CASEⅠ:月光草の捜索 捜索編
ほんとに不定期でごめんなさいm(__)m
──午後八時。
既に閉じられて人気のない夢壱岐高等学校。
その正門前に集まったのは、言うまでもない、桜庭諜報部の五人だった。
「よしよし、みんな集合時間ピッタリね」
皆を見て満足そうに頷く私服の勇音。
野草の捜索ということで、大斗も含めた五人は非常にラフな格好をしている。
「んで、生息場所はどこなんだ?」
「そのことなんだけど、わかんないらしいのよね」
「「「「え?」」」」
勇音のあまりにも潔い開き直りに、他の四人がハウリングした。
「だいたい月光草って、かなり希少価値が高くて、それゆえに高価らしいの。どこかに生息しているのは確かなんだけど、一般人の私たちに開示できる情報レベルを超えてる、って先生は言ってたわ」
「要するにあれですか、本末転倒ですか」
「そんな皆さんに朗報です!」
大斗の発言は完全に無視して、勇音の驚くべき提案が始まる。
「少し調べてみたんだけど、月光草って使い方を間違えば麻薬にもなるらしいの。それも副作用一切無し。その手の業界じゃ有名らしいけれど」
「……なあ、一つ訊いていいか?」
論点の飛躍を感じて口をはさむ大斗。
なんとなく、本能的に嫌な予感を察知した上での、至極当然な質問。
「もしかして、正規での入手は諦めておられる感じですかね?」
「心外ね、ちゃんとブローカーから手に入れるんだから、正規じゃないかしら?」
ブローカーってなんだ、ブローカーって。
「ちょっと待ってくれ。捜索に協力するとは言ったが、犯罪の片棒を担ぐような真似は絶対しないからな俺は」
不穏な単語に重玄がいち早く反応する。
「それに俺たちは学生なんだぞ? 相手にされるはずがない」
「甘いわね。この世はお金で回ってるんだから、積むもの積めば相手だって納得せざるを得ないわよ」
「お前そんなダーティーなキャラだっけ……痛っ」
ぼそっとツッコむ大斗のつま先を、勇音がかかとで踏んで黙らせた。
「とにかく! なりふり構ってられないってことよ。で、重玄はどうするの? 協力してくれる? それとも見殺しにする?」
もはや誘導尋問ではなく、脅迫の域に達している勇音の話術。決して押し付けないところがイヤラシイ。
勇音は交渉よりも、相手を丸め込むことに長けていた。
「……わかったよ」
渋々、といった様子で首を縦に振った重玄。
そもそも規律と人命を天秤にかける方が間違っているのだが。
「決まり! じゃあ早速これからの流れを説明するわね」
ぽん、と手を合わせて微笑む勇音。
勇音が何を考えているのかわからなくなってきた四人は、全ての指揮を勇音に任せることにした。
のだが。
「まずブローカーのアジトに乗り込んで……」
「勇音さん!?」
のっけからぶっ飛んだ提案をする勇音に、たまらず大斗が一時中断させる。
「なによ大声出して。近所迷惑考えなさいよ」
「いや、だって! アジトに乗り込むって! 正気の沙汰じゃありませんぜ、旦那!」
「大斗さんも落ち着いて。……語尾が江戸っ子みたいになってますよ」
一人で焦る大斗を、桜庭諜報部『書記』の神奈が冷静に宥める。
「我らが部長ともあろうお方が、なんの考えもなしにそんなことを言うと思ってるんですか?」
「神奈、ごめん。とりあえず乗り込んで奪取することしか頭になかったかも」
「ほら見ろ言わんこっちゃねえ!」
「あはは」
「笑いごと!?」
「だって、可笑しくて…」
突然笑い出したのは、桜庭諜報部『会計』の柊子だ。
「勇音ちゃんって、次の行動が読めなくって……見てるだけで面白いです」
そう言ってひとしきり笑った後、柊子は、ふと丸眼鏡を掛け直して表情を引き締める。
「さて…どうします? こうしている間にも、刻一刻と先生の奥さんの病状が悪化していってますけど」
「そうね、一重にブローカーって言っても、そうそう見つかるような人じゃないし…」
「意外と街中にいるんじゃねえか?」
「繁華街とかか?」
「路地裏とかにいるイメージがありますね」
「んー、私が思うに──」
柊子の『完全解析』が本領を発揮する。
「絶対、水商売のお店の近くだと思います」
「水商売? なんでまた?」
意外な予想に、勇音が訊ねた。
「だってそこなら、いくら客引きしても怪しまれませんし。それに本来、月光草は媚薬としての効能もありますから」
「へー、詳しいんだな」
「付け焼刃ですよ」
大斗の賛辞に、謙虚に笑う柊子。
「そういうことだし、いっちょ行ってみるか」
「なんであんたが仕切ってんのよっ」
「なんでって、そういう雰囲気……痛っ」
「さー行くわよ!」
再びつま先を踏まれて、苦痛に顔をゆがめる大斗。
そんな大斗はお構いなしに勇音が歩き始めた。
「あ。結局アジトに乗り込んだ後のことは話し合ってないけど……まあ、なんとかなるわよね!」
そんな、日和見な考えのままで。
そろそろ名前のルビ外そうかな…
と思っている今日この頃。