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16歳のニート


ニート

15歳から34歳までの、家事・通学・就業をせず、職業訓練も受けていない者。


「まあ、要するに俺のことだな」


少年は、スマホを片手にそう呟くと、


「俺もクズの仲間入りだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


今度は雄叫びをあげる。

すると、部屋のドアが勢いよく開き、


「うっるさいですよ!!!零様!!!近所迷惑なのでお静かにっていつも言ってるじゃないですかぁぁぁぁ!!?」


そんな叫び声ともに、これぞメイド服と言った服装に身を包んだショートカットの黒髪の女性がモップを片手に入って来た。


「周防さんも大概ですよ」


彼女の名前は周防姫花すおうひめか

25歳、身長150cm、体重45kg(自己申告)、スリーサイズは上から89.59.85のナイスバディのお姉さん。

うち…というか海月家のメイドだ。


「私は元々声が大きいんですよ! そんなことよりこの問答毎日してますよ!? いい加減に癇癪起こすのやめてくれませんか!? お嬢様が心配してますのでぇ!」


元々声が大きく云々は関係なく、うるさいのは事実だなぁと思いながら、


「それは困ります。心配はかけたくない。でも、やっぱ割りきれてないんですよ。つい思い出すと言うか…」


そう返すと、周防さんは、


「いい加減にしてくれないと、この件含め有る事無い事報告しますよ。私もクビになりたくないので!」

「善処します」


クビ云々は自分のせいだとは思うけど、目がマジな周防さんを見て、大人しく引き下がる。


「わかればいいです。では、掃除の続きをしてきますので大人しくしててくださいね? お昼はハンバーグをお作りしますのでお利口にしててください」

「わーい」


周防さんはサーっと廊下に消えていく。

怒られたことだし、自分の状況を再び整理しよう。

そう、あの事件の後のことをーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


約1ヶ月前桜花荘


聖奈に自分の気持ちを伝え、一件落着と思った時、


「何してるの!」


保険医が扉を勢いよく開けて入ってきていた。

零は咄嗟とっさに、


「俺が襲いに来ました」


そう言っていた。

保険医は怒りの形相に変わり、零の手を掴み、


「来なさい」


そう言って零を引いて行く。


「待ってください! 零は悪くないです!」


聖奈が後ろから叫ぶが、


「聖奈さん、彼を庇うのはやめなさい。誰がどう見てもこの状況下で悪いのは彼です。ましてや、貴方は今その体調でしょう。」


保険医はそう言うと部屋から出て行こうとする。

聖奈は立ち上がり、追おうとしたがフラッとその場に倒れる。

その姿を見て零は、


「いいから! ゆっくり休め!」


そう叫び連れて行かれた。


連行される最中はざわざわと凄まじい騒ぎとなっていた。

なお、天馬、梓が近寄って来たが、教師に阻まれる。


「サンキューな」


零は3人にそう言って職員部屋に消えて行った。

中ではこれでもかってほどの説教を受けた。

翌日には、教師の車で学園長室へ連行された。

学園長は良い人そうなお爺さんだった。


「都城零くん。君を退学とします。明日以降登校しなくて結構です」


そう言った。


「はい」


零は覚悟が決まっていた。

下を向くこともなく、学園長を見て堂々とそう返事をして立ち上がる。

学園長は教師2人に連行される零に、後ろから呟く。


「待ってますよ」


零にはそれが、なんて言ったのかは分からなかった。


それから零は職員室に連れて行かれたのちに、解放され、帰路へとつかされた。

教室の荷物とかは後で家に送られるらしい。

ここ1ヶ月ほど通った通学路が、妙に考え深かった。

1ヶ月しか通ってなかった訳で、思い出すような思い出なんて数えるほどしかない。

覚悟を決めての行動だったし、後悔なんかない。

そう思ってたんだ。


「あれ…?」


いつのまにか頬を暖かい水滴が流れていた。

その水滴は一滴流れると、止まることを知らないかのように、流れ始めた。


