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驚きの出会い

 

 天音命が栞の家に来て……というか栞に背後霊の様な存在になって約二週間。

 既に天音命が居る事がそれほど違和感が無くなった栞は、当たり前の様に天音命を伴って一守市の都市部に足を運んでいた。

 九月も終盤と言うこともあり、今日の彼女は白いワンピースにおろして間もないジーンズを合わせている。

その足は学生服の時とは違うローファー。房飾りが特徴的なタッセルローファーに包まれていた。余談だが、栞は私服ではほとんどスカートを履かない。別段スカートが苦手というわけではない。ただ移動手段のほとんどを自転車に依存しているため、スカートが捲れるのを気にしているうちになんとなく、パンツルックがデフォルトになっただけだ。



「栞!栞!」

『なんですか天音命様。人が多いから喋りませんからね』

「そんなのどうでも良いから、見て見て!」


 やたらと興奮した様子の天音命の視線の先は大型のテレビにくぎ付けになっている。きらきらと瞳を無駄に輝かせるその様は、まるで子供だ。神々しい容姿に神聖な巫女服を着てテレビを注視しているその姿は、神様らしさなど皆無だが、栞からすれば今更だ。

 なにせこの土地神様ときたら、神の無駄な力で栞と同じ制服を着てみたり、学校では生徒の間で広まっている噂話に聞き耳を立てたり行動の八割以上が神とはかけ離れた俗っぽい行動をとるのだ。

 多少あれな行動をしたからと言って、もう栞には驚くに値しない。


「このテレビ、中の物が出てくる!」


 天音命が驚いていたのは3Dテレビだった。


『そういうテレビなんですよ。原理は知りませんけど』

「ふぅん。へぇ……栞の家もこのテレビにしなよ」

『買えませんよ。そんな高いテレビ』


 いちいち真面目に相手していては時間が幾らあっても足りはしない。神パワーの応用らしいテレパシー擬きで返事はするものの栞は目的地に向かって歩いて行く。

栞の目的地は花屋。

母である直子の影響で栞は土いじりを趣味としていた。直子は植生とか色々と拘るが栞は精々季節の花を植える程度だが、一年中なんらかの植物を育ててはいた。

 今日は秋口に蒔く種を探しに来たのだ。庭にはまだコスモスが全盛を誇っているが、それ以外の花は今のところ育ててはいない。


(この時期だとナデシコ、ポピー他に何かあったかしら)


 つらつらと秋口の種蒔きに適した花を思い浮かべる。だが、その思い浮かべた花は秋口に種蒔きをする花としては代表的なものばかり、そうなると。


(お母さんとかぶっちゃいそう)


 別に二人の間で同じ花を育てていけないといったルールは無い。なのでこのまま思い付いた種を買ってもいいのだが、流石に夏はヒマワリ、秋はコスモスとここのところ被ってしまった為、たまには庭を違った花で彩りたいと栞は考えていた。


「ん……花壇か」


 ふと、栞の視界に花壇が入る。花壇には栞の家の花壇と同様に幾つものコスモスが己を見てくれと言わんばかりに咲き誇っている。


(春にはサルビアだけ咲いてたな。……何種類か育ててればいいのに勿体無い。まぁ種類が少ない方が手入れは少なくて済むけどね)


 一つの花で彩れた花壇はそれはそれで美しいが、色々な花を見たい栞からすれば大通り沿いの花壇にずらりと並ぶコスモスは物足りなさを感じずにはいられなかった。

 花壇の世話をする市役所の職員もここの花だけを育てるわけにはいかない。それに花の種類を増やせば、それだけ手入れも煩雑になる。何も考えずにコスモスやサルビアだけと一種の花しか植えていない訳ではない。


(ヒマワリ畑みたいに突き抜ければ、綺麗なんだけどね)


