嫌になってきました
「里中!お前すごいクマだぞ!!」
私の隣の席の里中寛治が大声を張り上げた。
止めて、皆の視線が痛い。野球部のキャッチャーである彼の声は教室中に響き渡る。
「うっさいわね。ほっといて。」
私は苦虫を噛み潰したみたいな顔をして、丸刈り頭に悪態をついた。
里中は一瞬ぎょっと目を見開いたかと思うと、機嫌わりぃなと呟きながら席を立った。
だってしょうがないじゃない。
まさか自分の初めての彼氏がオカマで、しかも意中の相手は私のクラスメイトときた。
そんな衝撃的事実を聞かされたら、誰だって・・・
結局午後の授業を全部蹴って話し合った結果、私と彼は『お付き合い』を続行することにした。といっても二人の間にはもう以前のような甘い空気はない。
あくまで表面上の『お付き合い』だ。
彼にとって私は協力者
私にとって彼は
いやいやいや
面白そうなだけだから
ほら、あたし捨て猫とかそういう生存本能乏しいの見るとほっとけないたちだし
別にふっきれてないわけじゃなくてね
このままじゃ女のプライドが許さないからね
私はこの意味不明な無限ループを強制終了して、昨日何度もシュミレーションした作戦を頭で思い返すことに決めた。
その名も『え、ちょまじでー、俺達似た者同士じゃん?作戦』。我ながら笑える
成功するわけねぇ
取り合えず江藤くんから趣味でも音楽でもこのさい女のことでもなんでもいいから情報掴み取ってこよう。
私は『二つ前の斜め向かいの席』付近に目を向ける。
人よーし
江藤よーし
野球部よーし
確認すると同時に私は足早に、でも音を立てないよう静かに、彼の元へ歩いた。
念入りの確認と自意識過剰なほどの注意によって、私は周りには気付かれずに江藤くんの右サイドを確保することが出来た。
江藤くんは宿題の数学プリントを必死の形相で解いている。
こうなるのも無理はない。私の数学の先生は恐い。しかし男子限定で。
あのカミングアウト野郎と同じ部類だ。そう考えるとあたしの周り多いな、おい。
・・・もうお前らで付き合っちゃえよ。
いや、ない。絵的にない。
ありえない。
とっととはやいことこいつらくっつけよう。
「江藤くん、私のプリント見せたげよーか?」
私はとりあえず恩を売ることにした。
ーわぁ、いい笑顔。
「うわー!助かる!!・・えっと、えーたか「大橋ねっ!!!」
こいつ絞めてやろうか。
私は彼にプリントを渡して、休み時間中にありとあらゆる情報を聞き出した。
「 ーってことでこれが江藤くんのプロフィール。」
「あんたやばいわねっ!!」
私は思わず後ずさりをした。
だってカマ口調なんて慣れようにも簡単に慣れれるもんじゃない。
つかお前キャラ変わってるよ。
皐月はいそいそと私お手製の江藤レポートを開いた。
しばらく真剣に見ていたかと思うと、彼の顔がにやける。
きもいと思った。
「へぇー!!江藤くんチャップ好きなんだー!!
うわぁ苺ショートが大好物!?なにそれ、か〜わ〜い〜いぃ〜!」
きもいと思った。
「えぇ〜!江藤くん、好きなタイプは清楚な子だってぇ!!どうかな〜柚「しね。」
私はその後小一時間余り、一人で盛り上がる渚をおいて空を見た。
きれいな青空だった。




