまで過ごすのは魅力的だねー」

「だろ?」

「でも、零くん学校行きたいでしょ?」


零は、真剣な顔でそう言う聖奈を見て


「それは…」


言葉が詰まる。

聖奈は笑う

「だからだよ。零くんのためだから」


零を見て、嬉しそうに続ける。


「他の誰でもない零くんのためだから。私の世界一好きな人だから」

「聖奈…」

「私はね、好きな人に、悲しい顔させたくない! 泣いてる顔はそれはそれで魅力的だけど、やっぱり笑顔が好きなの! 私と同じ片えくぼが出る笑顔がね!」


満面の笑みでそう言う聖奈を見て思い出す

聖奈は昔からこうだった

あんな事があって、少し歪んだ考えを持つようになってしまったかもしれないが、根本は変わっていない

あの頃は友達のために

今は好きな人のために

聖奈は大切な人のためなら、どこまでも優しくなれる

そんな優しさが俺は好きだったんだ


「ありがとう…聖奈。本当にありがとう」


それを聞いた聖奈は再び笑って、片えくぼを見せてから、


「どういたしまして!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうこうしていると、結構な時間が経っていた。

さっきの話で、自分の気持ちをまたまた再確認したせいか、少し恥ずかしい。

周防さんはどうしたんだと思っていると、急に扉が開く。

当然その先にいるのは周防さんだ。

この人ノックもしなくなったぞ。

しかも、


「飲み物何がいいですかー?」


そう言うと、手に持つコンビニの袋をガサガサ始めた。

コンビニに行ってやがった。

どうせなら周防さんの作る紅茶が良かった。

あれははとても美味かったのだが、あれも化けてただけだった様だ。

よくクビにされないな…


「私はお茶ー!」

「かしこまりましたー」


周防さんはそう言うと、お茶を取り出し聖奈へと投げる。

聖奈はそれをパシッと受け取り、


「ありがと、姫花」


当たり前のように飲み始めた。

最早メイドの所業ではない。

だけど、おかげで恥ずかしさはなくなった。


「零様はー?」

「紅茶あります?」


呆れ顔で尋ねる。


「レモンティーとミルクティーがあります」

「レモンで」

「はーい」


そう言うと同じようにレモンティーを投げてくる。

受け取ろうとしたが、レモンティーは零の前に聖奈が手を伸ばして受け取り、


「姫花。零くんが怪我したらどうするの? 考えて行動しなさい。 次にこういうのを見たら即座に本邸に送り返すわよ」


ガチのトーンでそう叱りつける。

周防さんはすぐに深々と頭を下げ、


「は、はい! すいません!」

「わかってくれて嬉しいわ。私はあなたのそういうところが好きよ」

「はい!」


思った以上に主従関係はしっかりとしていたみたいだ。

というか、本邸に帰りたくないって感じが見受けられる。

聖奈は紅茶のキャップを開けて、零に手渡し、


「零くん、落ちることはないけど、明日から私とお勉強しよ! 入って困らない様に高校の内容をしっかりやっていきましょ!」

「ん? 受験用の勉強じゃねえのか? そもそも高校の内容なんて誰が教えてくれるんだ?」

「受験のお勉強は大丈夫! 後、教えるのは私だよー!」

「そうか? ってかなんで教えられるんだ?」

「私、もう高校卒業くらいまでの内容は中学のうちにやらされてるから」

「やばすぎぃ」


お金持ちの教育方針は厳しい様だ。

そうこうして、1日が終わった。

寝る前にキスをさせられ、零は悶々としながら睡魔に身を任せて眠る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日


既に聖奈はいつものごとく何処かへと出かけて行った。

朝、零を起こし、キスをしてから。

本人の話によると、今日でその用事も終わるから明日からお勉強をしようとのことだ。

つまり今日は暇ということで、早速母校へと内申書の話をしに行こうというわけだ。

起こされた時に聖奈にも話した結果、外に車が用意されている。

どんな服で母校に行けばいいか迷ったが、普通に私服に着替えて、外で待つ車に乗り込んだ。


「どちらまで?」


白髪白髭のおじいさん運転手がそう尋ねる。


「美濃二中までお願いします」


母校の名前を告げる。


「かしこまりました」


おじいさんはそう言うと、エンジンをかける。

ふと、横を見ると周防さんが、ブンブンっと行った感じで手を振って見送ってくれていた。

メイドのかけらもなくなってきた。

そろそろまた躾けたほうがいいのでは?そんなことを思いつつ母校へと出発した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


