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第三話:兄弟の誓い

第三章:アーティファクト百科


鋭いチャイムの音が教室に鳴り響き、ひそひそ声や教科書の擦れる音を一気にかき消した。


普段は真面目なアナールが、突然ラミレンの机に身を寄せ、肘が触れそうなほど近づいてくる。


「おい、もうチャイム――」


ラミレンは驚いて眉を上げ、言いかけた。


だがアナールはそれを遮るように、周囲を気にしながら声を密やかな囁きに落とす。


「なあ……ずっと聞きたかったんだけどさ。そのブレスレットのこと」


ラミレンは自分の手首に視線を落とした。くすんだ光を放つ、古びた革のブレスレット。


「これ? 一年生の頃からつけてるけど。どうかした?」


突然の関心に、首を傾げる。


「いや……別に……ただ……」


アナールは一度言葉を切り、教室を見回してから、さらに身を乗り出した。ほとんど友の耳元に顔が触れそうな距離だ。


「それってさ……家族の護符なんだろ?」


「まあ、そう言えなくもないな」


ラミレンはブレスレットを指でくるりと回す。


「親父の、じいちゃんの、その前もそうだったらしい。普通の家宝だよ。学校に行くときに“お守り代わり”だって渡された」


「ふーん……」


アナールは意味ありげに息を吐いた。その目には、どこか落ち着きのない、妙な熱が宿っている。


「じゃあさ……何か、特別な力とか……ないの?」


「特別な力?」


ラミレンは思わず笑いそうになり、ブレスレットを見つめた。擦れた革、古い留め具。どう見ても、普通だ。


「漫画の読みすぎじゃないか?」


「違う、聞いてくれ!」


アナールは抑えきれない様子で、声をひそめたまま続ける。


「じいちゃんが言ってたんだ……古い伝承さ。見た目は普通でも、中に力を宿した物があるって。指輪、ブレスレット、ペンダント……忘れられた力を持ってて、代々受け継がれるんだ」


ラミレンは半分しか聞いていなかったが、アナールが震える手でリュックを探るのが視界に入った。


「親はさ、じいちゃんがボケたって言うけど……子供向けの昔話だって。でも……俺は、ちょっと信じてる」


独り言のように続けながら、アナールは一冊の本を取り出した。革表紙の、かなり使い込まれた本だった。


「じいちゃんがくれたんだ。誰にも見せるなって言われたけど……お前なら、いい」


そっと開かれたページには、簡素な挿絵と古めかしい文字が並んでいる。ラミレンは、思わず身を乗り出した。


「……『アーティファクト百科』?」


「名前は大げさだけどさ。持ち主に影響を与える物がある、って書いてある。ほら……これ」


指差された挿絵に、ラミレンの視線が止まる。形は曖昧だが、どこか――自分のブレスレットに似ていた。


「……すげぇ」


自分でも意外なほど、声が低くなる。文字は奇妙だったが、妙に惹きつけられる。


「まだ全部読んでないけどさ、全部魔法の話だ! しかも、すごく具体的なんだ!」


アナールの目は輝いていた。


前の席では、マリアが顎を腕に乗せ、二人をちらりと見ていた。会話は聞こえない。だが、アナールの熱のこもった表情と、ラミレンの真剣な横顔は見えた。


――自分だけ、そこに入れない秘密。


その感覚が、彼女の胸に小さく引っかかった。


突然、机に影が落ちる。ラミレンが顔を上げた。


腕を組んだ教師が、アナールの真後ろに立っていた。


「アナール。方程式じゃなくて、ずいぶん熱心に何を話しているんだ? よかったら、みんなにも聞かせてくれ」


空気が、一瞬で凍りついた。アナールはびくりと肩を震わせ、本を落としそうになる。反射的にパタンと閉じ、そのままリュックに突っ込んだ。


「ぼ、僕たちは……」


顔が一気に赤くなる。頭が必死に言い訳を探す。本は見せられない。絶対に。


「……女の子の話です!」


勢いだけで、口から飛び出した。


教室が静まり返った。ラミレンは固まる。(はあああ?!)


ゆっくりと、悪夢を見るように前を見る。――マリアの視線が、刺さる。


そこには、疑いと、軽蔑と、「本気で言ってるの?」という問いが混ざっていた。まさに殺意レベルの鋭さだ。


「ラミレン。それは本当か?」


教師の視線が向けられる。背中に、冷たい汗が流れた。否定すれば、リュックを調べられる。秘密は、終わる。選択肢はなかった。


ラミレンは、ゆっくりと机に額を伏せる。


「……本当です」


死刑宣告を受け入れるような声だった。後頭部に、マリアの視線が突き刺さるのを肌で感じる。


アナールは大きく息を吐き、今にも崩れ落ちそうになる。助かった。


「まったく……」


教師は呆れたように言った。「そういう話は休み時間にしろ。今は四十ページ、問題五だ」


残りの授業は、霧の中だった。ノートを見つめながらも、前の席の気配が気になって仕方がない。


――ありがとうな、アナール。


ラミレンは顔を上げられないまま、心の中でそう毒づいた。

読んでいただきありがとうございます!

アナールの苦し紛れの言い訳のせいで、ラミレンがとんだ災難に……(笑)。マリアの視線が刺さりますね。

でも、あの「アーティファクト百科」には、この世界の真実が隠されているのかもしれません。二人の秘密の共有が、物語を大きく動かしていきます。

続きが気になる方は、ぜひブックマークや評価をお願いします!毎日更新頑張ります!

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