「なんだよ…俺……泣いてんのか…?」


涙を手で拭い取る。

涙を目の当たりにして、気がつく。


あぁ、俺は自分で思ってた以上にこの学生生活を気に入っていたんだ


悔いは残されていた。


もう少しだけ一緒に学園生活を送りたかった


すれ違う人がこっちを見ている。

そりゃそうだ、近くの有名私立高校の制服を着た少年が泣きながら歩っているんだ。

気にもなるさ。

ふらふらの足取りだったせいか、何もない道で足がもつれる。

前へと倒れそうになったその時、零の身体は後ろへと引っ張られ、後ろに倒れる。


「零くん! 大丈夫!?」


後ろに引っ張ってくれたのは聖奈だった。

聖奈と零は尻餅をつく形となっている。

零は驚きながらも、


「お前、なんで…」


聖奈はニコニコしながら、


「体調は良くなったよ」

「そうじゃなくて…なんでここに…?」


まだ授業がある時間だ。

聖奈はとびきりの笑顔で、


「私も学校辞めてきた!」


その返答を聞いた零は、聖奈の肩を掴み、


「なんで……なんでだよ!!! 」


零のその問いに、聖奈は不思議そうな顔をして答える。


「だって、零くんのいない学校なんかつまらないじゃん」


聖奈は続ける。


「私は中学校もつまらなかったんだよ? でも、零くんと同じ学校行くために渋々通い続けたの! 昔はこうやって我慢もできてたんだけどねー」


聖奈はニコニコ笑いながら、


「今は零くんと過ごす日々を思い出しちゃったから、もういない生活を我慢なんてできないよ」


聖奈がそういうやつだってのはわかってた筈だった。

好きな人のためにならなんだってする女だ。

好きな人がいれば他には何にもいらないような女だ。

好きという気持ちに正直で、馬鹿みたいに真っ直ぐその想いをぶつけてくる女だ。

怒ると死ぬほど怖いし、いろんなことをいつの間に知ってるのも怖いし、行動力とかも凄くて怖い。

でも、無茶して体調を崩してしまう繊細なところもある。

体調が悪くても俺の前ではずっと笑顔で、お揃いの片えくぼを見せてくれる。

そんで、俺はその笑顔が…


「大好きだ」


聖奈は見たこともないほどの笑顔を浮かべ、


「私もだよ」


そう言って零の顔を胸元に押し当て、抱きしめる。

零は、聖奈の胸の中で、


「ごめん…本当にごめん…俺のわがままでお前のことまで巻き込んじまった……俺がもっと早く…素直になってれば明日からも一緒に…」


中卒と高卒は天と地ほど差がある。

聖奈の人生もめちゃくちゃにしてしまった。

零はぼろぼろと涙を流しながら謝り続けた。


「いいんだよ。大丈夫だから、もう泣かなくてもいいよ。よしよし」


聖奈はそう言いながら、零の頭を撫でる。

零は聖奈の胸の中で泣き続けた。


しばらくして泣き止んで冷静になると、恥ずかしさがこみ上げてきた。

顔が真っ赤になった零を、ニコニコ見ていた聖奈はスマホで電話をかける。

聖奈は迎えの車を呼んでいたらしく、直ぐに車が迎えに来た。

正直これはかなり助かった。

なんせ、消えたくなるほど恥ずかしかったからな。

路上で女の子の胸の中で大声でわんわん泣き叫ぶ男子高校生だぞ。

トラウマもんだわ…

車内では、零は数分前を思い出し、羞恥と戦っていた。

一方の聖奈は、終始上機嫌でニコニコだった。

車というのは凄いもので、あっという間に家に着く。

零は、なんとか気持ちの切り替えに成功した。

帰ってからは、いつも通り聖奈の料理に舌鼓をうち、風呂に入った。

そして、寝るとき初めて、零の方から手を繋いだ。

強く強く聖奈の手を握った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日


部屋に差し込む朝日で目を覚ます。


「朝か…」


零はそう呟き、横を見る。

聖奈がいた。

珍しく聖奈がまだ寝ていた。

いつもは聖奈に起こされていたから、少し変な感じがするのと同時に、学校を辞めたことを思い知らされる。


「っ…」


なんとも言えない不安が襲って来て頭を抑える。


「大丈夫?」


いつのまにか起きていた聖奈が心配そうにしている。

零は聖奈の頭を優しく撫で、


「大丈夫だよ。おはよう聖奈」


