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告白


朝だ。

目が覚めると、先ず昨日のことを思い出した。

ゴンちゃんのことではない。

聖奈への告白を決めたことである。

というか、ゴンちゃんのことなどほとんど覚えてはいなかった。

あまりにどうでも良かったからだろうか。

零は再び決意し、身体を起こす。


「何時だ?」


そう呟き、寝ている2人を起こさないように充電していた携帯を手に取り、電源をつけ時間を確認する。


「はやっ」


時刻は5時だった。

起床の時間まで1時間はある。

かなり暇だが、寝ている2人を起こす気にはならない。

零はソシャゲをやりつつ、聖奈のことを考える。

合宿が始まるまでは聖奈に会わなくて済むことを喜んでいたから、合宿が楽しく思えたが、今となっては退屈でしかない。

一刻も早く聖奈に会ってこの気持ちを伝えたい。

早く伝えなきゃいけない気がする。

だってそうだろう?

あれだけ好きと言ってくれていた相手なのだ。

早く伝えてやりたい。

俺も好きだと言うことを。

でも、伝えたらどうなるのだろうか?

聖奈は怒る?それとも喜ぶだろうか?

反応が全く予想出来ない。


「何してんの?」

「おっ、勝ってんじゃん」


どうやら2人も起きたらしく、急に話しかけて来ていた。

無意識のうちにかなり難しいステージをクリアしていた。


「早く起き過ぎちゃってさ」

「そろそろ食堂行くか?」

「朝の勉強だるー」


菅野はマスクをつけ、グッと背伸びをする。

どうやら彼は風邪ではないようだ。

時間を確認すると6時5分前だった。

零は携帯の電源を切り、いつものように筆記用具をポケットに仕込み、3人で食堂へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


食堂には昨日同様に多くの人が集まっていた。

どこに座るか考えていると、


「おっはよー! 都城くん!」


いきなり背中を叩かれた。


「外崎…おはよ。朝から元気だな…」

「朝から元気じゃないと1日もたないじゃん!」

「そうかい」

「都城くんさ、数学得意?」

「ん? ま、苦手ではないな」


零は理系科目は得意だった。


「ほんと! なら、教えて欲しいんだけど…ダメかな?」

「別に構わんよ」

「やったー! じゃ、ここ座ってよ! 高野くん達もどうぞー」


外崎に促され座ったは良いが、


「居心地は最悪だな」


その席は女子ばかりが座るテーブルだった。


「私の横では不満だと?」


頬を膨らませそう言う外崎はなるほど可愛かった。


「そういう訳じゃねえけど」


フッと視線に気がつき振り返ると、核原が中指を立て、恨めしそうな顔で見ていた。

あいついつもあんな感じだな。


こうして始まった朝の勉強時間は、滞りなく進み、朝食の時間となった。

朝食の席も、原則変えるのは禁止なのでこのままだ。

スクランブルエッグにソーセージ、軽いサラダにご飯と、まあ無難な朝食が出て来た。

もちろん無言で食う訳でもなく、


「都城くん、数学教えるの上手いね〜。私凄く苦手なのに理解出来ちゃったよ」

「あの辺はコツさえ掴めば簡単だよ」

「そのコツが掴めずに苦戦してたんだよ〜」

「零は理系だったのか」

「そういう龍二は?」

「俺は文系だよ」

「都城くんはやっぱり理系にするの?」

「まだ決めてねえけど…多分ね」

「そっか、私も頑張ろ!」

「外崎、理系志望なのか?」

「一応ね」

「それで数学あれはやばいぞ」

「うっ…」


胸を両手で抑える外崎を見て、


「まあ俺で良ければまた教えてやるよ」

「! うん!」


朝食を食い終わった俺達は各自部屋に戻り学校の準備をしていた。

いつになく学校に行くのがドキドキする。

しかし、学校への時間は刻一刻と迫り、遂にその時を迎える。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


