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《閑話》 レオ、歌う(1)

 ガシャーン、と、花瓶の割れる音が響いた。


「ア、アデイラ様! どうか落ち着かれてくださいませ!」

「うるさいわね!」


 最近アデイラ付きになったばかりの侍女が、震えながら(いさ)めてくるが、この部屋の主人――ハーケンベルグ次期侯爵夫人・アデイラは、調度品を振り降ろす腕を止めない。

 その肉付きのよい二の腕をぶるぶると震わせながら、顔を真っ赤にして部屋を荒らしまくる。


「なによ! なによなによ、なによ!」


 彼女は、肉に埋もれた(はしばみ)色の瞳にくっきりと怒気を浮かべ、金色に染めたぱさぱさの髪を振り乱して叫びつづけた。巨体から放たれる大音量に、びりりと窓ガラスが震える。


「一体みんな、あたくしを誰だと思っているのよ! 次期侯爵夫人よ!?」

「アデイラ様……! 破片の近くを歩かれては危険です。どうか――」

「うるさい!」


 侍女が必死に宥めようとするのを、アデイラは鋭く一喝して黙らせた。

 色だけは白い彼女が、そうやって肩をいからせ、頭に血を上らせると、細い肩ひもが肉に食い込む様といい、まるでボンレスハムのトマト煮込みのようだ。


 が、彼女の夫・ディートリヒが屋敷を空けている今、その怒れる煮込みを止められる人物などいない。

 そんなわけでアデイラは、ぐつぐつと苛立ちを煮え(たぎ)らせながら、落ち着きなく部屋を歩き回った。


「みんな、みんな、あたくしのことを馬鹿にして……!」


 彼女は気に入らなかった。


 かつては熱烈にプロポーズしてきたくせに、妻をほったらかして仕事で家を空けてばかりのディートリヒも。

 「クラウディアの残りかす」と言われている彼に嫁いでやった優しい自分に、朝から小言を言ってくるエミーリアも。


 そして、口を開けば「どうかレオノーラ様を見習って」と言ってくる屋敷の使用人たちも。


(なによ、なんなのよ! 下町育ちのジャリガキに、レオノーラだなんて大層な名前まで付けて。学もない、品もない子どもとあたくしを、比べることすらおこがましいというのに!)


 アデイラはぴたりと歩みを止めると、自らの纏っている赤いドレスをわしっと掴み、それをまじまじと見つめた。


 夫がいない間に、馴染みの商人に仕立てさせた特注の品だ。ところどころ金糸を散らし、人目を引く豪華な一品に仕立てた。

 かつて彼女のお気に入りの従者が、「アデイラ様にしか着こなせないドレスです」と言ってくれたものだ。


 にもかかわらず、エミーリアは朝食の席についたアデイラを見るなり、その眉をまるで娼婦でも見てしまったかのように顰め、言ったのだ。

 品が無い、あなたもレオノーラを見習って、もっと身を慎むことをしたらどうなの、と。


 アデイラの勘違いでなければ、その視線には、夫を家に繋ぎ止められない不束(ふつつか)な嫁への、冷ややかな嘆きが含まれていたように思われた。おかげでアデイラは朝からすっかり嫌な気分になり、食事もそこそこに部屋に戻る羽目になった。


 このところ、万事が万事そのような感じだ。


 ぽっと出のみすぼらしい少女――屋敷を空けがちなアデイラはまだ対面したことはないが、そうに違いないと確信している――のことを、誰もが褒めそやす。

 やれ美しいだとか、心根が清らかだとか、慎み深いとか。まるで淑女の鑑のように。


 そしてまた、あたかも少女の方が、この屋敷の若き女主人であるかのように。


(この屋敷の、若き女主人は、あたくしよ!)


