ナンバーワン
鍛錬所での生活が数日経った頃には、生徒たちの実力の序列がなんとなく見えてきた。
上位は固定されている。特に際立っているのが三人——風圧を操る女子生徒の柊、石を自在に操る男の大地、そして硬化の。
その中でも護は別格だった。
訓練の内容が変わっても常にトップの評価を受けている。出力、精度、応用、どれを取っても他の生徒と一段階違う。教官たちの命令に対して無駄のない動作で応え、終わったら静かに次を待つ。感情を表に出すことがない。笑いもしないが、苛立つ様子もない。ただそこにいて、やるべきことをやっている。
俺は入学から三日目にして、護がこの鍛錬所のナンバーワンだと確信していた。
問題は、その理由が分からないことだ。
硬化は強い系統だ。防御と攻撃を兼ねられる。だがそれだけなら、似た系統を持つ生徒は他にもいる。護の硬化はどこか質が違う。初日に見た、虫を標本にしたあの場面——あの精度は、系統の強さだけでは説明がつかない。
訓練の休憩時間に、俺は護に声をかけた。
「なあ、ちょっといいか」
護は振り向いた。表情は変わらない。
「硬化って、対象を選べるのか。初日に虫だけ固めて、自分の手は無事だっただろ。あれ、どうやってる」
少し間があった。
「触れた面積と圧力を調整している」
それだけ言って、護はまた前を向いた。
俺は続けた。
「感覚で?それとも計算してるのか」
「感覚だ」
「すごいな」
護は何も言わなかった。
俺は少し考えてから、隣に座った。護が特に拒否する様子もなかったので、そのまま続けた。
「俺、命っていう。廃都出身でスカウトされてここに来た。お前は?」
「護。ウィータ生まれだ」
「じゃあ鍛錬所は初めからここが目標だったのか」
「そうだ」
会話が続かない。護が打ち切っているわけではなく、必要なことだけを答えて終わりにしている。それ以上でも以下でもない。
俺はなんとなく、もう一つだけ聞いた。
「なんで強くなりたいんだ」
今度の間は少し長かった。
「必要だから」
それ以上は言わなかった。俺も聞かなかった。
その答えはどこか、俺が持っている答えと似ていて、まったく違う気がした。俺が強くなりたい理由は、あの爆破された街から生き残った日から続く、漠然とした「もっと先へ行きたい」という感覚だ。必要、という言葉はもっと具体的な何かを指している。
午後の訓練が始まった。
その日の課題は距離を置いた標的への業の精度測定だった。十メートル先に置かれた石板を、業で破壊する。範囲外への影響を最小限に抑えることが条件だ。
柊が風圧で石板を割った。大地が地面を伝わらせた衝撃で砕いた。どちらも精度は高い。
護の番になった。
護は石板を見た。五秒ほど静止した後、地面に手を当てた。
石板が白く変色した。表面から内部まで硬化が浸透する。次の瞬間、石板は内側から崩れるように砕け散った。周囲への影響はほぼゼロだった。
教官が何か書き留めているのが見えた。
俺の番になった。炎を集中させて石板に当てた。石板は割れた。範囲内には収まっていたが、熱が周囲の空気を揺らしていた。教官がまた何か書き留めた。
「命、熱の拡散を抑える練習が必要だ」
分かっていた。精度でいえば護の足元にも及ばない。
訓練が終わった後、俺はもう一度護の横に並んだ。
「お前に追いつくのに、どのくらいかかると思う」
護はこちらを見た。
「さあ」
「正直に言ってくれていい」
少し間を置いて、護は言った。
「お前の炎は出力が高い。精度が上がれば話は変わる」
褒めているのか突き放しているのか、判断がつかない言い方だった。だが護が俺の業をちゃんと見ていたことは分かった。
「じゃあ精度を上げる」
護は何も言わなかった。
それでいいと思った。こいつはそういう奴だ。余計なことを言わない。感情も見せない。ただ、必要なことだけをやっている。
なぜそうなったのかは知らない。だがその静けさの奥に、何か重いものがあることは、なんとなく分かった。
俺はそれを聞かなかった。今はまだ、聞く必要がない。