学校に到着した。

しかし、直ぐに告白できる訳ではない。

この後は普通に授業だからだ。

零が狙っているのはお昼を食べ終わった後だ。

聖奈だけを呼びそこで、想いを伝えようと思っていた。

4時間目の授業が終わる。

好きだと自覚してから初めて会う。

気持ちがざわめき、落ち着くように自らを諭す。

いつものように核原達と合流し、教室の扉を開く。

当然そこに聖奈がいるものだと思い。

しかし、


「あれ?」

「よ!」


そこには直広の姿しかなかった。

零はすかさず、


「聖奈は?」

「あー、あっちで詳しく話すわ」


そう言う直広と天馬の待つ学食へと移動した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「倒れたぁ!!?」


学食中の視線が向けられる。


「ちょっ! 声、声でかい!」

「あ、あぁ悪い」


勢いで立ち上がっていた零は、再び座り、


「倒れたってどういうことだよ」

「俺も詳しくは知らないんだ。なんせ、女子部屋のことだからな」


直広はパンを口に運び、


「なんでも、昨日の勉強が終わってから急に倒れたらしい」

「大丈夫なのか?」

「わからん。今日病院には行っているだろうな」

「そ、そうか」


明らかに心配から顔色の悪くなる零を、他のメンバーは全員気がついていた。

兎にも角にも、想いを伝えるという予定は中止となった。

それどころか心配の種が1つ増えることとなり、その後授業などは上の空だった。

ほとんど記憶にも残っていない。

ボーッとしている内に1日が終わり、バスを待つ時間となった。


「わっ!!!」


後ろから大声でそう言われビクッとする。


「どしたの! 元気ないけど」


外崎だ。


「いやちょっとな…」


外崎は零の前の席の椅子に座り、


「話してみそー! 聞いたげる!」

「聖奈のことだよ」


何故か数回しか話したことのない外崎に、零はいつの間にか口を開いていた。

もう信用していたのだろう。

我ながらちょろい。


「せいなちゃん? もしかしていつも教室の前にいた子? そういえば今日いなかったよね」


よく見てるなと思いつつ、零は今日のことを話した。

無論告白云々の話はしていない。


「そっかー。 それは心配だよね」

「まあ、そんなヤワではないと思うけど」

「すごく心配なくせに」

「んなことは…」

「ふーん。 ねぇ、聖奈ちゃんと零くんは付き合ってるの?」


いつの間にか下の名前で呼ばれていた。


「いや…だけど…」

「だけど?」

「俺は聖奈の事が好きなんだと思う」


外崎は一瞬悲しそうな顔して、


「そっか…うん! 告っちゃえよ! きっと上手くいくよ! この明日葉様が保証してやろうぞよ!」

「はっは、なんだそりゃ」


いつの間にか笑っていた。


「そろそろバスの時間だね」

「だな」


零は立ち上がり、カバンを持ち、


「いろいろ聞いてくれてありがとな。明日葉…」


お返しである。

零はそう言うと教室を後にした。

残された明日葉は、


「下の名前も覚えててくれたんだね。零くん…私諦めないから。 略奪でもなんでもやったげるんだから」


そう言って強く拳を握っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


外崎と話して、少しはスッキリしたと思えたのも束の間。

直ぐにモヤモヤが迫り来て、再び上の空となる。

バスの中では核原達と話をしていたが、なんの話だったか覚えてもいない。

桜花荘に着いてからもそれは続き、何をして誰と話したかうろ覚えだ。

この日はあっという間に過ぎて行き、就寝時刻となった。


寝ることも出来ずに、天井を眺めていると、部屋の扉がゆっくりと開く。

先生かと思ったが入ってきたのは、


「零! 起きてるか?」

「寝れねぇだろ」


入ってきたのは核原と平岡だった。


「なんだよこんな時間に」

「おっ、来たか」


