課長! それは命令ですか。
オフィスビルの一室で不機嫌な様子の声が聞こえてくる。 今日も、また課長が怒っているようだ。 課長ーー真宮玲香は、俺の後輩の青木に詰め寄っていた。
「何度言ったらわかるの? 同じミスを繰り返さないで!」
「申し訳ございません」
「もういい⋯⋯佐伯悠人」
「はい、申し訳ございません、私の教育不足です」
俺は彼女に呼ばれて、前にでる⋯⋯彼女は俺を見て文句を言う。
「そうね、本当に。 貴方、どう言う教育をしているのかしら」
「青木にはしっかり言い聞かせますので」
「当たり前よ! こんなことで何回もミスされたらたまらないわ⋯⋯まったく」
彼女はそう言ってそっぽを向いて手を払う仕草をした⋯⋯俺は青木を連れて元の席に戻る。
「すみません、佐伯先輩」
「どうした青木⋯⋯今日はミスが多いぞ」
「それが⋯⋯病院から連絡があって、妻の出産が今日になったって」
「どうしてそれを早く言わないだ! ほら、今すぐ言って来い」
「でも、今日中に終わらせないといけない仕事が⋯⋯」
「俺がやるから⋯⋯ささっと行け! 連絡も俺がしておくから」
俺がそう言うと青木は涙を流しながら、荷物を持って駆け出して行った⋯⋯さて今日は残業確定だな、机を見ながら小さくため息をついた。
街のネオンが眩しい⋯⋯俺は「今日も遅くなったな」と、呟く。 俺はそっと部屋の玄関を開けて中に入り、リビングに入ると、ソファーでのんびりと寝込んでいる彼女ーー真宮玲香と目があった。
「⋯⋯まだ起きていたのか。 明日も仕事なんだから、早く寝ないと体に良くないぞ」
「ねぇ貴方、私と仕事どっちが大事?」
「仕方ないだろ⋯⋯青木から連絡があったぞ、無事に出産出来たってな」
「言い訳なんて聴きたくないわ、こっちに来て」
そう言うと彼女は、寝転んでいた姿勢を正して座り、手で隣の位置を叩いた、ニコニコとする彼女。 だが俺は断る。
「先にシャワーを浴びさせてくれ」
「わかったわ、じゃあそうしましょう」
納得してくれたか、俺はバスルームに向かい服を⋯⋯
「真宮、俺は今から風呂に入るから」
「れいか」
「⋯⋯玲香、俺はこれから風呂に入るから」
「一緒に入ろ? 悠人!」
ーー 数十分後ソファーでホクホクした彼女とゲッソリした俺がいた。
「悠人? 疲れてるの? じゃあ、私が食べさせてあげるね。 はいあ〜ん!」
「いいから⋯⋯自分で食べるから」
「そう⋯⋯でも残念! 箸はこれしかないよ~」
「嘘だろ、取りに行く」
「駄目です! 課長命令です~はいあ~ん」
便利すぎだろ課長命令⋯⋯俺は立ち上がるのを諦め彼女の指示に従う。 口を開けて入れられたご飯を食べる。
「うんうん良く出来ました! 偉い偉い」
「はいはい、どうも。 お褒めいただき光栄です」
「はい、じゃ次、私の番! お願いね!」
彼女が期待の眼差しでこちらを見てくる⋯⋯俺は
「うん、美味しいなこれ」
「ずるいわ! なんで食べさせてくれないの~」
「あ~ご馳走様でした、はいこれ、箸返すわ。 じゃあ、おやすみ」
こう言う場合は逃げた者勝ちだ、俺は寝室へと向かい布団に寝転んだ、疲れていたのかすぐに意識が遠くなっていったのだった。
「は~あよく寝た」
「昨日はお楽しみでしたね!」
「はあ? 何言ってるんだ玲香?」
「悠人、酷い! 覚えてないの? 昨日あんなに責めあったのに!」
嘘は言ってないな、言い方が怪しいだけで⋯⋯俺はため息を吐くと起き上がり、背伸びをした。 カーテンから浴びる光を浴びて気合いを入れた。 よし、今日も一日頑張るぞ。
「え~何気合い入れてるの?」
「課長、仕事行きますよ」
「嫌よ! 仕事は全部青木に任せましょう! うんそれがいいわ、今日は彼、昨日の分も張り切って仕事してくれるわ! えぇそうしましょう悠人」
ベットの上でジタバタと駄々を捏ねる彼女に俺は言う⋯⋯課長! それは命令ですか?




