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君に"カンパイ"

作者: 渡辺 ゆき

「ねえ、今日さ、隣の家に引っ越して来た女の人がさ挨拶に来て、これ、くれたんだけど…」

と彼に言うが、彼は聞いていない。


再び、

「ねえ、ねえ…」

と話すがこちらに耳を傾けようともしない。


まだ、夢中になっているテレビ番組を見ている。


3度目…


「ねえ、ねえってば!」

と少し声を大きくして怒った感じに言うと、

「え?なに?」

とやっと耳を傾けた。


「隣に、羽山さんっていう女の人が引っ越して来て、挨拶回りにこれ、くれたよ」

と彼に見せると、

「ふーん…よかったね…」

と言い、視線をテレビに戻す。


私は、小さなため息を吐くと、そこに、


「ピンポーン」

とチャイムが鳴る。


「誰だろう」

と私は呟きながら、玄関のドアを開ける。


すると、そこにいたのは…


隣の家に引っ越して来た女の人だった。



そこからが始まりだった。


結婚してから5年経った今、ドラマみたいな出来事が起こるのは…



「どうしたんですか?」

と出ると、

「あ、すいません…部屋…間違えました…」

と言い、自分の帰って行った。その女の人は、頻繁に間違って私の部屋に来た。いつもいつも、間違えました、と。


ある日のことだった。


突然、携帯電話が鳴り出した。

「今日から、帰りが遅くなるから」

と彼から連絡が入っていた。

「了解」

と返し、私は、買い物に出掛けた。


「今日の夕飯、なにしようかな?」

と呟きながら迷っていると、携帯電話が再び鳴り出した。友達からだった。


私は、その連絡を見て衝撃的だった。


だって…



すると、再び、友達が、

「今日、一緒に飲みに集まる?」

と連絡が入っていた。私は、その時、動揺していて返せなかった。


また、連絡が入った。

「集まろう…」

と。私は、気が付いたらいつも友達と飲むバーの店の前にいた。思わず、店のドアを開け、足が勝手にそちらを向く。


もうすでに、友達は来ていて、

「大丈夫…?」

と私の顔を見て、とても心配そうな顔をして言う。私は、口が重くて口が開かなかった。しかも、頭が真っ白だ。


しばらく間が空いてから、

「取り敢えず、飲もう!」

と早苗は、グラスにビールを注ぐ。すると、佳奈は、

「そうだ!そうだ!こういう時こそ、飲もう!」

と盛り上がりを見せ、私に、グラスを持たせ、

「乾杯!」

と、飲んだ。その2人を見て私は、少しだけ微笑み、口に軽くビールを流した。


次々に、飲む。飲む。さらに、おつまみが来た。飲む。飲む。


気が付いたら、友達の早苗の家にいた。


頭が痛い…


2日酔いだ。


「大丈夫?昨日、結構、飲んでたもんね」

と言い、

「いいよ、ここにいて」

と言う。

「帰りたくないでしょ…」

と気遣ってくれた。

「うん…」

と私は呟くように言うと、早苗は、微笑んだ。しばらく、彼女の家に居させて貰った。



それから、1ヶ月したある日、携帯電話が鳴り出した。それは、彼からだった。私は、放置しといた。


さらに、2週間が、経った時、居候をさせて貰ってて何もしないのは、どうかと思い、

「買い物に行くよ」

と言うと、最初は、彼女に、断られたが、しつこく言い通すと、

「じゃあ、よろしく」

と言ってくれ、出掛けた。


スーパーの帰り、会ってしまった。


2人の間に沈黙が続く。


私は、逃げようと走った。


しかし、手を掴まれた。


「何?」

と私は、聞くと、

「今、どこにいるんだよ」

と言う。私は、思わず、

「どこだっていいじゃん」

と答えると、

「それに…なんで、逃げるの?」

と言う。私は、

「逃げてないし!」

とムキになったように言うと、彼は、

「帰ろう!」

と私に言う。


しかし、私は、彼に掴まれても引っ張られても、動かなかった。


再び、沈黙が続く。


私は、思いっきり、

「帰らない!」

と言い、全力で走った。


そして、早苗の家に着き、深呼吸をした。

「ただいま。ごめんね。遅くなちゃって…」

と入っていくと、座敷のところに彼がいた。


「な、なんで、ここにいるの?」

と言うと、彼は、先回りをしてここに来たようだ。

「何を言っても帰らないから!」

と怒るが、彼は、

「なんで?」

と聞く。右手を強く握り拳を抑えていると、早苗が口を開いた。


「あなたさ、よくもそんなこと、言えるわね」

と。彼は、

「はぁ?お前には関係ない!」

と私の腕を掴み、強引に引っ張る。

「離してよ!離してよ!」

と言っても、離さない。そして、自分の部屋に着き、私を入れると、彼は、私を持ち上げ、ベットの上に私を運んだ。そして、

「俺、なんかした?」

と言う。

「自分に聞いてみたら?」

と答えると、彼は、私を抑えつける。そして、私の唇にキスした。再びしようとした彼に、

