《後日談》 レーナ、絶叫する(前)
レーナは暑苦しいのが嫌いだ。
べたべたとまとわりつかれるなど、反吐が出る。
だって、かつて少女の姿だったとき、近寄ってくる男はレーナの体をまさぐることしか考えていなかったし、女はそんなレーナに蔑みと無理解の視線しか寄越してこなかった。
搾取するか、傷つけるために伸ばされる手。
そんなものを、どうして受け入れられようというのだ。
ついでに言えば、わざとらしいのも嫌いだ。
血がつながっていないのに「兄ちゃん」「姉ちゃん」と呼びかけてみたり、友情を確かめ合うようにお揃いのものを身に付けたり。
そういった、ままごとのような行為は、自分には欺瞞の厭らしさしか感じさせなかったから。
だから。
「だから、トルペは、もういらねえっつってんだろおおお!?」
精霊祭、当日。
これでもかと黄色のトルペを押し付けられたレーナは、握りしめた茎をぶんぶんと振り回し、周囲の喧騒にも負けないほどの声量で叫んだ。
「あっ、ちょっとー!」
「そんなことしたら、花びらが散っちゃうでしょー?」
「ちゃんと持っててよね、ばかレーナ!」
即座に、エミーリオたちが非難の声を上げる。
彼らもまた、胸元に一輪の黄色いトルペの花を挿していた。
なんでも黄色のトルペの花言葉は「友愛」とのことで、ハンナ孤児院のメンバー同士は、精霊祭のこの日、お揃いの花を互いに送り合い、胸元に挿すのが風習らしい。
祭の日に、お揃いの、花。
レーナからすれば、五本の指にも入りうる、暑苦しくて、わざとらしい、おぞましい行為である。
当然彼女にそんな花を挿すつもりなどなかったのだが、精霊祭に繰り出すや否や、胸元に何も彩りのないレーナを見て、エミーリオたちは「あーあ」と憐れむような視線を浮かべたのだ。
挙句彼らは、出店がおまけで配っているトルペを頂戴してきては、それを「荷物になるから持ってて」とレーナに押し付けてくださっているわけだった。
「おまけをせがむとか、ほんともうおまえら、やめろよ……」
そう。
レーナは精霊祭が始まって一時間もしない内に、かなりげんなりしていた。
なぜならば、一応引率という形でエミーリオたちと同行しているのだが、彼らはそんなレーナの制止も聞かず、先ほどからあちこちで出店に突撃していっては、えげつない値切り交渉を展開しまくっているからである。
アンネが世間話から入り込んで女主人を褒め殺し、りんご飴を三つおまけしてもらったと思いきや、マルセルはぽそっと劣悪品が紛れていることを呟いて、チーズ屋の主人から口止め料の粉チーズを巻き上げ、そうかと思えばエミーリオは、あどけない瞳をうるうると潤ませて同情を引き出しながら、したたかに包丁研ぎを無料にしてもらう。
その手腕ときたら、とうとう音を上げた店の主人たちが、「このトルペを持ってっていいから、もうこれで勘弁しとくれ!」と叫びだすほど――それで、こうしてレーナが花屋のような状態になっているのだが――。さすがは守銭奴検定の有段者といったところである。
「褒めのアンネ、呟きのマルセル、泣き落としのエミーリオ。まあ、この界隈で、値切り三姉弟の名を知らない者はないからな」
恥ずかしさにげっそりしているレーナの背後では、のんびりとそんな声が響く。
ブルーノだ。
彼もまた、胸元に黄色のトルペを挿していた。花など最も似合わない男だと思うのに、意外にも褐色の肌に、淡い色の花弁がよく映える。
ブルーノは人ごみの向こうを見透かすようにすっと目を細め、「見ろ」と周囲の店を指差した。
「あそこの鍋屋の主人、売り子を入れ替えただろう。あちらの八百屋の主人もだ。相当警戒されてるな。精霊祭のために雇った日雇いではなく、ベテランの売り子を出してきたようだ。――エミーリオ、気を引き締めろよ」
「あい!」
最後に付け加えられた忠告に、エミーリオたちが大変よい子のお返事をする。
彼らの目は一層闘志に輝き、その奥には渦巻く炎が見えるかのようだった。
