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俺が描いた絵が62億円で落札された‥だと!?  作者: 角山亜衣
第1部 芹沢編

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1-9.黒い道標

 荒木と手を組んでから、二日後──


 俺たちが闇オークションに流した『Diffusix 3』が、信じられねぇ額で落札された。


「荒木……夢を見てるみてぇだよ。こんな桁、見たことねぇって」


 俺名義で作った口座には、8桁の数字が並んでいた。


「ボクの言ったとおりになったろ? ボクの伝手と、”キミの協力”があれば当然の結果さ」


「マジかよぉー、ははっ、はははっ!」


 俺の協力ったって、やったことと言えば──

 荒木が用意したアカウントで『Diffusix 3』を出品して、ネットにハッタリの情報をちょいと拡散しただけだぜ。

 たったそれだけ──昨日の今日で、こんだけの金が手に入るなんてな!


「さぁ、次はー、『Diffusix 4』にしようか。昨日と同じように、また頼むよ。相棒!」

「おお! 任せとけ!」




◆ ◆ ◆




 出品が終わったあと、口座の金を一旦、他所の口座に送金する。

 報酬は後日、現金で手渡しされる予定だ。


『さすがに満額とはいかないが、働きに見合った報酬を用意するから、期待しててくれ』

 荒木はそう言っていた。


 ここ数年の”負け”を全て清算しても余りある報酬が、もうじき俺の懐に転がり込むんだ。


(柳田さんにだけはバレないようにしねぇとな……)


 そうして、『Diffusix 4』の次は『Diffusix 1』と順調に事が運び、トータルで億単位の金が俺名義の口座を通り過ぎていった。




◆ ◆ ◆




 すべてが順調に思えたある日、


──────────

一ノ瀬:

 ちょっと!

 去年あたしらが描いた絵、オークションに出てんだけど!?

 誰か知ってる?

──────────


(ヤベェかも……)


 1コ下の一ノ瀬椿。軽く遊んでそうな見た目に反して、正義感の塊みてぇな女だ。アイツにバレたとなると、ネットでバラまいたハッタリも全部嘘だと言って真相を投稿しかねない。


(とにかく、荒木に相談して──)


──────────

荒木:

 僕もネットを見て気づいた。

 とりあえずアトリエ集合。

──────────


(な! マジかよ! 動じてねぇ……)


 きっと、こうなることも想定して、何か手を考えてあるに違いない。

 任せるぜ? 相棒──




◆ ◆ ◆




 アトリエのドアを開けると、既に荒木と一ノ瀬、それに真鍋凛も揃っていた。


「待たせたな。寺島と結城は──連絡着かねぇんだったか」


「ああ、とりあえず、今大学に居るメンバーはこれで全員だ」


 荒木、落ち着いてんなぁ。


「コレ! 見てよ、コレ!」


 そう言って一ノ瀬はスマホの画面を突き出してくる。

 そこには『Diffusix 4』が、60万ドルほどで【Complete】しているスクショが映っていた。


「なっ……なんだよーそれー」


「もー、凛ちゃんの絵だよね、コレ。凛ちゃんは何もしらないって言うし、だったらサークルの誰かが持ち出したんじゃないの!?」


 一ノ瀬は、完全に俺を疑っていやがる。まぁ無理もねぇ。こん中で”そういうこと”をやりそうなのは俺しかいねぇだろ。

 下手なことを喋るとボロが出かねねぇ。俺は荒木に視線を送って助けを求める。


「まぁまぁ、落ち着いて。椿ちゃん。──昨年、俺たちが遊びで描いた『Diffusix』シリーズ。ここに放置してあったはずなので、改めて探してみたけど……1枚も無いんだ」


「1枚も?」


(あれ? 『Diffusix 5』と『Diffusix 6』は回収してなかったはずだが……)


「椿ちゃんのスクショを見る限り、海外のオークションサイトのようだね。そっちの方はボクの伝手で出品者を調べてみよう。すぐにわかると思うから、今、騒ぎを大きくする必要はない。そうだろ?」


「ま、まぁ、そうですね。あたしだって大事おおごとにしたいワケじゃないんだけど……けど、60万ドルって……日本円でいくら?」


「んー……レートにもよるけど、8,000万円以上にはなるんじゃないかな?」


「ええーー!! そそそそれ、凛ちゃんには1円も入らないのよね?」


「まぁ、そうだな。誰がこのお金を手にしたのかわからないし……」


「ちょっと凛ちゃん、少しは怒りなさいよ! 凛ちゃんの絵が盗まれたんだよ?」


「えー、でもぉ、なんかテキトーに描いちゃったやつだし、それが、そんな値段になるなんて逆に、ごめんなさいっていうかぁ……」


 しばらくの間、わーぎゃー騒ぎ立てて、気持ちが落ち着いたのか、静寂が訪れた。


「ひとまず、アトリエのドアにはカギを付けてもらえるように、ボクから事務局に頼んでみるよ。ここに居ないメンバーを疑うのも良くないし、後日、ボクからの報告を待ってくれないかな?」


 一ノ瀬も納得して、その場はお開きとなった。




◆ ◆ ◆




 その日の夜──


 俺は荒木に呼び出されて、人気ひとけのない公園で落ち合った。


「芹沢、一ノ瀬を、どう見る?」


「え? どうって……」


「『Diffusix』シリーズがオークションに流れていたのを知られた以上、道は二つに一つしかないんだ」


「………………それって、どういう意味で……」


「仲間に引き込むか、さもなければ…………わかるよな?」


「っ!……(ごくり)……いや、さすがに、それは…………」


「これはキミのために言ってるんだ。彼女が騒ぎ立てて『Diffusix』シリーズが、僕たちが描いた、ただのラクガキだったと──裏表の世界に知れ渡ったら、どうなると思う?」


 柳田さんの顔が浮かんだ。そのバックには暴力団が。さらに世界中の組織を騙して億単位の金を、既に手に入れてしまっている。


『釣りは好きか?』という柳田さんの声が聞こえた気がした。


「一ノ瀬は……絶対に俺たちを許さねぇよな。あいつ、正義感だけは人一倍だから」


「決まりだな。芹沢、ヤれるか?」


「俺が!? どどど、どうやって!!」


「手段は任せるが、事故に見せかける必要がある。これだけは絶対だ。それが済めば、ボクたちは心置きなく大金を手に入れることができるんだ。億単位の金を、ね」


「億単位の大金……」


「キミへの報酬は、すでに一億を超えているんだよ?」


 この時、恐らく俺は、笑っていたんだと思う。

 俺の顔を見た荒木が、安心したように握手を求めてきた。


 ・

 ・

 ・


 翌日、大学で一ノ瀬を呼び留め、誰にも聞かれたくない話があるからと言って、夜に改めて二人きりで会う約束をした。

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