「やめて」

と言う。彼は、また、しようとした。

「やめて!」

と怒る。

「気持ち悪い!」

と言った。彼は、

「何した?俺、なにした?」

としつこい。


「あんたさ、私の他に、女いるでしょ?」

と迫った。彼は、動揺しながら、

「何、言ってるの?」

と言う。

「友達の佳奈が見たって!」

と言うと、彼は、

「何を?」

と言う。

「ホテルに泊まってた佳奈が、あんたと女が一緒にいたところ。」

と言うと、彼は、額に汗を掻き、動揺している。


私は、

「なるほど!」

と言うと、彼は、

「ごめん…」

と受け入れる。だけど、私は、許さなかった。


そのまま、私は、その家に出た。


そして、私は、全然知らない町へ引っ越した。


すると、なぜか、偶然なのかどうか、わからないが、隣に引っ越して来たばかりの女の人も、その町に引っ越して来た。さらに、彼は、それでも私について来た。


2か月が経った。


今日は、彼の誕生日だった。


朝、仕事をしていて、電話が鳴っていることに気づいていなかった。


休憩に入り、携帯電話を開くと、彼から連絡が入っていた。そして、メールも来ていて、

「今日、遅くなるから」

と書いてあった。私は、彼に、

「了解」

と返信した。


すると、上司から、

「これ、お願いできる?」

と言われ、彼は、帰りが遅いから大丈夫だろうと、引き受けた。そして、仕事をそのまま、ずっとやっていると、時計は、短い針が9を指していた。私は、驚き携帯電話の時間を見ると、メールが入っていた。それは、

「ごめん!残業で今日、帰れそうにない」

と書いてあった。


とりあえず、終わったので、電車の終点もなくなってしまったので、歩いて帰宅していた。


その途中にスーパーに寄った。


すると…


私は、固まった。信じられなかった。持っていたバックを手から思わず落としてしまった。


「え?え?え?」

と思わず、呟くように言う。私は、その場で座り込んでしまった。

「え?え?え?」

と思いながら、あれはきっと夢だった、あれは、きっと勘違いだ、あれは、きっと…

と心のなかで思っていた。


気がつくと、私は、家のドアの前にいた。


私は、それから、家に入り、電気もつけず、暗闇の中で座り込んだ。


彼は…


不倫していた。


だけど、まだ、それだけならいいけど、もっと信じられないその光景は…


その暗闇の中にいると、そっとドアが開く。私は、そのドアの音に気付かなかった。


電気が突然パッと付く。


彼が帰ってきたのだ。


私は、そのまま、固まって座り込んだまま。


帰ってきた彼は、

「どうしたの?こんな真っ暗のところに座り込んで」

と言う。私は、無言のまま。彼は、私のところに来て

「大丈夫?」

と私の顔を覗き込む。彼は、

「どうしたの?」

と優しく言うが、私は、何も応えず、ただ無言のままである。


暫く、沈黙が続いた。


私は、口をゆっくりと開いた。


そして、

「あのさ…昨日…」

と言い出す。彼は、

「昨日?」

と聞く。

「昨日…いたよね?」

と問う。彼は、

「うん?え?」

と聞く。私は、ゆっくりと

「すー…ぱ…ー」

と言うが、片言のような感じで伝わらず、彼は、

「え?何?何のこと?」

と聞く。私は、大きく息を吸った。そして、はっきりと思い切って、

「昨日…スーパーで見たんだよ…」

と弱い声で言った。すると、

「何を?」

と聞く。私は、

「あなたと女が一緒にいるところ」

と言うと、彼は、急に黙り込んだ。そして、私はさらに

「あと、子ども…」

と言うと、彼は、私の顔を見て驚いた顔をした。

「子ども?」

と聞く。私は、

「女の人のお腹の中にも、歩いている時も」

と言うと、彼は、しまった、という顔をしていた。


「やっぱり…」

と言うと、彼は、口を開いた。

「ごめん…」

と謝る彼。私は、

「そっか…」

と言うと、彼は、言い訳をするように、

「でもね、愛してるんだ!君も春夏も!」

と言う。その言ったことに対して、私は、思わず、

「はぁ?」

と言うと、彼は、さらに、

「別れたくない…両方とも…」

と言う。私は、

「彼女は、知ってるの?」

と聞くと、彼は、首を横に振った。私は、彼に正直、呆れ、何も言えなくなった。そんな私に彼は抱きしめた。強く。


私は、彼を自分から離し立ち上がり、冷蔵庫からビールを2つ出した。そして、片方のビールを向けて

「飲む?」

と聞くと、彼は、そのビールを受け取ろうとしなかったので、彼の手を掴み、ビールを渡した。


そして、私は、ビールの缶を開け、ごくごくと思いっきり飲んだ。


彼は、そんな私を見て呆然としていた。


私は、彼のそのビールの缶に"カンパイ"と言い、再び飲んだ。


彼の誕生日祝いと彼に騙された夜の"カンパイ"だった。



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