「まかせて、ブルーノ兄ちゃん! レオ兄ちゃんの名にかけて、ぜったいぜったい、ぼろ儲けしてみせるから!」
「ふふん、今更売り子を入れ替えたって、むだよ、むだ。私たちには、レオ兄ちゃんに鍛えてもらった、相手の性格を一目で見抜く『真実の目』があるんだから!」
「三タイプの攻め方で、ぬかりなしだから!」
「だからもう、おまえらほんとやめろよ……」
レーナはげんなりと呟いた。
低コストで高リターンを稼ぎ出す――「売る」行為なら、マーケティングという学問によって対応可能だった彼女も、値切って値切って値切り倒す、「買う」行為については、ずぶの素人だった。
幸か不幸か、彼女は金に苦労したことが無い。値切るだなんてコミュニケーションコストを掛けるくらいなら、言い値で買った方がよほど賢明に思えたのである。
というか、外聞だとか恥だとか、そういった概念がないのだろうか、この子どもたちには。
レーナは恨みがましい視線をブルーノに向けた。
「っていうか、おまえもちょっとは真剣に止めろよ、ブルーノ。いくら孤児っつったって、こんなにがつがつ値切ってばかりじゃ恥ずかしいだろ?」
「恥ずかしい? なぜ?」
ブルーノは無表情で首を傾げた。
「見ろ。子どもたちは生き生きしている。あれで主人たちも楽しそうだ。この下町では、言い値で大人しく買う従順なカモなんて、つまらない存在でしかないからな。食うか食われるか、勝つか負けるか、丁々発止のやり取りをしてこそ、あちらさんだって商売の醍醐味を味わえるというものだ」
淡々と告げられた内容に胡乱げな視線を寄越しながら、念のため店の主人たちの表情を検分してみる。
「…………」
顔を真っ赤にしているのは激怒にしか見えないし、真っ青にしているのは絶望にしか見えない。
が、まあ、生き生きとした鮮やかな表情である、というのは確かだろう。
(……騙されてない? 私)
相変わらず、感情表現が激しすぎる下町クオリティというのは理解しがたい。
レーナは少し遠い目になりながら、
「……ま、あんなんで楽しいっていうなら、なんでもいいけど」
と無理やりその問題を片づけた。
わからないのではない、脳細胞を働かせるにも値しない議題だというだけだ。
と、その呟きを拾ったブルーノが、「ほう」と片方の眉を上げる。
「よかったな、レーナ。今日は子どもたちがにこにこ笑顔で。ほっとしたか」
挙句、彼はそんなわけのわからないことを言い出してきたので、レーナは『はあっ!?』とエランド語で言い返した。素の感情を表現するなら、ブルーノ相手にはエランド語で話すに限る。
『なんのことよ!? 子どもたちが笑顔だろうが、泣き喚こうが、私の知ったことじゃないし!』
『よく言う。雪花祭では、子どもたちに大泣きされて固まっていたくせに』
『あれは……! 単に、この子たちの壮絶にひっどい泣きっ面に言葉を失っただけよ!』
そう。雪花祭でレオが皇子に拉致られてしまったと知った時、エミーリオたちがギャン泣きするというひと騒動があったのだ。
「がっつり稼いで帰っだら、レオ兄ちゃんが、褒めでぐれると思っだのにいいい!」と鼻水を垂らす彼らには、どんな慰めの言葉も通用せず、レーナは途方に暮れたのだった。
まあそれも、ブルーノが「目当ての菓子がいつまでもテーブルに残っていると思うな、馬鹿者。さっさと食わないからだ」と一喝し、「悔しかったら精霊祭で更に荒稼ぎしてみろ。金あるところにレオ有りだ。つられてやってくるかもしれんぞ」とよくわからない提案をした途端、彼らはぴたりと泣き止み、目の色を変えだしたのだが。
(なんなのよ、この子たち……)
せっかく、レーナが不慣れにも慰めてやったというのに。楽に金儲けさせてやったというのに。
彼らは、そんなものをかなぐり捨てて、とにかく「レオ兄ちゃんに会いたい」「レオ兄ちゃんのために頑張る」と言う。
それにレーナは少なからず苛立ち――そしてまた、傷ついても、いた。
(――って、無い! 無い無い無い無い! なんでこの流れで私が傷つくのよ!)
