エピローグ
「シリル!」
名前を呼ばれて下を見ると、アヴィンが塔の梯子を慣れた様子ですいすいと上ってくるところだった。こちらを見上げて手を振っている。
町で何でも屋をやっているアヴィンは、どうやったのかは知らないけれど、いつの間にか塔の整備用のロボットの整備をするようになった。
そして、どうやったのかは知らないけれど、『私に忘れ物を届ける』という名目で許可をもらって、ときどき塔の上まで上ってくるようになった。
アヴィンに許された時間は30分。アヴィンは私に1秒で忘れもの――だいたいはキャシーさんの愛の詰まったお弁当だ――を届けて、残りすべての時間、ガラスに張り付いて塔の中をのぞき込んでいる。
妻である私の顔なんて見もしない。
「はぁ……」
ため息をつきながら、今日も塔のガラスに張り付いている夫の姿を見つめる。
アヴィンの見つめる先にあるのは、クスノキという種類の大きな木。それを見つめる真剣な横顔は、あの頃とまったく変わっていない。
そして私は今日も飽きもせず、この横顔にちらちらと視線を送ってしまうのだ。
仕方ない――
だって、私はこの場所で、この人に恋をしてしまったのだから。
今日も塔の細い通路に腰掛けて、惑星リームヘルムの空を見上げた。
Fin.
最後にアヴィン視点の話が入ります。それでラストです。