 脳内でどこぞの二百万本のヒマワリ畑や、ラベンダー畑、はては水蓮まで思い浮かべ栞は一人、思いを馳せていた。





 鈴虫達がにわかに騒ぎ出す頃、栞は鼻歌交じりに自転車を漕いでいた。


「ブルーサルビアなら被らないでしょ」


 自転車が揺れるのに合わせて栞が漕ぐ自転車の籠のビニールがかさりと揺れる。袋の隙間からは青色が美しい花がその姿を覗かせている。

 ブルーサルビア。シソ科、アサギリ属に属するその名の通り青色の花を咲かせる多年草。赤色の花を咲かせるサルビアとは親戚位に近い花である。ラベンダーに似たその色合いと、初心者でも育てやすいこと、長く花を咲かせることから高い人気を誇っている。


「種からじゃないけど良いよね」


 時折、風に乗って香る花の香りに栞は嬉しそうに目を細めた。


「そういえば天音命様どこに行ったんだろ?」


 ざっと周囲を見渡すも今現在、栞の近くに天音命の姿は無い。市内から電車に乗った時は居たのだが、ふと居眠りをしている間に、天音命はその姿を忽然と消していた。

 いよいよ、栞の周りをうろつく事に飽きた。という訳では無い。別に天音命は四六時中、栞に付きまとっている訳ではない。学校で言うと体育と国語はあまり興味が無いのか、この二つの授業は何処かに行っていることが多い。


「まぁすぐに戻って来るでしょ」


 好奇心が惹かれる事でもあったのだろうと、栞は家までのラストスパートとばかりに立ち漕ぎで自転車を漕ぎ始めた。

 後になって栞は思ったという。この時、天音命と一緒に家に帰らなくて本当に良かったと、そうなれば只でさえ巻き込まれるこれから面倒事が、これ以上ない位程の面倒事になってしまっていたのだから。








「ん?家の前に知らない車が止まってる。なんだろ?お客さんかな」


 家の真ん前に止まっている車に栞は首を傾げた。


「お母さんか、お父さんの知り合いかな」


 ピンポーンといつもと寸分違わぬチャイムの音を鳴らし、栞は玄関が開くのを待つ。

 いつもなら「はーい」と母、直子がパタパタとスリッパを鳴らして玄関を開けるか、もしくは弟妹達が賑やかに迎えてくれるところなのだが、今日はどうも勝手が違った。


「栞!やっと帰ってきてくれた。もう何度もメールしたのに気付かなかったの?」

「うわっお母さんどうしたの?」


 直子は栞に靴を履く暇も与えずに、かつてない勢いで栞を出迎える。いつもとは違う只ならぬ様子に栞は思わず後ずさる。ちなみに栞が母のメールに気付かなかったのは、ただ単にバッグに携帯を放り込んでいたからだ。


「お、おお、お客様がいらしてるのよ」

「お客様?」


 一向に落ち着く様子が無い直子を尻目に栞は靴を履きかえる。その最中でも頭の中は疑問で一杯だ。客が来ていることは分かるが、何故そんなに慌てているのかが謎だ。栞の父の客の可能性もあるが父は今日は夜勤だ。わざわざ待たせる道理は無い。


(えーと私に用事があるお客様ってこと?でも慌てる理由にはならないよね……う、なんだかすっごいやな予感がする)


 あわあわと要領を得ない直子の言葉を待つより、直にその目で客を見た方が良いと判断した栞は、直子に落ち着いてと言いながら、廊下を歩く。だが、その途中で突然、すらりとしたうなじから背中にかけてかつてない悪寒が走る。


(……なんだろう。悪いものではないけど、すっごい面倒事が待っていそうなんだけど)





「おかえりなさい。栞様」

「……え?」


 リビングに入るなり鈴の様な声で栞は出迎えられた。

 ぎょっとして視線を声のする方に向けると、リビングには濡れ烏のごとく艶やかな髪を腰まで伸ばした純和風の美少女が椅子に座っている。

 栞は驚きの声を上げるが、そこから声を紡ぐことが出来なかった。

 少女の美しさに声を失った……というわけではない。その少女が何故、ここにいるのか理解に及ばなかったからだ。

 僅かに口角を上げ微笑んでいるこの少女を栞は知っていた。一方的ではあるが知っていた。


「か、奏莉(かなり)様」


 少女の名は神代奏莉。神代本家の次期当主にして、神籬(かみがき)神社の巫女。

 やけに乾いた舌から零れるように栞はその名を呟いた。




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