あえて言うなれば、あれは、自分の素晴らしいマーケティング策よりも、レオのずぶ泥営業のほうがよいと突き付けられて、矜持が傷つけられたようなものだ。別に、いつまで経ってもレオの代わりになれないことを歯がゆく思ったり、自分の言葉では子どもたちの心を動かせないことを悲しんだり、そういう幼稚で馬鹿らしい感傷では、けしてない。
『私は、「兄ちゃん」なんかじゃないもの……!』
現に、正体を知っている子どもたちは自分のことを、けして「レーナ兄ちゃん」とは呼ばない。
こちらだって、そんな、暑苦しくって、青臭くって、わざとらしい関係などご免だ。
だから、これでよいのだ。
(それに、どのみち、あと数日もしたら、私たちは元の体に戻るわけだし)
レオから「精霊祭の翌週まで、体を戻すのを延期してほしい」と手紙が来たとき、確かにレーナは降って湧いた幸運に喜んだ。
正直、レオとは気まずい別れ方をしていた分、肩透かしを食らったという感想の方が大きかったが、それでも、「精霊祭」という一区切りをこの姿で迎えることができるとわかって、嬉しかったのだ。
だが、日に日に、タイムリミットが迫っているのを実感するたびに、レーナの中には焦りと悔恨が生じるようになった。
元に戻るまで、あと二週間。十日。……一週間。
きっと今日の精霊祭が終われば、彼女は毎日、「あと何日」と日々を数えだすのだろう。
未練がましく、孤児院のメンバーを目で追いながら。
そう。
心の中でだけ、認めよう。
レーナは、元の姿になど戻りたくなかった。
少女として、侯爵家の落胤として、貴族社会で渡り歩いていくなど嫌だった。
あるいは、異様な美貌を付け狙われて、引きこもりの生活を送るのも、もう御免だった。
もっともっと、こうやって、太陽の光を浴びながら、馬鹿で生意気で小憎らしくて――素直な子どもたちと一緒に、大騒ぎしていたかったのだ。
(未練なんて、私らしくないのに)
だがもし「兄ちゃん」だとか呼ばれて、子どもたちに惜しみない笑顔でも向けられようものなら――自分は、この胸の中にある未練がましい感情を、表に出してしまうかもしれない。
そんな見苦しい真似だけは、したくなかった。
だから、これでよいのだ。
子どもたちはレーナに敵対的で、「兄ちゃん」などと呼びかけてこないで、どことなく距離を置いて。
お揃いのトルペなんかも、だから、いらなくて。
自分は、いつまでたっても「兄ちゃん」だなんて存在には、ならない。
そっぽを向いて口を引き結ぶレーナを、ブルーノは興味深そうに見守っていたが、特に感想を口にすることはなかった。
と、相変わらず出店から戦利品を巻き上げてご満悦の子どもたちが、ほっくほくの笑顔を、ふと何かに気付いたような表情に改める。
「――……? なんだろ、あれ?」
彼らの視線の先にあったのは、ぞろぞろと列なす人の群れだった。
腰の曲がった老婆。幼い子ども。ぼろぼろの古着をまとった男性。
そういった、どちらかといえば彼らと同じ、「社会的弱者」に分類されそうな人々が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
皆、その身なりこそ卑しかったが、なにか楽しいことを企んでいるような、同時になにか神聖な使命を帯びたような、輝かしく、興奮に満ちた表情を浮かべていた。
「なんだ? すごい人数だな」
ブルーノも、珍しい行列に首を傾げる。
じっくりとその集団を見渡していた彼は、やがて、
「沼地の方に住む貧民か? いや、西地区のスラムも混じっているな……」
誰ともなしに呟いた。正体が気になるらしい。
「あっ! ねえ、今、クリスさんが見えなかった!?」
「えっ、どこどこ!?」
目ざといエミーリオが、ここ最近ですっかり顔見知りになった女性の影を見つけて叫ぶ。
クリスによくなついているマルセルたちも、きょろきょろしながらその姿を追った。
「ええー? いないよ? 見間違いじゃない?」
「いるよ! ほら、あの奥! グスタフさんって弟も一緒!」
