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課題 月 制限650文字

作者: 射干 玉

 ーー中秋の名月。こういう日くらいは外に出なければ、体はもちろん心も荒んでしまう。いくら物書きのさがとはいえ、机上で頭を抱えるばかりでは作品までもが息苦しくなってしまうのだ。


 だから僕は今晩彼女を月見へ誘い、ちょうど今しがた二人きりの夜道を歩いている。

 僕とは、それこそ月とすっぽんのように性格の異なる彼女だったが、だからこそ僕は彼女に惹かれ、いつの間にか恋慕していた。

 向こうがそれに気付いているかは定かではない。隙を見てはこうしてけしかけているのだが、度胸が足らずいつも宙ぶらりんなままなのだ。

 だが今夜こそはこの胸の内を明かそうと、家を出る前から決めてある。


 そのまま当たり障りのない会話を交わしながらしばらく歩くと、目当ての場所に到着した。

 垂れたすすきの穂が茂る、人知れず潜む小さな池。そこへ掛けられた頼りない橋の上で、僕らは並んで夜空を見上げる。

 辺りに遮る雲はなく、煌々と笑う月は真っ黒い空へ鋲で打ち付けられたような存在感を放っていた。


 ちらりと横目をやると、彼女は月に見惚れ呼吸さえも忘れているようでーーだが今度はその美しい横顔に、僕が目を奪われる番だった。

 たなびく薄の穂と白い月光が、彼女という存在をこの夜の女神に仕立て上げているのだ。


 ーー告げるなら、今しかない。


 口を開こうとした僕だったが、ついに視線に気付いた彼女がこちらへ振り向く。

 そして僕が今まさに言い出そうしたセリフを、少し火照った顔で、彼女は言うのだ。


「今夜は……月が綺麗ですね」


 その晩、僕らは恋仲となった。

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