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めぐりあい  作者: 神楽 時子
1/5

嫉妬

なんてこと!

美月に、先を越されてしまったわ…orz

金色の看板に、紅白の暖簾が目印の

『彩華堂』自慢じゃないけど、この百貨店のお菓子売場の中で、常に売り上げ一位を誇る、超高級和菓子店。

ショーケースの下には砂利も敷かれているし、苔むした大小の石が、等間隔に配置されている様は、「上品」の一言に尽きるわね。


指紋のついたケースを磨きあげて、私は着物の前掛けを締め直した。

さて、ちゃちゃっと商品を並べなければ。空になった単品の棚に、春のお菓子を補充していると、後ろから肩を叩かれた。


「相変わらず忙しそうだねぇ、季、美月の柔らかな笑顔。いつもなら

そ織」

振り返った先にうなの、さっきまでお客様の嵐が吹き荒れててね。うちの商品を、これでもかってほどさらっていったのよ。後で売り上げ見るのが楽しみだわ。

なんて微笑むのが常なのに


「……誰?」

今日に限っては、これだけ言うのが精一杯だった。接客の基本用語さえ忘れるほどの、衝撃の予感。

「あ。あのね、彼氏の朝倉啓吾さん」

予期せぬ沈黙に、ただならぬものを感じたらしい。美月が慌てた様子で、腕を組み傍らに立つ男を紹介した。


か、彼氏ですってー!!


超高級和菓子店で働く熱きプライドが、瞬間冷凍された。

彼氏いない歴27年。埃をかぶった履歴に

『友に先を越された』という新たな装飾が加わる。


「あ、そうなの……よかったじゃない美月。素敵な彼ができて、おめでとう」

激しく波打つ動揺を隠して、心からの祝福に見える微笑を顔に貼り付けた。

で挟んでみた。

「うわ!綺麗。試食も美味しかったし、買っちゃおうかなぁ」


ほほほ!釣り針に引っ掛かったわね。春の景色を閉じ込めたような箱詰めに、うっとりしている美月を現実に引き戻すべく

「毎度ご贔屓にして頂いて、ありがとうございます~」

と、電卓を提示してやった。3千円を軽く超えた金額に、美月の笑顔が凍りつく。

さあ、私の傷ついたプライドを、お金で返してもらえないかしら。ザマをみなさい、バカ美月。嫉妬の渦に溺れそうになっていると

「じゃあこれで、お願いします」

と、朝倉さんがクレジットカードを寄越した。

レジで精算しながら、心に忍び込んでくる敗北の旋律。

意地悪をしたつもりなのに、かえって二人の仲を深める手伝いをしただけなんじゃないの?


素直に喜ぶ美月を、満足そうに見つめる朝倉さんの眼差しに、胸が苦しくなった。


「ありがとう。また買いに来てね」

二人を見送りながら、私は自分の愚かさに心が冷えきっていくのを感じた。


羨ましい……。


美月のスカートが愉しげに揺れるのを見て、私は視界が滲みそうになるのを必死で堪えた。



へこたれるな季織!

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