 アデイラはぎりりと虚空を睨みつけた。


 自分を置いて、少女の方が持て囃されるなど、あってはならない。

 下町で育った年端もゆかぬ少女よりは、自分の方がよほど、品も学もあり、成熟した魅力を持った、素晴らしい女なのだ。


(そうよ。だいたいカイだって、いつまであのジャリガキに付いているのだか)


 苛立ちはそのまま、お気に入りの元従者にまで及ぶ。しかしアデイラはすぐにその太い首を振って、自らの考えを否定した。


 あの子は優しい。

 だからきっと、少女が仕えるに値しない下卑た人物であろうと、それを見離せずにいるのだろう。


(だとしたら、あたくしがカイを救ってあげなくては)


 力無き従者にも心を砕くのが、この次期侯爵夫人・アデイラだ。

 彼女は自分の発想に満足気な笑みを浮かべ、爪を噛みながら思考を巡らせた。


 やたら崇拝されはじめている少女と自分の格の違いを見せつけ、みんなの目を覚まさせ、そしていたいけな従者を取り戻すには、どうしたらよいか。


 やがてあることを思い付いたアデイラは、にいっと口の端を引き上げて、傍で怯えながら控えていた侍女に声を掛けた。


「ペンと、紙を。――カイに手紙を書くわ」


 愉快な将来を思い浮かべて、鼻の穴をぴくぴくと膨らませる様は、実に豚のようであった。




***




   光あれ

   凍てゆるむ空 にじむ月

   仰ぎ眺むる 人の子の

   てのひらに落つ 黄金(こがね)のしずく



「……うーん。月と黄金の、矛盾……」


 少女は悩んでいた。

 従者の用意してくれた羽ペンとノートを、それぞれ右手と左手に握りしめたまま、愛らしい鼻に(しわ)を寄せる。

 視線を落とす横顔は驚くほどに整っており、俯いた途端はらりと肩からこぼれ落ちる髪は黒檀(こくたん)の輝き。肌は白雪のように白く、何事かを小さく呟く唇と、滑らかな頬はまるで可憐な薔薇のようだった。


 と、ちょうどその時、馬車の車輪が小石を弾いてわずかに揺れる。

 しかし、それすらも気にならないほど、彼女は目の前の「作品」に集中していた。


「……黄金といったら、普通は太陽……でも、やはりここは、蒼ではなく黄金……うーん……」


 しばしの黙考の後、結局少女は「黄金のしずく」をイキ(・・)にすることにしたようだ。横線を引きかけていた右手を止め、ぱたりとペンを伏せる。


「随分集中していらっしゃいますね、レオノーラ様」


 少女が一息入れたタイミングを見計らったように、向かいの席に座った従者――カイが声を掛けてきた。


「詩を(たしな)むのは淑女として素晴らしいことですが、馬車の中で書きものをされては、酔ってしまいます。どうぞ、ほどほどになさってください」

「……はい。すみません、カイ」


 軽く(たしな)められた格好の少女は、少しばつが悪そうに肩を竦める。

 漏れ聞こえた詩の一部は格調高く、少女の優れた文才を窺わせたが、そういった仕草はまだまだ幼い子どもだ。

 ペンとノートを脇に避け、そのまま目を休めるように車窓を眺め出した主人を、カイは微笑んで見守った。


(レオノーラ様は多才でいらっしゃるけれど、まさか詩の才能までお持ちだなんて。文面的に、光の精霊を讃えるものかな? なんて美しい、信仰心に溢れた詩だろう。きっと、清らかなお心が、自然にそのような言葉を引き出してしまうんだろうな)


 とはいえ、何事も没頭しすぎるきらいのある主人のことは、自分が責任を持って止めなくてはならない。少女の紡ぐ詩の続きを知りたくもあったが、未来の執事として鍛えている自制心でもって、カイはぐっとそれをこらえた。


「ふう……」


 一方、美貌の少女――の顔をした守銭奴少年レオはといえば。


(いけね、さすがに根詰めすぎたぜ。金儲けのこととなるとすぐ夢中になっちまうのは、俺の悪い癖だよな)