龍二も起きた。

核原は、


「お前聖奈ちゃんのこと心配なんだろ」

「そんなこと…」

「ばっか! 隠さなくていいんだよ。1日中上の空だったろ」

「俺の悪口にも無反応だったしな」

「平岡、てめぇ」

「そんな貴方にこれをあげよう」


核原が取り出したのは一枚の紙だった。


「地図?」

「特待生クラス…聖奈ちゃんのクラスの泊まってる場所だ。行ってこいよ」

「は?」

「心配なんだろ?」

「大丈夫だ。後のことは上手くやるから。昼間にみんなで計画立ててある」

「聖奈ちゃんは家に誰もいないとのことだったから、今日病院の後はここに帰ってきてる。って先生から聞いておいたぞ」


核原はこういうところはしっかりしている。

それは零も不安に思っていた。

今、聖奈はどこにいるのかと。


「でも…」


決心のつかない零を見て、平岡は少しだけ溜めて、


「バレない保証はない。バレれば恐らく…」

「退学だろうな」

「だから、行くかは自分で決めな」


聖奈が倒れたのは多分俺のせいだ。

新しい環境、新しい生活に慣れていないの聖奈もだった。

なのに、俺は聖奈に頼り切って、好意に向き合うこともしなかった。

最低だ。

きっと過労からくるものだろう。

俺のせいで倒れた。

でも、聖奈は俺を恨んでも憎んでもいないだろう。

それどころかあいつなら…


「好きだよ零くん」


地図を握り、


「行ってくる。後のことは任せていいか?」


3人は笑い、


「「「了解」」」


核原の話によれば歩きで行ける距離らしい。

零は地図を頼りに走った。

少しでも早く会いたかったから。

息を切らし夜の街を駆け抜けていく。

聖奈達特待生クラスが泊まるホテルに到着した。

入り口には、直広と天馬がいて、


「来たか」

「マジで来るとはね」

「2人ともなんで…」

「核原の協力者だからね、俺ら」

「さ、行くぞ。聖奈が寝てんのは205だ。女子には話を通してある。みんな味方だ」

「マジか! 助かる」


直ぐにエレベーターに乗り込み2階に着く。


「俺らが行けるのはここまでだ。後は女子に任せてある」

「サンキューな」

「頑張れよ」


零はエレベーターを降りた。

エレベーターのドアが閉まる中、直広は、


「お前はいつも俺に出来ないことをやってみせるな」


と呟いた。


一方零はいきなり試練を迎えていた。

部屋の前で先生が座っているのだ。

恐らく保険医だ。

どうするかと悩んでいると、


「せんせー!!!」

「変な物音がしましたー」

「男子かもです」


保険医は立ち上がり、


「今行くわ」


突如奥の階段近くの部屋から声が上がり、先生はそっちへと向かった。

その部屋から顔を出した女子には見覚えがあった。

中村梓なかむらあずさ以前廊下で話した女子だ。

彼女はグッと親指を立て合図を送って来た。

心から感謝し零は、205へとたどり着いた。

ドアをゆっくりと開ける。


「先生? 呼んでませんよ」


部屋は暗い。

だが、電気はつけない。


「先生じゃねえよ」

「嘘…幻聴聞こえてるかも…」

「幻聴でもない」


零は聖奈の手を握る。


「零くん?」

「あぁ、そうだ」

「なんで…」

「お前が心配だったからだよ」

「嬉しい」

「なぁ、聖奈。聞いてくれないか?」

「うん」


零は目を閉じ、


「ずっと考えて出した答えだ。聖奈…俺はお前が好きだ」


零は聖奈に寄り添い、キスをする。


「付き合ってください」

「はい」


暗くて良く見えなかったが、聖奈は泣いていた。


「嬉しい! 私嬉しいよ零くん! 愛してます!」

「俺もだ」


零と聖奈は抱き合いながらそう言った。


これで全ては一件落着。

そう思った次の瞬間、部屋の扉が勢い良く開き、


「何してるの!」


先生が入って来ていた。

不純異性交遊、つまりは退学である。

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