武力行使(おもてなし)が止まらない!~三百年戦争をしていたはずが、いつしかホワイト国家になっていた件~
世界はいつだって極悪非道だ。
強き者が全てを奪い、弱き者は消え去る。それがこの世の理であり、絶対の秩序であった。
「どうぞ我が国を占領してください」
「いえいえ。我が国こそ貴国の属国に加えていただきたい」
とある隣接する二つの大国。軍事力においては世界の一、二を争うこの両国は、驚くべきことに三百年もの間、凄惨な戦争状態にあった。
始まりは些細な部族間の争いだった。荒れ果てた大地で生き残るため、彼らは命を、食料を、領地を奪い合い、互いの文明を徹底的に破壊し続けてきたのだ。
そんな血塗られた歴史が、一人の男のひと言で一変した。
『あんたは、最強の男だぜ』
殺された仲間は数知れず。血で血を洗う白兵戦の最中。
今まさに止めを刺されようとしていた男は、敵の武勇に心奪われ、思わず相手を褒めちぎったのである。
『俺たちの誰よりも気高く、気品に溢れ、腕力は随一。この世界の頂点に立つために生まれた、まさに戦のいとし子だッ!』
それは無様な命乞いだったのかもしれない。あるいは、極限状態が生んだ狂気だったか。しかし、研鑽し続けてきた強者故に、確かな敬服が彼には宿っていた。
自分を負かした男の強さに惚れた。ただ傍にいたい。その背を見ていたい。
裏切りにも似た純粋な情熱が、戦場を貫いたのだ。
相対して、勝利した男は困惑していた。この状況でこのような言葉を口にする敵。嘘、虚偽、讒言。
訝しむ、怪しんだ。だが浴びせられた言葉に宿る真摯な敬意と眼差しに、少なからず多幸感を抱いた。
『……貴様の戦技も……天晴であったぞっ』
『あんたの強さは別次元だッ! 俺とは比べるべくもないッ!』
『なんのなんの——』
『そんなそんな——』
称賛の応酬が止まらなかった。
褒められれば褒め返す、譲ればさらに大きく応えてくれる、そんなとめどない賛歌。
始まりは些細なきっかけだった。だがそれはやがて、「返礼」という名の国家戦略へと発展していった。
「この新型武装の設計図を、友好の印として贈呈しよう」
「これは痛み入る。代わりに、品種改良を重ねた永久欠食のない麦の権利を差し上げよう」
「いや、それでは割に合わん。我が国の領地の三割を貴国へ!」
「なんのこれしき! ならば全鉱山の輸出を永久に半値にしよう!」
相手をねじ伏せる武力を競うのではなく、相手に礼を尽くすための国力を競い合う。
真心と気配りを弾薬とした、優しき「譲り合い戦争」。
片方が渡すものを使い果たした時、勝利(お返し)の機会を求めて、必死に新たな技術開発にいそしむ。感謝の「ありがとう」を告げ、申し訳なさそうに会合の場を後にすると、さらなる「お返し」を考案するために国力を注ぐのだ。
血で血を洗う戦争が、いつしか礼で礼を返す交換会へと変貌した様は、いささか和やかであった。
だが、周辺諸国にとっては、これほど恐ろしい事態はない。
「そのまま、ずっとお前らだけでやっててくれぇ……」
そう震えながら、彼らは二大国の爆発的な発展に置いていかれぬよう、必死に自国の防衛力を整えるばかりであった。