 車窓の景色に目を休めながら、そんなことを考えていた。

 信仰心は全て金に捧げているレオ。そんな彼が、まさか精霊への想いを湧きあがらせて、詩を紡ぐなどあるはずもなかったのだ。


 ではなぜ、彼は詩なんかを書いているのか。

 それは、歌劇用の歌詞を書き起こすことで、ひと山当てようと企んでいるからであった。


 ことの起こりは、三日前。

 例によって孤児院に、寄付という名の私物転送を行い、その礼にと手紙が送られてきた時のことだった。

 いつも他人行儀なハンナからの手紙には、その日に限って、珍しく愚痴のような内容がしたためられていたのである。


 いわく、最近ブルーノたちの子分が随分増えた。また、人相の悪い少年や、やたら派手な女の子たちが一気に孤児院周辺に押し寄せ、大声で騒ぎまわるので困っていると。

 なんでも、レーナが引き起こした粉塵爆発事件のせいで、うっかり「リヒエルト最大のグループのボス」なんぞになってしまったブルーノが、激増した子分を捌ききれず難儀しているということらしい。


 ブルーノたちも割り当てる内職が増やせないかと奔走しているものの、しっかり躾けられたハンナ孤児院の子どもたちとは異なり、大声でがなり立てたり、化粧で飾り立てるくらいの能力しかないものだから、なかなか職が手配できないというのだ。


 レオはそこまでを「あれまあ」と他人事のように流し読んでいたが、ふとそこで閃くものがあった。


 大人数。声が大きい。化粧が派手。


 これをなにかしらのビジネスに活かすことはできないか。

 たとえば――それらを活用して、歌劇団を作ってみてはどうだろう、と。


 小説も流通していない下町では娯楽が少ないため、暇を持て余した人々は、酒場の歌姫や街頭の弾き語りのもとにこぞって足を向ける。

 一時期酒場でバイトをしていたレオは、どうにかそこらへんのビジネス領域を攻められないかと、もともと構想を温めていたのである。


 ハンナ孤児院は、一人ひとりが芸達者だが、抜本的に人数が少ないし、目立つのは嫌いという人物が大半だったが、今は違う。私を見て! といわんばかりの子どもたちが、日々発声練習をしながら待っているのだ。これを使わない手はなかった。


 つまりレオは、ハンナの救済にかこつけて、新たなビジネスに手を出そうとしていたのである。


 儲け話ならまっしぐらのレオ。

 構想を思い付いてからの行動は早かった。


 具体的には、ハンナに手紙を書き、「悪ガキ」どもに音感教育を施してもらうよう依頼しつつ、仲のよい橋守りのおじちゃんや、酒場の兄ちゃんの好物を取りそろえはじめたのである。それは全て、交渉を行うための下準備だった。


(場所は、ひとまず橋守りのおっちゃんに頼んで、橋桁の下のスペースを譲ってもらって……ほんとは歌劇場があった方がいいけど、まあ仕方ねえだろ。で、ストーリーは適当に考えて、楽曲は仲良しの弾き語りの兄ちゃんに作ってもらう、と。交渉はこれからごりごり行うとして――問題は、歌詞だ)


 成功する歌劇の条件とは、レオが思うにたったふたつ。

 存在感のある歌姫と、真似して口ずさみたくなる歌である。


(まあ歌姫は、「やたら派手な女の子たち」の誰かにやってもらうとして、するとやっぱ、あとは歌詞だよな。歌詞をベースに、曲が起こされるわけだし)


 酔いまかせで見る観客からすれば、複雑な話の筋など二の次、三の次。耳に残る歌こそが重要だ。

 できれば、つい歌ってしまいたくなるものがよい。それが人口に膾炙(かいしゃ)すれば、歌劇団の存在は一気に広まるわけだから。


 幸い、レオは言語にはわりと自信がある。特に金を讃える美辞麗句であれば、湯水のごとく湧いてくるのだ。

 ならばいっそ、歌詞は自分で作ってしまえと考えたわけだった。


 金が主人公の歌劇など、レオ自身聞いたこともなかったが、なに、この世に金のことが嫌いな人間などいない。金貨を主人公に仕立て上げたなら、きっと、斬新でありながらも、誰からも愛される演目ができあがることだろう。


