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俺が描いた絵が62億円で落札された‥だと!?  作者: 角山亜衣
第1部 芹沢編

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1-8.破滅への序曲

 あれから数日、俺はできるだけ柳田さんに会わないようにしていた。


 あのハッタリがバレてやしないか、ヒヤヒヤもんだ。


 いつもと違うコンビニで立ち読みしてると、渇いた声が背中から飛んできた。


「ぉお? 芹沢じゃねーか」


 振り向くと、柳田さんが満面の笑みで立っていた。


(ヤっベ!? なんでこんなとこに……!?)


 そんな笑顔、今まで見たことが無い。逆に怖い。やっぱバレたか!?


「お前ぇ、今暇だろ? ちょっと付き合えや」


「……っす」


 俺の人生、終わったかもしんねぇ。




◆ ◆ ◆




 連れて行かれたのは高級そうなクラブだった。


 これまでも何度か、柳田さんには良い思いさせてもらってるけど、こんな高級そうなとこは初めてだ。


『悟ちゃ~ん♡ また来てくれたのね! 今夜はお連れ様も? さ、入って入って♡』


 豪華なドアの向こうは、まるで別世界。

 煌びやかな照明にドレスアップした女性たちの笑い声が弾けていた。


 柳田さんは常連みたいな顔で店内へと進んでいく。


(マジかよ……俺、場違いすぎんだろ……)


 VIPっぽい個室に通されると、すぐに数人の女の子が寄ってきた。

 シャンパンのボトルがズラリと並べられて、まるでドラマのワンシーンみたいだ。


「芹沢、今日はパーッとやるぞ! 好きなだけ飲め!」


 柳田さんが嬉しそうに言う。

 その顔は本当に、これまで見たことがないくらい上機嫌だった。


(もしかして……俺の、”最後の晩餐”的なヤツなのか!?)


 女の子が俺の隣に座って、お酒を注いでくる。


「初めまして~、芹沢さん♡ 悟ちゃんの後輩さんかな?」


「は、はぁ……まぁ……」


(ワケがわかんねぇから、全っ然楽しめねぇ……)


 ビクビクしながらシャンパンを口に運ぶと、柳田さんが唐突にグラスを掲げた。


「なぁ芹沢、お前、最高だぜぇ~!」


「や、な、なんすか急に?」


 柳田さんは顔を近づけてきて、小声で囁いた。


『例の絵だよ。お前ぇが持ってきたラクガキ。オークション出したらお前ぇ、いくら付いたと思う?』


 後半はもう興奮気味で、部屋中に聞こえてるっすよ。


「800万だぞ! 800! 俺の取り分だけでも十分に稼がせてもらったぜぇ~。あんがとなぁ~芹沢ぁ~。俺ぁい~ぃ後輩を持ったぜぇ~なぁ~芹沢ぁ~」


 酔いが回るの早くないっすか!?

 女の子たちも一緒になって盛り上がってっけど、どこまで知ってんだ?


 ──ってか、800万って言った!?


「芹沢ぁ~、アレ、他にもねぇのか? 全部で6枚あるっつてたよなぁ~」


「や、あれはー、そっすね。たまたま。そう、たまったま手に入れたっつーか……」


「そうかぁ。何かまた面白ぇネタがあったら、絶対すぐ俺に回せよ? ほら、もっと飲め飲め! それともコッチが良いのかぁ~? ひゃ~っはっはっ!」


 そう言って隣に座っていた女の子の胸を豪快に揉みしだく──。


(……バレてねぇ。どころか、これ、めっちゃラッキーな流れ、キテんじゃね……?)


 『Diffusix』シリーズは、まだ5枚ある。


 このカードを切るタイミングだ。


 小出しにするか、いっぺんに切って勝ち逃げすっか──


 ヤッベ! 流れ、完全にキテる!!




◆ ◆ ◆




 夢のような一夜から数日後──


 俺はコッソリと、アトリエに向かった。

 もちろん、残りの『Diffusix』シリーズを回収するためだ。


 アトリエ内の棚は、一応個人別にしてあるので、探すのも一苦労だ。


(よし、『Diffusix 3』と『Diffusix 4』は見つけた。こんだけでも、1600万はイクんじゃね?)


 その時、アトリエのドアが開いた。


「よっ、芹沢」


 ──荒木だ。俺の同期で、親がやり手の実業家らしく、金持ちのボンボンみてぇなヤツだ。


「お、おお、荒木か。どうしたんだ? こんな時間に」


「”こんな時間に”か、それならそれは、”お前こそ”、だろ」


「や、これは……別に……」


「……『Diffusix』シリーズ……か。それをどうしようっていうんだ?」


「別にどうもしねぇよ。ちょっと棚を整理してただけで……」


「くくくっ。いや、すまん、すまん。知っててワザと困らせるような言い方をした。ちょっとした意地悪ってやつだ。許せ」


「何を言って……」


「とぼける必要はない。キミが描いた絵を、キミがどうしようと、それはキミの勝手だ。が、他のヤツが描いた絵に、無断で手を出すのは……どうかな?」


(コイツ……どこまで知ってやがんだ?っつーか、相変わらず回りくどい喋り方しやがる)


「まぁ、そう警戒するなよ。僕は儲け話を持ってきたんだ」


「儲け話……だと? お前がか?」


「そうさ。僕の言う通りにすれば、大金を稼ぐことが出来るはずだが、どうする?」


「と、とりあえず、話を聞かせてくれよ。内容次第では──」


「その前に、キミの話を聞かせてくれないか? 『Diffusix 2』を金に換えた、ルートについて……とか」


(や、やっぱり知ってやがった!? なんでだ? 荒木は、こっちの世界じゃねぇはず……いや、実家の伝手か? 何の商売か知んねぇけど、やたら羽振りが良いみたいだし……裏稼業ってヤツなのか!? 場合によっちゃ、柳田さんとこの組より……)


「わ、わかった──」


 俺は柳田さんとのことを、包み隠さず荒木に打ち明けた。


 ・

 ・

 ・


「なるほど。僕が得ている情報と、ほぼ合致した。それで、キミは残りの『Diffusix』シリーズを持ち出して、柳田って男に渡すつもりだった……そうだな?」


 荒木の芝居がかった身振りと喋り方がすげー鼻に突く。


「ああ、そうだよ。こんなラクガキが数百万で売れっかもしんねぇんだぜ」


「芹沢……キミさ、『Diffusix 2』を柳田に渡して、代わりに何を得ることができたんだ?」


「な……そ、そりゃ…………」


「身に覚えのない借金がチャラになって? 一晩だけ良い思いができた。それだけだよな」


「………………」


「ハッキリ言おう、芹沢。キミは──」


 荒木は突然に顔を寄せてきて、耳元で囁く。


「柳田に、利用されているだけだよ」


(!?)


 薄々勘付いてはいたが、改めて言われると刺さるもんがある。


「ボクと組もう、芹沢。ボクたち二人なら、数千万、いや数億だって夢じゃない。そのためには、キミの協力が必要不可欠なんだ」


(俺の協力が……必要?)


 他人から“必要”とされたことなんて、今まで、俺の人生の中であったか?


「キミにしか出来ないことがあるんだ。ボクの力になってくれないか?」


 ・

 ・

 ・


 いくら稼げるかなんて、問題じゃなかった。

 必要とされている──それだけで十分なんだ。


 荒木が差し出した手を、力いっぱい握り返していた。

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