聖奈は零の手を両手で包み込み、


「おはよう、零くん」


学園に行く必要がないので、着替えることなく、寝室を出る。

途中洗面所で、身だしなみを軽く整えてから、いつもの食事を取る部屋に向かった。

聖奈は横の部屋でサッと朝食を作ってくれた。

零は何をしないのは悪いと思い、出来た料理を運んでいた。

料理を並べ終わり、


「「いただきます」」


そう言って食事を取り始めた。

相変わらずとても美味い。

あっという間に平らげてしまった。

食べ終わると聖奈は、


「零くん、今日ちょっと私出かけるね。直ぐ帰ってくるから、お留守番お願いしていいかな?」

「ん? まあ大丈夫だが」

「ちょっと帰るのお昼すぎちゃうかも」

「そうなんか、まあ待ってるよ。飯も適当に食っておくし」

「あっ、それは大丈夫なの」

「というと?」

「あのね…」


聖奈がそう言うとインターホンが鳴る。


「ちょうど来たみたい」

「誰が?」

「とりあえず玄関に行こ!」


答えは得ることができないまま、聖奈に手を引かれ玄関へと向かった。

玄関を開けるとそこにはメイドさんがいた。

メイドさんは片足を斜め後ろの内側に引き、もう片足の膝を軽く曲げ、スカートの裾を持ち、


「お久しぶりです、お嬢様。お父様とお母様よりこちらの別邸を任されました」

「久しぶりね姫花。今日からよろしく頼むわ。こちらが私の大大大大好きな恋人の零くんよ」


メイドさんはこちらを見て、


「存じております。零様、わたくし周防姫花と申します。幼い頃よりお嬢様の専属のメイドとして身の回りのお世話を任されています。今日よりよろしくお願い致します」

「あっ、よろしくお願いします! えっと、今日からというと?」


零の問いに聖奈は、


「私、今日からちょっと昼間にやらなきゃいけないことがあるの。だからその間に零くんのことを姫花に任せようと思って、昨日パパとママにメイドさんを1人欲しいってお願いしたら、ぜひ姫花を連れて行ってくれとのことだったからそうしてもらったの!」


あれ?それ厄介払いでは…とは思ったが、言葉にはしなかった。


聖奈は笑いながら、


「それにしても、かなりきっちり躾けられたみたいね。原型がない…」

「めっちゃ気になること言うなよ」

「ふふっ、まあだんだん化けの皮剥がれると思うからお楽しみにね」

「ええっ…」


不安な零を見て、楽しそうに笑った聖奈は、


「そろそろ行かなきゃ」


そう言って、寝間着のまま外の車に乗り込み、


「2人とも仲良くねー!」


何処かへと行ってしまった。

というかこの人、凄く信頼されているんだな。

聖奈の性格的に女の人と零を2人きりにすることなど、先ずありえない。

とてつもない信頼があるんだなぁと思い、周防さんを見ると、ニコッと笑ってくれた。

こうしてうちにメイドさんが来た。

めちゃくちゃ綺麗でお淑やかな人が。


まあ、その印象はだんだんと消え去るわけだが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


こうして、1ヶ月が経った冒頭に戻るわけだが…


まあ見事に化けの皮は剥がれていった。

最初は声の大きさがだんだんと大きくなり。

次に言葉遣いが変わっていきと言った段階だ。

今では、今後の成長がちょっと楽しみにもなっている。

この1ヶ月聖奈は朝の9時に家を出て午後3時過ぎに帰ってくるを繰り返している。

何処に行ってるのかはわからないが、楽しげに帰ってくる様子から心配はなさそうだ。


零は周防さんの絶品ハンバーグを食べながら、


「スキルだけは完璧なんだよなぁ」


周防さんは仕事はとても出来る人だった。

家事は完璧だし、手際もいい。

ただ心配なのはまだ成長途中という事。

これもだんだん出来なくなるのかなと思うと不安だ。


そんなことを考えていると、廊下を走る音が聞こえてくる。

周防さんが走ってるのかなと思っていると、扉が開き、


「零くん! 来年また三桜に行こう!」


聖奈が息を切らし、嬉しそうにそう言ってきた。


「へっ?」


零は当然のように言葉の意味がわからず、フリーズしていた。

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