 レオは先程の詩で、空を見上げていたら金貨が落ちてきたという、夢のような登場シーンを描いたつもりだった。

 ちょっと気取って、金貨の輝きを「光」とか「黄金のしずく」と表現したのがポイントだ。


(まずは歌詞を仕立てて、それを元に主題曲を起こしてもらって、それをサンプル代わりに、あぶれている子どもたちを誘い込んで、かつ同時に貴族連中に寄付を募って――ふはは、超たのしー!)


 やはりビジネスというのは、ベンチャーされる瞬間が一番楽しい。

 レオがへらへらと相好を崩していると、それを見ていたカイがそっと声を掛けてきた。


「レオノーラ様、とても楽しそうでいらっしゃいますね」

「はい。もちろん。うきうき、わくわくです!」


 元気いっぱいに頷くと、カイは目を細めて相槌を打った。


「そんなにお会いになるのを楽しみにしてくださるなら、大奥様もさぞ喜ばれることでしょう」

「え? ああ」


 カイには、今の自分が「祖母に会えるのを楽しみにしている孫娘」と見えているらしいことを悟り、レオは曖昧に頷いた。

 もちろん、お小遣いをくれる優しいエミーリアに会いに行くのは楽しみだったが、大変恐縮ながら、自分は金儲けのことしか考えていなかったから。


(いけね。また金のこと考えてら。今日はエミーリア様の誕生祝いだってのに)


 レオは内心で自分のことを戒め、思考を金儲けから意識的に切り替えた。


 そう、なぜ彼らが屋敷向けの馬車に乗っているかと言えば、それは、本日誕生日を迎えるエミーリアを祝うためだったのである。


 クラウディアが「死亡」してから、ハーケンベルグ家ではほとんどの祝い事を行うのを避けていたが、このたびレオノーラも見つかったことだし、またちょうど安息日にも当たるので、エミーリアの誕生日を祝わないかとアデイラから手紙が来たのである。

 しかも、馬車やドレスまで彼女が「よければどうぞ」と手配してくれた。

 その細やかな気遣いを思い出して、レオはしみじみと呟いた。


「アデイラ様、とても、優しい方、なのですね」


 クラウディアの残りかすと言われる長男ディートリヒ。

 その妻とはどんな人物かと思えば、まさかタダ馬車やタダドレスをくれる、太っ腹な婦人だったとは。


(屋敷にいた時は、豚みたいな人って噂を聞いたけど、それは太っ腹ってことを言いたかったのかもな)


 そんなふうに納得しながら、会うのが楽しみだと告げると、しかし向かいに座っていたカイは(まなじり)を吊り上げた。


「なにを仰るのです! レオノーラ様相手に、あのような嫌がらせをするなど……! それに、会の開始時間まで偽るなんて、普通の神経の持ち主なら考えられないような所業です」


 カイがそう言うのは、アデイラが寄越してきた「贈り物」が、大層みすぼらしいものだったからであった。


 ドレスという名で送られてきたのは、貫頭衣とでも表した方がよいのではないかというほどの、ごわごわした布の古着。

 肘や膝は擦り切れ、どれだけ着倒したらそうなるのかというほど全体的に毛羽立っていた。


 馬車にしたって、今朝手配されてきたのは、一体どこから持ってきたのかというような、幌に穴が開き、シートも破れたひどい代物だったのだ。


 もちろんドレスは、カイが念のためと用意していたもので代え、馬車については、アデイラの企みに乗った御者を一喝したうえで、学院に掛け合い、上等な代車を手配してもらった。

 そしてその時に、縮こまった御者から、実は会の開始時間が、聞かされていたものよりも一時間早いということを告白されたのである。


「御者が良心の呵責に耐えかねて早くやってきたり、それ以上に、レオノーラ様が事態を見越して一時間早く支度なさっていたからよかったものの……レオノーラ様を遅刻者に仕立て上げようというアデイラ様の企みが透けて見えるようです」


