精度
三週間が経った。
鍛錬所の訓練は段階制になっている。教官が各生徒の業の出力と精度を随時評価して、基準を超えたら次の課題に進む。進むペースは生徒によってまちまちで、入学から一ヶ月以内に第二段階に進む生徒は全体の三割程度だと聞いた。
俺は今日、第二段階に進んだ。
教官から告げられたとき、特に感慨はなかった。やるべきことをやった結果がそうなっただけだ。ただ、護はすでに第三段階にいると聞いて、少し笑った。やはりまだ遠い。
第二段階の訓練場は別の棟にあった。
扉を開けると、最初に気づいたのは広さだ。第一訓練場の倍はある。天井も高い。そして床に虫はいなかった。
代わりに、人が立っていた。
防具を着けた人間が五人、訓練場の中央に等間隔で並んでいる。教官が言った。
「第二段階からは対人訓練が加わる。相手は上級生だ。業を当てることが目的ではない。相手が動けなくなるか、降参するか、あるいはお前が倒れるかで終わる」
俺は防具を渡された。
着けながら、相手の上級生を観察した。五人とも体格がいい。業の系統は見ただけでは分からないが、立ち方に無駄がない。第一段階の生徒とは明らかに違う。
「始め」
最初の相手が動いた。
地面が盛り上がった。土の隆起が俺に向かって走ってくる。土操作系の業だ。俺は横に跳んで避けた。熱を手に集めて放つ。相手が腕で防ぐ。防具が焦げた。
続けて炎を出した。今度は広く、低く。相手の足元を狙う。
上級生が後退した。足元に炎が広がるのを嫌がった。そこに追い打ちをかけた。胸に当てた炎は出力を抑えた。防具を焦がす程度。それで十分だった。
「降参」
上級生が手を上げた。
教官が何か書き留めた。俺は次の相手を見た。
二戦目は苦戦した。相手の業が加速系で、動きが速い。炎を出す前に間合いを詰められて、近距離での打ち合いになった。距離が近いと炎の制御が難しい。広げれば自分にも当たる。絞れば威力が落ちる。
結局、相手の速度に対応しきれずに押し負けた。
「そこまで」
教官の声で終わった。俺は床に手をついて息を整えた。
「炎は中距離以上で真価を発揮する系統だ。接近を許すな。距離の管理を意識しろ」
言われた通りだった。分かってはいたが、実戦で体が追いついていなかった。
三戦目は意識して距離を取った。相手が近づこうとするたびに炎で牽制した。足元、肩口、顔の横——直撃させるのではなく、動きを制限することだけを考えた。相手が嫌がって止まった瞬間に、集中した炎を一点に当てた。
「降参」
二勝一敗で午前の訓練が終わった。
昼食のとき、護が隣に座った。珍しいと思ったが、特に何も言わなかった。
「第二段階に上がったか」
護が言った。
「今日から。二勝一敗だった」
「加速系に負けたか」
俺は少し驚いた。
「見てたのか」
「たまたま通りかかった」
護は飯を食いながら続けた。
「炎は距離が命だ。接近される前に終わらせるか、牽制で距離を保つか。どちらかしかない」
「さっき教官にも同じことを言われた」
「だろうな」
それだけ言って、護は食事に戻った。
俺は自分の飯を食いながら、午前の三戦を頭の中で繰り返した。負けた場面を何度も再生して、どこで判断が遅れたかを確認した。
護が第三段階にいる理由が、少し分かった気がした。こいつは戦いを見ているとき、すでに次の手を考えている。通りかかっただけで俺の課題を把握していた。
強さというのは、業の出力だけじゃない。
当たり前のことだが、実感として入ってきたのは今日が初めてだった。
午後の訓練が始まるまで、あと三十分ある。
俺は飯を食い終えて、訓練場に戻った。一人で距離の管理を練習するために。




