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  作者: 鳥炭 梅
3/4

理由

鍛錬所の寮は消灯が早い。

 訓練で体を使い切った生徒のほとんどは、夕食が終わればすぐに眠る。俺もそうしようとしたが、目が覚めた。天井を見ていると、いろいろなことが頭の中を動き始める。

 廃都のことを、たまに思い出す。

 街の名前は覚えていない。そもそも名前があったのかどうかも分からない。ウィータのような管理都市ではなく、悪魔に街を壊された人間たちが流れ着いてできた場所だ。建物は古くて低くて、いつも埃っぽかった。食事は足りていたが余裕はなかった。

 爆破されたのは夜明け前だった。

 音で目が覚めた。次の瞬間には天井がなかった。瓦礫の中に埋まって、出られなくて、それからどうやって外に出たのか記憶がない。気づいたら立っていた。周りには誰もいなかった。燃えている街があって、手のひらに炎があった。

 怖かったのかどうか、今となってはよく分からない。

 泣いたかどうかも覚えていない。ただ、炎を見ていた。自分の手から出ている炎と、街を焼いている炎が、同じ色をしていると思った。それだけは覚えている。

 スカウトが来たのはそれから半年後だ。無管理地帯を転々としていた俺を見つけて、ウィータに連れていくと言った。業の才能がある、鍛錬所で磨けると言った。断る理由がなかった。

 ウィータに来て初めて、飯がうまいと思った。

 それくらい、廃都での生活と違った。清潔で、整っていて、人が多い。最初の一ヶ月は街を歩くたびに落ち着かなかった。今はもう慣れたが。

 俺が強くなりたい理由を、誰かに聞かれたことはあまりない。護に聞いたのは、自分でも理由が気になっていたからだ。

 正直なところ、うまく言葉にできない。

 悪魔が憎いのかと言われると、そこまで明確ではない。あの爆破で誰かを失ったという実感も、時間が経つにつれて薄くなった。残っているのは、気づいたら生きていたという事実と、手のひらの炎だけだ。

 ただ、前に進みたいとは思う。

 どこへ向かっているのかは分からない。だが止まるつもりもない。廃都で生き残った日から、ずっとそうだ。理由というより、性質に近い。

 護の「必要だから」という答えを、また思い返した。

 あれは俺の答えとは違う。護の強さには、具体的な何かが土台にある。俺には見えていないが、確実にある。だから精度が違う。だから質が違う。

 訓練の積み重ねだけではない強さというのは、そういうことだと思う。

 何かを背負って、それを燃料にして動いている。

 俺にはそれがない。あるのは炎だけだ。方向も理由も、まだ曖昧なまま燃えている。

 だが今は、それでいいとも思っている。

 目を閉じた。

 護に追いつく。それだけ決めれば今夜は十分だ。理由はあとからついてくる。まずは精度を上げる。熱の拡散を抑える。教官に指摘された部分を一つずつ潰していく。

 それだけのことだ。

 眠気がきた。

 手のひらをぼんやり見た。暗くて何も見えないが、ここに炎がある。廃都で初めて出た日と同じ炎が、まだここにある。

 それだけで、なぜか十分な気がした。

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