エミーリオが懸命に指差すが、集団の列は長く、視界に収まりきらない程に続いているため、見つからない。
そのうえ、見守っている今にも、興味を引かれたやじ馬たちが合流し、ますます人が増えている。
先頭の数人はラッパを鳴らしたり、大声で呼び掛けたりして、どうやらこの行列への参加を求めているようなのだ。
「今こそ、我々の声を!」
「皇宮に届けよう!」
「いざ、皇宮へ!」
「歴史に残る精霊祭を!」
はっきり言ってそれだけでは、彼らがデモをしようとしているのか祝福しようとしているのかすらも、わかったものではない。
しかし、彼らがあまりに陽気に告げるので――みんなで肩を組みながら皇宮に向かい、何事か叫ぶというのは、なんだかとても、祭らしい、素敵な思いつきに見えた。
「ねえ、僕たちも行ってみようよ!」
「はっ!?」
基本面倒くさがりなレーナはぎょっとするが、目を輝かせた子どもたちは聞いてもいない。
戦利品をぎゅうぎゅうにポケットやら懐やらに収めると、一斉に行列に飛び込んでいった。
「おい……! ちょ、待てよ……!」
引率している目の前で、明らかに胡散臭い案件へと突進していく彼らに、レーナは眉を寄せる。
が、
「行くぞ、レーナ」
どうやら興味を引かれたらしいブルーノが、あっさり子どもたちの側に付いたので、彼女は苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔で、その後を付いていくこととなった。
「なんだよ、パレードに付いてって、皇族のお手振りを見るっていう、毎年のやつだろ?」
悔し紛れに毒づくが、いや、どうもそれとも微妙に異なるようだ。
(――……人が、多すぎる?)
そう、皇宮に付くまでにも膨れ上がるように人数を増やした集団は、もはや衛兵の制止すら聞き入れずに、宮殿前広場にぎゅうぎゅうに押し寄せていたのである。
例年の、整然と並ばされた謁見とは、明らかにその規模ややり方が違っていた。
「――……んざい!」
やがて、辛うじて広場の片隅に落ち着き、もみくちゃにされそうになりながら、ようやく足の踏み場を固めたところに、前方から地響きのような唸りが伝わってくる。
いや違う、これは声だ。
あまりにも多くの、あまりにも大きな、叫び声が重なった音。
それは瞬く間に周囲に広がり、やがてレーナたちも、その叫びの内容が「金貨王、万歳」であることを理解した。
「金貨王万歳? なんで?」
当代の皇帝の二つ名は、金剣王であったはずだ。
レーナが眉をひそめていると、ちょうど同じ疑問を持ったらしい人々が、周囲にそれを尋ね、興奮気味に説明を受けていた。
「あたしらは沼地の方に住んでるんだけどね、この水不足でずいぶん参ってたんだ。だがそれを、次期皇帝の金貨王様が救ってくれたんだよ! 水を召喚する、陣とかいうすごい布でね!」
「陣?」
耳慣れぬ単語に首を傾げる相手に、老婆は得意げに続けた。
沼地や最下層スラムを中心に、水不足や水の汚染が起こっていたこと。
心優しき皇子が、己の身を削って、浄水を召喚する魔術を組んでくれたこと。
その友人が、精霊を説得し、更には魔術を縫い取った布を格安で提供しだしたこと。
しかしながら、そのせいで、皇子は古参貴族に責め立てられ、大切に思っている少女――精霊をも諭す、慈愛深き美貌の乙女であるらしい――すら遠ざけようとしていることなど。
「へえ。その皇子ってのは大した男じゃねえか」
「イキだねえ」
祭り好きで、かつ粋な心を愛するリヒエルトっ子たちが、感心したように頷く。
もともとワインでほろ酔いだった彼らは、素直にその説明を受け、皇子を応援してやろうと思い立ったようだった。
「なにより楽しそうだ。俺たちも叫べばいいんだろ? ばんざーい!」
「金貨王、ばんざーい!」
そんな風にして、あちこちで、このたびの皇子の活躍と、それを讃える斉唱が広まっていく。
エミーリオたちも「楽しそーう!」とそれに倣いはじめる中、
(――ちょっと待ってよ……?)
