即休
「それにしても、
まるで迷路の様な町だな」
この町は中心が広場となっており、
そこに繋がる路地は狭く入り組んでいた。
「とりあえず、
中心地に行けば看板くらい見つかるでしょう。」
さすがに妹も疲れているのか、
目が閉じかけている。
「それより、金は大丈夫かな?」
高級ホテルしか無いということはないだろうが、
先の見えない旅だ。
節約した方が良いだろう。
「今回だけなら、ね?」
妹は心なしか楽観的なようだ。
だが、その余裕は続かなかった。
予想より遠い。
同じような建物が並ぶ路地は
完全に迷路としての役割を果たしていた。
迷っているわけがない。
中心に向かうために移動しているはずが、
外周を回っているだけの様に感じる。
その時、不意に声が聞こえた。
「人の家の庭で何をやっているんだ?」
見上げると、
窓の一つから不機嫌そうな顔が覗いていた。
「さっきから人の家の周りをぐるぐる回って.
何がしたいんだ?」
確かに、ここらの家は繋がっている。
俺は家々だと思っていた、
一つの家の主人に声を返した。
「中心部に行きたいんですが、
迷ってまして。」
主人はつまらなそうに言い放った。
「中心部に行っても何もないよ。」
「疲れているなら、
私の家で休んで行くと良い。」
どうやら、俺たちの事は知らないらしい。
旅行者と間違われたのかもしれない。
だが、好都合だ。
ここはお言葉に甘えるとしよう。
俺はすでに目を閉じてしまった
妹の手を引きながら、入り口まで歩くのだった。