1-5.美しき謎探偵
「お待たせしました。わたくし、私立探偵の峰岸と申します」
そう言って前かがみになり、名刺を差し出す超絶美人のモデルさん。
この人が私立探偵でしたか! 胸元、無防備過ぎやしませんか!? 黒っ!
慌てて立ち上がろうとしたものの、ソファーが柔らか過ぎてジタバタともがいてしまう。
「んふっ♡ そのままで結構ですよぉ~」
余裕の笑顔で彼女──峰岸さんは対面に腰を下ろした。
短めのタイトスカートだもの、見えてしまいますよ。そりゃあ。 黒っ!
絶妙な角度に脚を揃える仕草が、また、たまらない。
これは絶対に狙ってやってるだろ、と疑いたくなる。
俺は必死に視線を誤魔化した。
「それで──今日はどのようなご用件でしょうか?」
「あ、あの、な、なんていふか」
「ん? 随分と緊張してるみたいね。こういうトコロは、初・め・て?」
(本気で間違えてないよな!?)
室内に目を走らせるが、至って普通のオフィスだ。
お、落ち着け俺。
プランだ。プランを構築するんだ。
(探偵に何を相談しようとした? まずは音信不通のメンバーの所在だ。できるなら、椿ちゃんのことや芹沢さんのことも何があったのか知りたい。寺島さんだって今どこで何をしているのか……。けど、そんなに何人もの調査を頼めるのか? 大体、お金はどうする? 一人調査するのだって何十万もかかるはずだ。だとすると誰を探してもらう? 荒木さんか。しかし何十万をかけて連絡が付いたとして、それで何がわかる? 椿ちゃんのこと? 芹沢さんのこと? 『Diffusix 6』のこと……。『Diffusix 6』のことを調べてもらうのはどうだ? 俺が46億も持ってることはバレないようにしておこう。そうだ。『Diffusix 6』のことを……)
──3秒、ダメだ。思考がまとまらない。
「えっと、変な質問になっちゃうんですけど、そもそもこんなこと頼めるのかどうか……あ! もしかして、今のこの時間って、相談料とかそういうの発生しちゃってます!?」
「ふふっ♡ 大丈夫ですよ? まだご相談前のご確認ですから。料金が発生する際には事前にお知らせしますね♡」
「あ、良かった。ありがとうございます。あの、僕、大学でサークルに入ってて、そこで作った物を、誰かが勝手に持ち出して売っちゃったみたいなんです」
「あらあら、持ち出したのは、ご友人? お心当たりは?」
「三人ほど目星は付いているんだけど、みんな連絡が取れなくなっちゃってて……」
「なるほどねぇ。では、ご依頼内容としては、”人探し”……ってことで、良いのかしら?」
「あ、いえ、そいつらのことは…………いいんです」
俺は何を求めてここに来たんだ?
チラシのモデルに惹かれただけか?
──────いいや、違う。
”相談できる相手”が欲しかったんだ。
”信頼できる仲間”が、欲しかったんだ。
(そうだ。今、俺がやるべきなのは、この美人の私立探偵さんが、信頼に足る人物かどうか見極めることだ。よし)
「実は2~3週間ほど前、大学の友人が亡くなったんです。ちょうどその頃、俺のスマホ壊れちゃってて連絡が取れなくなってて……。昨日、新しいスマホ買って、それで知ったんだけど……」
「そうなのね……お気の毒に」
峰岸さんは神妙な面持ちで目を伏せる。その仕草はスタイルなのかもしれないが、気遣いはできる人のようだ。
「で、その友人てのは、俺の高校んときからの同期なんだけど、実家の連絡先とかも知らなくて……。いつ、どうして亡くなったのかとか、何にもわからなくて……。そういうの、調べてもらったりって、できますか?」
「もちろん調べられるわよ。そうね、三日もあれば──十分かな」
「それじゃ──」
「こちらからも、いくつか質問させてもらってイイかしら?」
「あ、ハイ!」
「そのご友人と、あなたの関係について、少し教えてもらえる?」
「はい、えーっとー、高校が一緒だったってだけで、特別仲が良かったわけじゃなかったんだけど、大学で一緒のサークルに入らないか?って誘われて……。主にサークル活動を共にしていたくらいです」
「サークルでは、どんな活動を?」
「えーっと……文化系のサークルで、みんな好きなように作品作ったりしてました。アトリぇ……部室に集まってお喋りしたり、飲み会やったりがメインって感じでした」
「そのサークル内で、いわゆる男女の揉め事や金銭絡みのトラブルみたいなことは?」
「ええ、男が四人で、女が二人でしたけど、そういうのは無かったです。友人とも、ホント、ただの友達だったので、男女のそういうのは……。あと、ギャンブル好きの仲間が1人いたけど、お金の貸し借りとはありませんでした」
「そうなのね。ありがとう♡ 最後に一番重要な質問なんだけど──」
(ごくり)
「ご予算は、どの程度ご用意できるのかしら?」
「予算──あ、お金ですか。えっと──、こういうトコロ、初めてなので、その、相場とかもわからなくって……」
「そうねぇ~例えば、ご友人の実家を特定して、死因の確認と、不審な点が無いかも確認するとしたら──50万円ってとこかしら」
「なるほど……」
なるべくなら、あの大金に手は出したくないんだけど、どうしようかな。
「でも、あなた──初めてってとこもだけど、なんだか面白そうな人ね。気に入っちゃったから、特別に30万円で良いわよ?」
「え、面白……そう?」
「ん──最初は普通に、生活に困窮している苦学生さんかな?って思ったの。服装や雰囲気、あとスマホね。昨日”新しいのを買った”というわりには、数年前のモデルよね? ケースやストラップ、スクリーンシートなんかのアクセサリー類は付けずに剥き出しのまま携帯している。そういうのにはお金を掛けたくないって人もいるけど、稀よね。あと、事務所に入ってきた瞬間、ファーストフードの匂いがしたから、ここへ来る前に食事を済ませてきたんじゃないかしら? この通り沿いには飲食店がたくさん並んでいる中でファーストフードをチョイスするってことは、もちろん単に好みってこともあるけど、生活水準は少なくとも中の下、もしかするとそれ以下、と推測できる。それなのに──、『50万円』という金額を提示されても全く驚く様子は見られなかった。既に亡くなっている、ただの友達について調べるために”生活に困窮している苦学生”がポンと出せる金額ではないはずよ。さらに──」
なんか、すっごいベラベラとしゃべり始めたぞ。
これが探偵ってやつなのか?
自分の推理や洞察力を披露することに喜びを感じるタイプ──。
「あなた、なにか重要なことを、知られないように”意識して”伏せているわね」
あ、図星です。
「でもそれは、今日初めて会った私を、信頼できるかどうか見極めようとしているから」
それも図星です。
「この商売、依頼人との信頼関係を築くのが何よりも大切なのよ。だから、今回の依頼、格安で引き受けて期待以上の成果を出してみせるから、安心して任せてちょうだい!」
すっごく美しいキメ顔をしてらっしゃるけど、この依頼を達成したら本命の『もっと金になる依頼をプリーズ』って言われているように思えてならない。
そうだとしても──
「さすがですね。色々と思うところはありますが、30万円でお願いします」
「プラス必要経費も請求させてもらうけど、良いかしら?」
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しっかりしてそうで、どこか抜けてそうな、超美人のセクシー探偵さん。
信頼できる仲間になってくれることを切に願う!
そして、もしも叶うなら、俺の知らない世界を色々と教えて欲しい♡
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