レーナだけが、すうっとその顔色を青くして、忙しく思考を巡らせていた。
陣。
水を召喚する陣。
確かそれについては、以前レオに構造を尋ねられたことがある。
手紙では到底説明できない内容だったのと、明らかに厄介ごとに繋がりそうな気配を感じとって、「会ったら話す」とごまかしていたのだが、まさか、皇子がそれを完成させていたなんて。
(ということは、レオが言ってた水の召喚陣っていうのは、これにかかわることだったわけで、皇子の想い人ってあたりからも、「精霊を諭した慈愛深い乙女」ってのはレオなわけで、つまり……あいつは、国をも救った……聖、女……?)
あまりに恐ろしい想像に、思考が途中でその働きをやめる。
レーナは、黄色のトルペを無意識に握りつぶしながら、冷や汗を浮かべて虚空を凝視した。
無欲の聖女、レオノーラ。
皇子殿下の想い人。
筆頭正妃候補。
たった三ヶ月の間に、よくもこんな絶望的なフラグを量産してくれたものだとは、思ったが。
(待って……落ち着くのよ、レーナ。まだ、やつが国雄的偉業をやらかしたとは限らない……っ)
そこに更に「救国の聖女」だなんて肩書が加わったら、いよいよレーナは戻れない。
というか、激しく、絶対に、元の体に戻りたくなんかない。
(国中に存在を知られて、どうやって脱出しろっていうのよ……!?)
いや、落ち着け。
レーナは必死になって自らに言い聞かせた。
そうとも。
もし仮に、万が一、レオが救国の聖女だなんて肩書まで得てしまったのだとしても、顔さえ割れなければ、まだなんとかなる。
そう。
例えばこの轟くような群衆の雄叫びにつられて、ひょいとそこのバルコニーから、皇子と一緒に「レオノーラ」が出てきたりさえしなければ――
どぉ……っ!
その瞬間、地響きのような歓声が響き、レーナはぱっと顔を上げた。
視線の先では、白いサーコートをまとった美貌の皇子が、堂々たる足取りで、バルコニーへと踏み出したところであった。
――その腕の中に、白いドレスをまとった、黒髪の少女を抱きかかえながら。
「え……?」
「まさかあれって……」
「レオ、ノーラ様――っていうか、レオ兄ちゃん……?」
背伸びしながら見上げていた子どもたちが、呆然と呟く。
ふむ、と腕を組んでその様子を見守っていたブルーノは、やがて重々しく頷いた。
「どう見ても、そうだな」
眩しいくらいの笑みを浮かべる麗しの皇子に、民たちのテンションは最高潮にまで盛り上がる。
無数の両腕が空に向かって突き上げられ、鼓膜を破りそうな程の声援が、一斉にうねりとなってその場に広がった。
その、広場の中心で。
「っぎゃあああああああああああああ!」
レーナはただ、絶叫した。