CASEⅠ:月光草の捜索 接触編
繁華街を抜けて、怪しい雰囲気が漂う通りに足を踏み入れる五人。
しかし幸か不幸か、上下ジャージ姿だからなのか、声をかけてくる者は多くはなかった。
「……なあ」
「なによ」
「この恰好恥ずかしくないか?」
きっちりとスーツを着こなしている客引きが失笑しているのを見て、大斗は羞恥心を覚えた。
「相手を油断させるには一役買ってるんじゃない?」
大斗を一瞥して勇音は、自分は全く気にしていないという風に言った。
「むしろ色物扱いされてるような?」
「パジャマでコンビニに行くようなもんよ」
それはちょっと違うのではないだろうか。
話の矛先を変える。
「その点、重玄はいいよな。なんかスポーツウェアみたいな自然な感じで」
「深夜のゲーセンに屯ってる不良みたいな恰好してるヤツには敵わないけどな」
「……それは俺が社会に絶望したような顔してるからかな?」
自覚は、あるような無いような。
「要するに、とても似合っているって言いたかっただけなんだが」
皮肉ではなく、思ったままを述べる重玄。
何を言っても爽やか補正がかかる重玄の性格は、正直、少し羨ましい。
「ぶっちゃけ、あんまり嬉しくな──」
「静かに!」
勇音が出来うるかぎり声を殺し、四人に忠告する。
「前方にいる三人組が持ってるもの、見える? 私の目が間違ってなければ、あれは恐らく……覚せい剤だわ」
ずいぶん手前なので注意深く目を凝らさないと見えないが、確かにそれらしき人物が見て取れた。
いよいよ犯罪の匂いが濃いものになる。
「接触時の対応は覚えてるでしょうね?」
当然とばかりに、柊子が二秒と間を空けずに答える。
「私たちは覚せい剤に興味津々の高校生。基本的に無知な設定、ですね」
勇音が小さく頷いた。
「そう。それから──狂い月。それが、月光草を使った高級麻薬の名前よ」
「さしずめキーワードってところだな……にしてもお前、よく知ってたなそんな名前」
「グーグルって便利よね」
「それは認める」
こんな場面でも相変わらず緊張感というものがない五人は、間もなくブローカーと思しき三人と接触を開始した。
「あのー…」
「ん? 学生さん?」
勇音の控えめな態度の声掛けに、ブローカーの一人が反応する。
「興味ある感じ?」
「は、はい、あるんですけど…まだちょっと決心がつかなくて……」
普段からこのくらい大人しければいいのだが。
「そっかそっか。そしたら俺らのクラブおいでよ! 学生でやってるもヤツいっぱいいるからさ」
と言ってブローカーは、注射器を腕に刺すジェスチャーをした。
「ほんとですか! ぜひ行ってみたいんですけど、あの……」
ぐいぐい食いつかずに適度な距離を取りながら、勇音が切り出す。
「狂い月っていうのが一番いいって聞いたんですけど…」
「なんだ、結構知ってるんだ?」
男の瞳の奥が怪しげに光る。
「いえ、これしか聞いたことはないんですけど…」
「やっぱ来なよ、クラブ。友達も一緒に。……他にも色々あるから、さ」
獲物を狙う狩人の目を隠すことなく、男が立ち上がる。
「最初は不安かもしんないけど、じきに慣れるよ♪」
男がにっこりと笑う。
しかしその捕食者の目は、全く笑っていなかった。
~編って区切ると、文量に悩まされますね;
…頑張ります!