美濃第二中学高校


職員、来客用の駐車場に車を停めてもらい、零は職員室へと向かう。

通っていた頃と一切変わることのない光景を懐かしげに眺める。


「まあほんとにこないだまで通ってたんだし、変化なんざあるわけないか」


そんなことを呟きながら、下駄箱に着く。

靴を脱ぎ、来客用のスリッパを履くと、すぐ横の職員室へと向かう。

ノックを3回ほどして、中に入ると右奥の席に元担任の皆川彩美みなかわあやみ先生の姿が見える。

黒髪を1つに纏めた背の高い女の先生だ。

職員室には先生の姿しかない。


「皆川先生!」


零の声に気がついた先生は驚いた顔をしている。


「都城! お前学校どうしたんだ?」


零は先生の元へと行き、


「そのことで相談があって来たんですよ」

「相談?」


先生は新しくコーヒーを淹れながら聞いてくる。


「実はですね…」


零は聖奈の件は伏せて、訳あって退学してしまった旨を伝える。

そして、来年の受験を受けたいと相談を持ちかけた。


「なるほどな。ま、内申書の件は構わないよ。減るもんじゃないし」


先生はコーヒーを飲みながらそう答える。


「マジっすか! 助かります!」

「今年はクラスも持ってないから暇だし」

「なるほど! それで、職員室にいたんですね」

「いやいや、今日は創立記念日でうちはおやすみ。あたしはやることがあって来ててだけよ」

「あー、どうりで人がいないわけですね」


母校の創立記念日などすっかり忘れていた。


「それで? どこ受けるの?」


先生はそんな零を見て、少し笑いながら聞いてくる。


「三桜です」


サラッとそう言うと先生はコーヒーを見事に吹き出した。

退学したと言っても驚かなかった先生が動揺している。

前の先生の席が大惨事となる。

あーあプリントも…


「三桜!? 退学にされたのよね!?」

「まあ」

「いやいやいや! あたしの知り合いが勤めてるけど、その子の話だと、あの学校はそう言うのは厳しい聞いたけど?」


先生は手をブンブン横に振り、そう言う。


「えっ?」

「過年度生は取ったことがないらしいのよ。ましてや、退学にした者をまた取ってくれるなんてことはありえないと思うわよ」


かなり聞いた話とは違う。


「ええっ…」


先生は吹き出したコーヒーを掃除しながら、


「まあ、あたしも高校は卒業しておいた方がいいと思うし、内申書はなんとかしてあげるけど。学校はご両親と相談して決め直した方がいいわよ」

「わ、わかりました」


今、両親行方不明なんですけどね。


「今日は内申書渡せないから、後で家の方に直接送っておくわね。住所の変更はない?」

「あっ! 変更ありです」

「引っ越したの? まあいいわ。それじゃこれに新しい住所書いて」


先生はそう言うとメモ用紙を渡してきた。

そこで、零は気がつく。

住所…知らねえ…


「住所わからないです」

「はあ?」

「引っ越したばかりでして」

「まったく…」


先生はそう言うと、メモ用紙になにかを書き始める。


「これあたしのアカウントのIDだから、帰ったら住所送っておきなさい」


先生のSNSのIDのようだ。


「わかりましたー」

「美人教師のアカウントのIDなんて普通は高いんだぞ?」


いや先生、今年30で売れ残るのを不安視してますよね?

とは思いつつ、


「感激だなー」

「売れ残りとか考えなかったか?」

「思ってませんよ!」


エスパーかよ…


こうして、とりあえず内申書の件は了承を得られた。

スマホがポケットになかったので、車に置いてきたかな?と思ってたのだが、車にも無かった。

恐らく家に置いてきたのだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


零が母校で皆川先生と話をしていた一方で、聖奈は用事を済ませ帰って来た。


「ただいまー! 零くーん!」


そう叫びつつ、走って2人の部屋へと向かう。

扉を開けるが、そこに零の姿はない。


「あっ、まだ帰って来てないんだ。GPSが家だったからいると思ったのになー。まさかスマホ忘れて行っちゃったなんてねー」


そう言いながらベットに放置されているスマホを手に取る。

すると画面がつき、


あすは「零くん? 久しぶり! 三桜学院の外崎明日葉だけどわかる? 平岡くんにアカウント教えてもらっちゃった! みんな返信来ないって心配してるよ? もちろん私も…もし、良かったら会えないかな? 連絡待ってるね」


と言った内容だった。


「ふーん……外崎…明日葉ちゃん…ねぇ……」


ルンルンと上機嫌でコンビニより帰宅した姫花は、聖奈の姿を見て、声をかける。


「あっ! お嬢様! お菓子食べます?」


そう言ってチョコ菓子を袋より取り出す。

しかし返答はない。


「お嬢さ……ま…?」


しかし姫花は気がつく。

零のだと思われるスマホがバキバキと悲鳴を上げている。

聖奈は振り返り、姫花を見て、


「姫花。外崎明日葉について詳しく調べなさい」


鬼の形相でそう命令をする。


「は、はーい」



姫花は、面倒なことになったなぁ…と思いつつ、必要な人材を集めるため、本邸にいる姉へと電話をかける。

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