 危うく主人に恥をかかせるところだったカイは、不甲斐なさも手伝って怒り心頭だった。

 が、少女は、


「まあ、まあ」


 と穏やかに宥めてくる。ほんのちょっとだけ下がった眉は、怒っているというよりは、苛立ちを隠せないでいる従者に困惑しているかのようだった。


「そんなこと、言わない。教えられた時間より、早く行く、当然のことです。それに、どんなものであれ、ドレス、馬車、手配してくださった。ありがたい、こと、ちがいますか?」

「レオノーラ様……」


 なぜか言葉を詰まらせてこちらを見てくるカイに、レオははてと首を傾げた。


(いやだって、ビジネスマナーの内だろ? 九時始業だけど、八時には来いよ、みたいな。そんなことより、うまいタダ飯の出る誕生会に呼んでくれて、しかも路銀も服も用意してくれるなんて、ありがてえ話じゃねえか)


 それに、アデイラが贈ってくれた服は、エミーリアがよく贈ってくるフリフリひらひらしたドレスとは異なり、布地も頑丈で、かつ肘や膝は程良くくたびれ、大層動きやすそうだった。毛羽立ちなんてノープロブレムだ。

 色合いも薄汚い茶色で、銅貨やめぼしいお宝が落ちてないかとしょっちゅう跪き這いずりまわっているレオにとっては、理想的な作業服である。女性性が欠片も感じられないデザインも、実によい。


 どうやらアデイラという人物は、よくよく庶民心を見通しているものと思われた。


「私、汚いですから。いつ、跪く、這う、してもいいようにと、アデイラ様、考えたのでしょう。あのドレス、私に、ぴったりです」


 どちらかといえば、進んで部屋着に使いたいくらいのレオであった。


 ついでに言えば、孤児院に転送していたドレスも、「もうこれ以上は」とやんわり断られてしまい、ちょうど衣服の処遇に困っていたのである。

 だからこの際、エミーリアにもこれからは古着を贈ってもらうように……と続けようとしたレオだったが、


「レオノーラ様!」


 ばっと身を乗り出したカイに手を取られ、遮られた。


「そんなこと、仰らないでください! レオノーラ様が(けが)れていることなど、どうしてありましょう!」

「わ」


 顔を真っ赤にした従者に至近距離まで詰め寄られ、レオは顎を引いた。


「いえ、だって、本当のこと――」

「レオノーラ様……っ!」


 カイのアーモンド形の目が潤む。彼は、あくまで自分自身を卑下しようとする少女に、涙を禁じ得なかった。


(不当な嫌がらせを受けても、それを当然のことのように捉えてしまうだなんて……。侯爵閣下夫妻に、皇子殿下、皇女殿下――多くの人々に愛情を注がれてなお、レオノーラ様は自分が「罪の子」だという意識を捨てられずにいるんだ……!)


 いつも泰然とし、虐待などなかったかのように振舞う主人。

 だが、本当は、その心の傷はこんなにも根深いのだ。


「なんて、おいたわしい……っ!」


 肩を震わせる従者を、レオは困惑して見つめた。


(え、ちょ、なんでいきなり泣くよ!?)


 相変わらず、貴族連中というのは急に感情を昂ぶらせるから困ってしまう。

 女性と年下の涙に弱いレオは、不器用にカイを慰めつつ、


(なんか……アデイラ様や、ディートリヒ様は、もうちょい真っ当な人だといいな……)


 遠い目でそんなことを思った。

閑話のくせに、なんと6話も続きます(恐縮です…)。

連日20時くらいの投稿を目指します。

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無欲の聖女4
― 新着の感想 ―
[一言] レオP、よく見ておくんですよ、貴族が感極まるポイントを
[良い点] 「九時始業、けど、八時に来ては、マナーちがう。ブラック、です」 と私の中のレオノーラが申しておりました。 [一言] とても楽しく、ガンガン読ませて頂いております。
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